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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

〔トルコ〕アンカラ爆弾事件(7)◆第2の自爆攻撃~自爆戦闘員は女性

◆無差別攻撃の先には何があるのか

3月13日、トルコ・アンカラで再び爆弾事件が起きた。今回は軍の車列を狙ったものではなく、30名を超える一般市民が犠牲となった。トルコ当局は事件の早い段階で「PKKが関与」と公表、イラク北部にあるクルディスタン労働者党(PKK)軍事拠点に対する空爆を開始した。

事件から4日後、クルディスタン自由のタカ(TAK)を名乗る組織がサイト上で声明を公表。2月17日に続いてのアンカラ中心部での爆弾攻撃をTAKが行なったことになる。TAKはPKKと一体とトルコ政府がみなしている組織だ。自爆戦士として公表された女性がかつてPKKに所属していたのはほぼ間違いなく、2月と今回のアンカラでの爆弾事件が、PKKの思惑のもとに起きていると見られるのは避けられない。

f:id:ronahi:20160321211104j:plainクルディスタン自由のタカ(TAK)が3月17日にウェブ上で公表した声明文ではアンカラでの攻撃は、(トルコ南東部の)ジズレでの住民虐殺に対する報復であり、軍施設を標的としたが、警察に阻止されたことによって市民が巻き込まれた。市民の犠牲については哀悼を表明する」などとしている。だが、どのような「大義」があろうとTAKの無差別爆弾攻撃に支持が得られることはないし、社会の反発を招くだけだろう。

PKKはこれまで「TAKとは無関係」としながらも、TAKの行為を非難したり、自制させるような行動はとってこなかった。なによりPKK自体、90年代には自爆攻撃を繰り返していた。TAKの声明文には「市民が犠牲となった責任はすべて(エルドアンの)公正発展党(APK)政権にある」などとしているが、無差別爆弾事件に対する社会の批判は高まるばかりか、政府のさらなる強硬姿勢を招くだけである。ただクルド人には、昨年の総選挙でクルド政党が躍進した結果を無効にされ、かつてないほどのエルドアン政権の強権政治が強まるなかPKKが追い込まれた結果、過激化したという見方が多い。なにより昨年のISによる自爆攻撃で最大の犠牲者が出たウルファとアンカラの2つの事件はいずれもPKK支持のクルド人が狙われている。ISはこの攻撃の声明すら出しておらず、事件の背後にエルドアン政権が関与していると見るクルド人は少なくない。

f:id:ronahi:20160321211124j:plainTAKの自爆要員で女性は初めてである。写真がアンカラで自爆を実行したセヘル・チャウラ・デミルとされる女性。トルコメディアは、トルコ・カルス出身の26歳で、大学で観光学を学んだが、2013年に消息を絶ち、シリア・コバニの人民防衛隊(YPG)でアヴァシンという組織名で軍事訓練を受け、トルコに潜入して事件を起こしたと報じているが情報の真偽は今のところ不明だ。右の写真はメーデーデモに参加したときのものと見られ、プラカードにはトルコ語とクルド語で「メーデー万歳、平和万歳、社会主義万歳」とある。(写真はメディアが報じたものから引用)

イスラム国(IS)に対し、PKKを母体とするシリアのクルド・人民防衛隊(YPG)は、アメリカの軍事支援を受けながら戦い、クルド人 への国際的な共感も広がった。その有利な局面で、PKKはトルコの南東部で武装闘争の拡大させる路線をとった。アメリカはYPGを通じて強く自制を求めたが、PKKの過激化はまるでそれを無視するかのようだ。

f:id:ronahi:20160321211140j:plainPKKはシリアのYPGを模した軍事組織、市民防衛隊(YPS)をトルコ南東部の町々で組織し、武装闘争を激化させている。当局は治安部隊を投入し掃討作戦を展開しているが、双方の衝突は拡大し、その狭間で住民が巻き込まれている。写真はジズレ・ボタン地域のYPSの戦闘員。(YouTubeより)

ここでロシアの影響がちらつく。ロシアとトルコは、昨年11月のロシア軍機撃墜事件で険悪な関係になっている。ロシアにとってクルド問題はトルコに対し「使えるカード」であり、実際、シリアのPKK系のクルド勢力に急接近を始めた。PKKにとっては「何もアメリカの支援に頼らずともロシアの後ろ盾も期待できる」という政治判断も一連の闘争過激化の背景のひとつにあるのではないかとも推測できる。大国の都合で翻弄され、利用されてきたクルド人が、再び自ら利用されることで勢力を維持しようとしているのだろうか。多数の市民を殺害して得られるものとは何なのか。その犠牲はあまりに大きい。

f:id:ronahi:20160321223952j:plain爆弾事件の報復措置としてトルコ軍戦闘機が空爆しているPKKの軍事拠点はイラク北部の山岳地帯。トルコ、イラク、イランの国境が交わるカンディル山脈一帯にPKKの軍事キャンプが点在する。カンディルが最大拠点。これまでもこの地域には繰り返し空爆が加えられてきた。イラクへの越境攻撃のため、イラク中央政府クルディスタン地域政府も建前として抗議や地元住民が巻き込まれることへの懸念を表明しているが、いずれもPKKを排除したいという思惑もあり、トルコ軍機による空爆を事実上「容認」している。トルコ軍機はディヤルバクルから出撃する。

f:id:ronahi:20160322044824j:plainイラク、イラン、トルコの3つの国境が交差する山岳地帯のPKKのイラク北部軍事キャンプで、対空砲を構える女性ゲリラ。中央先がイランで、左がトルコ。トルコ軍の爆撃に加えイラン軍の砲撃もある。(撮影:坂本)

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