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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

デンマーク当局、クルド衛星放送 ROJ-TV(ロジテレビ) に罰金処分

◆クルド関連

 ◆クルド語テレビ裁判と民族問題
1月10日、クルド語衛星放送局ROJ-TV(ロジテレビ)に対し、デンマーク司法当局は「罰金処分」とする決定を下した。罰金金額は520万クローネ(約7000万円)。 昨年始まったこの裁判は、ロジテレビがクルディスタン労働者党(PKK)を構成する組織であるとして、デンマーク検察当局が同国の「テロ組織関連法」に基づき、同国が付与している放送事業免許の取り消しを求めていたものだ。

f:id:ronahi:20160225132607j:plainベルギーブリュッセル郊外にあるロジテレビの放送センター。会社登記と放送免許はデンマークだが、実際にはこのセンターで番組が制作される。(2004年・撮影:坂本)

f:id:ronahi:20160225132617j:plainベルギーの放送センターはベルギー警察に度重なる家宅捜索を受けている。2008年には、抗議するクルド人らと機動隊が衝突し、放水車まで出動。写真は放送センターを封鎖して放送機材を押収する機動隊

f:id:ronahi:20160225132624j:plainPKK中央政治局のムラット・カラユランの声明を伝えるロジテレビニュース。放送内容が偏向しているかどうかに加え、放送局自体がPKKと関与しているとデンマーク司法当局は指摘してきたが、NATO事務象徴選出問題での政府の政治的思惑もからみ、メディアも注目する裁判となった。

f:id:ronahi:20160225132634j:plain歌番組の収録風景。トルコでは近年になるまでクルド語の歌も歌詞はトルコ語に変えられていた。2008年にトルコがクルド語放送を部分的に認めるようになり、状況はすこしづつ変わりつつあるが、それまではテレビでクルド語民謡、歌に接する唯一の機会がロジテレビだった。PKKの問題だけでなく、こうした全体像も見なければロジテレビ裁判の本質は見えてこない。

MED-TV(メッドテレビ)については以前詳しく書いた。(過去記事)

トルコ政府は、デンマーク当局がロジテレビに対して具体的な法的措置をとったとして、この判決を評価している。

一方、ロジテレビの側もこの判決を「勝利」として当日のニュースで花火を打ち上げる映像を交えて伝えた。「事実上の『罰金』だけの判決であり、放送免許自体が取り消されたわけではない」とする立場からだ。

イスラム教預言者ムハンマドの風刺画事件で問われた表現の自由と宗教への冒涜の問題に加え、ロジテレビをめぐり、NATO事務総長に立候補していたラスムセン元首相へのトルコの強硬な反発といった政治的問題もあり、この裁判のゆくえはメディアの注目を浴びた。

「トルコがラムスムセン元首相をNATO事務総長として受け入れるかわりに、デンマーク政府はロジテレビ閉鎖への措置をとると約束」というアメリカ大使館の公電文書がウィキリークスによって公開されると、問題は顕著となった。 結局、免許剥奪・閉鎖はしないがテロに関する法令違反で罰金という判決となった。

ある程度予想された形だったとはいえ、トルコ政府とロジテレビの双方が、「勝ったのだ」と主張する采配だ。これはデンマークがおかれた政治的立場を反映したものでもあるといえる。

「テロ組織との関連」を理由に放送内容を審理の対象とするのは難しい。テロ組織との関与を理由に告発し、放送免許取り消しや閉鎖措置を政府が命じるのなら、同じくアメリカやEUにテロ組織と認定されるレバノンヒズボラのテレビ局アル・マナールや、イランの反体制衛星テレビ局も同様に問題になるといえる。

メッドテレビよりも遅れて始まったクルディスタンTVはバルザニ議長のクルディスタン民主党(KDP)、クルドサット(KURD-SAT)はタラバニ議長のクルディスタン愛国同盟(PUK)の政治的影響下にある。どちらの局ともクルド戦士ペシュメルガを民族解放の英雄とテレビで扱うが、フセイン政権はテロリストと呼んできた。テロリストの解釈はそのときの国際政治の都合で簡単に変わり、意図的に変えられてしまうものである。

「民族的権利が著しく制限され、言論の自由や人権が侵害されてきたなかで、自分たちに何が起きているのか、知る権利、伝える権利がある」とクルド人たちは主張してきた。ロジテレビ側の弁護団は、この公判を、たんに放送内容が偏向しているかどうかを争うだけでなく、クルド人が置かれてきた苦難や弾圧の歴史についてさかのぼって弁論を展開する場とする方針だった。このため弁護団はトルコのクルド人国会議員レイラ・ザナや、ディヤルバクル市長オスマン・バイデミルらも証言者として招請したが、検察側の反対にあっている。

国を持たない民族が、強力な言語抹殺政策や同化にさらされてきたなかで、自分たちの言葉や文化を受け継いだり、守るすべを持つことは許されないのか。民族がこうした権利をどこにも、だれにも担保できないなかで、自身の手で始めた唯一の手段を奪い去っていいのか。ロジテレビ裁判は、「民族存在とその権利」への問いかけを国際社会にも突きつけたといえる。

ロジテレビのロジ Roj とはクルド語で「日(=day)」を意味する。子供番組ひとつ放送するのでさえ免許剥奪の憂き目にあってきたロジテレビの歴史は、闘いの日々でもあった。クルド衛星放送は今後もまた放送免許停止と背中あわせで、さまよい続けなければならないのだろうか。 判決後の続報記事 (2012/02/11) >>

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