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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

〔トルコ〕アンカラ爆弾事件(3)◆TAKと「奥深き国家」(デリン・デヴレット)

◆クルド関連

◆軍部とエルドアン政権、そしてクルド問題
2月17日のアンカラ爆弾事件では、政府は「現場遺体のDNA特定などから、自爆実行犯はシリアから潜入した男であり、いずれも「シリアのクルド組織・人民防衛隊(YPG)、民主統一党(PYD)が関与」と早い段階で発表。捜査当局は関連拠点を一斉捜索し、10人以上を拘束している。 ところがクルディスタン自由のタカ(TAK)を名のる組織が20日に「犯行声明」を出し、攻撃を敢行したのはTAK所属のトルコ東部のヴァン出身の青年で、顔写真もサイト上に公開された。当局はこの人物は2005年頃にイラク北部のPKK軍事拠点カンディルに行った、とし、「PKKの指示下にあった人物」という認識だ。YPG、PYDはシリアの独立した組織だが、PKKと強いつながりがあるのは事実である。またTAKは「オジャランPKK指導者万歳」とし、「別組織」とはしがたい面がある。

f:id:ronahi:20160301034259j:plainTAKが2月20日に公開した爆弾事件の「自爆攻撃敢行戦士」として公表したヴァン出身とする青年(右)。ズナル・ラペリンはクルド語組織名。(クルド語でズナルとは山麓、ラペリンは反乱を意味し、PKK系の戦闘員がよく使う)。本名はアブドゥルバキ・セメル、1989年生まれとある。(TAKサイトより)

f:id:ronahi:20160301034324j:plainトルコ南東部ディヤルバクルの集会で、PKKのアブドラ・オジャラン指導者の旗を掲げるクルド人たち。かつてはこうした旗を広げただけで「分離主義テロ扇動」とされ、長期の投獄や拷問が日常化していた。(撮影:坂本)

PKKは南東部でトルコ軍や治安機関への攻撃を激化させており、当局も大規模な掃討作戦を展開している。そうした局面で起きたTAKの攻撃が、トルコ軍によるさらなるクルド住民弾圧や、さらにはシリアへのトルコ介入の口実ともなることから、トルコ人・クルド人の識者や政治家、人権活動家のなかには、PKKやTAKの過激路線を批判しつつも、政府内の何らかの勢力の意図が動いているのではないかとする見方も出ている。

じつのところ、PKKとTAKをめぐって起きていることは、いまひとつわからない。ここまで書いておきながら、なんだと思われるだろうが、自分がよく知るクルド人たちの誰もが「わからない」と言う。そのわからなさがトルコの政治の闇の部分でもあり、PKKの組織構造の別の側面でもある。

f:id:ronahi:20160301034339j:plain2013年、トルコ政府とPKKは「停戦」に合意し、クルド問題解決への一歩か、と報じられたが、停戦は破棄され、近年、PKKはトルコ国内での武装闘争を極度に激化させている。シリアのYPGがISと戦う「正義の味方」のように世界で扱われるようになったなか、なぜPKKやTAKがトルコで過激な闘争を展開し出したのかも不明だ。PKK側にはシリアでの優位を背景にトルコから政治的譲歩を引き出せると読んでいるともいわれる。写真はイラク北部の山岳地帯カンディルにあるPKK軍事キャンプのゲリラ戦闘員。(撮影:坂本)

トルコは、Derin Devlet(デリン・デヴレット=奥深き国家)と呼ばれる。軍部やイスラム政党などいくつもの勢力が、国家内で対峙しながら工作や衝突を繰り返してきた。

ケマル主義・世俗主義に立脚する軍部は、これまで国家の「絶対不可侵」の存在だった。だがエルドアンが登場すると政府内でイスラムの影響力を高めようとし、軍部への締め付けも顕著となった。軍部にとっては、PKKという「テロ組織」が過激な事件を起こしてくれるほど、軍の存在感を示すことができた側面もある。軍とPKKが連携したり内通していることはありえないが、緊張関係を意図的にある勢力に仕向けたり、利用するような駆け引きはあったかもしれない。

f:id:ronahi:20160713081338j:plain軍部による「右派クーデター計画」として一斉に関係者が摘発されたエルゲネコン事件。退役した参謀総長や現役の軍高官らも含まれていた。これまでトルコで絶対不可侵だった軍部だが、エルドアン政権との権力闘争に敗れることとなった。

結局、エルドアン政権と軍部との権力闘争は、「軍部クーデター計画」エルゲネコンなる地下右派組織や支援者らが摘発され、軍の歴代最高司令官らが軒並み一掃されたことで一応、エルドアン側の勝利となった。だがまだ様々な勢力がうごめいている。

ケマル主義、イスラム、極右民族派、クルド政党、左派と、トルコ政府の内部はダイナミックな権力闘争が常で、それぞれの勢力が、自派だけでなく、他勢力や社会組織を巧みに使う力学で動いている。「奥深さ」の、そのまた奥にいくつもの別の闇がある、とトルコ人たちは言う。(つづく
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