読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

〔トルコ〕アンカラ爆弾事件(1)◆「クルド組織YPGが関与」とするトルコ政府(YPG声明文)全文

◆クルド関連 ◆各国・各組織声明文

アンカラ爆弾事件を口実にトルコがシリア軍事介入も

トルコ・アンカラで2月17日に起きたトルコ軍のバス車列を狙った爆弾事件では、兵士ら28人が死亡、200人に及ぶ負傷者が出た。事件直後、トルコ政府は「シリアのクルド政党PYD(民主統一党)、武装組織YPG(人民防衛隊)、PKK(クルディスタン労働者党)が関与」と発表。トルコ政府は「YPGが送り込んだシリア人」とする容疑者の氏名も公表した。これに対しYPGは直ちにこれを否定する声明を出した。

f:id:ronahi:20160226145547j:plainアンカラ爆弾事件後、トルコ軍参謀本部を訪れたエルドアン大統領。「事件にはPKK・PYD・YPGが関与」とし、兵士ら多数の死者を出した爆弾攻撃を強く非難した。(トルコ大統領府公表写真)

欧米諸国を始めとする世界各地での攻撃を呼びかける武装組織イスラム国(IS)は、大きな脅威となっている。いまシリアでISと激しく戦っている組織のひとつがクルド組織・人民防衛隊(YPG)だ。2014年にISが侵攻したコバニでの激戦では、アメリカのメディアはYPGを「自由の戦士」と表現し、男性とともに銃をとって戦う女性たちを大きく取り上げた。

これまで世界に見放されてきたシリアのクルド人が注目され、その戦いに世界からの共感や関心が寄せられ、YPGに義勇兵として参加する欧米人もあいついだほどだ。そんな局面で、YPGがトルコの首都アンカラの中心部に戦闘員を送り込んで、軍の兵士を多数殺害する爆弾事件を引き起こせば批判が高まることは当然YPGも理解しているはずだ。ところが政治というものは「闇」である。トルコ政府内の勢力、クルド組織内の動き、大国の思惑などが折り重なって動くのが中東情勢だ。YPGの母体となっているPKKは、実際、こうした自爆攻撃を過去に指揮してきたし、戦闘員に命令を下せる組織である。そして皮肉にもこの冷徹さが、強力なISと互角に戦える戦闘性につながっているといえる。

トルコが「YPG・PYDの犯行」と非難した直後に、YPGは反論の声明を出した。その声明(2月18日付)を訳してみた。(赤い文字にした部分は筆者によるもの)

f:id:ronahi:20160226203631j:plain

人民防衛隊(YPG)総司令部・声明
「トルコ当局が主張する2月17日のアンカラでの爆発事件に関して」

ロジャヴァ(=西クルディスタン)・シリア - わが人民、そして社会が承知のように、ロジャヴァ革命の開始から4年を迎えた。我々は人民防衛隊(YPG)として、地域のわが人民を防衛するため、尽力してきた。
幾多の苦境にあっても、ヌスラ戦線やダアシュ(IS)のようなテロ集団と激しく戦い抜き、また戦い続けるものである。真実を希求する各国政府やいくつかの治安機関、政治グループらが諸例をあげて明らかにしたごとく、複数のテロ組織がトルコ政府によって支援されている。 ロジャヴァにおいてわが人民への攻撃を続けるテロ集団と異なり、これまでYPGは(シリアの)隣国での軍事衝突には関与していない。

ロジャヴァ境界線におけるトルコ軍の度重なる挑発や攻撃にも関わらず、わが方は我々の歴史的責任を尊重し、応戦することなはなかった。この4年にわたり、シリアとトルコの最も安全な国境線は、ロジャヴァの境界線であった。このかん、我が防衛部隊はいかなる軍事行動もとることはなかった。また、トルコ軍も公正発展党(AKP)政府もこの点をよく認識しているはずである。
しかしながら、事実が意図的に捻じ曲げられ、その結果、アンカラ爆弾事件に我々が関与しているとされた。 アンカラでの昨日の事件にYPGはいかなる関与もないことを、我々はトルコ国民と国際社会に告げるものである。それだけでなく、この4年にわたり、我々が彼らにいかなる攻撃も加えていないゆえに、トルコ当局は我々の活動だとする示す能力もない。このため、アハメット・ダウトオール・トルコ首相が、アンカラ爆弾事件で我々を非難することは歪曲された虚偽であり、真実からかけ離れたものである。
ダウトオールの声明は、シリアにおいてロジャヴァ攻撃のための基盤を作らんとする策謀である。また同時に、すでに世界が知るごとく、(トルコが)ダアシュ(IS)に対する支援を与えんとするものである。 人民防衛隊たる我々は、わが勢力がアンカラ爆弾事件にいかなる関係もないことをここに繰り返し明確にするものである。加えて、ロジャヴァ革命に対峙する各国と周辺勢力に対し、わが人民の意志を尊重するよう呼びかける。
人民防衛隊(YPG)総司令部 2016年2月18日

訳注:声明にあるロジャヴァとは、西クルディスタンを意味し、シリア北部のクルド人居住地域で、これはトルコ・シリアのほとんどの国境線にあたる地域でもある。「ロジャヴァ革命」とは、シリアで反政府運動が全国的に広がった2011年以降、アサド政権の軍・機関がクルド人居住区域の一部から撤収し、その後、PYD主導の暫定行政区が各地にあいついで成立した一連の政治変革を指す】

赤い文字からも分かるように、YPGは、トルコが今回のアンカラ爆弾事件を口実にしてシリア軍事介入への「歩」を進めようとすると捉えているのがわかる。
トルコ政府の言うように、PYDもYPGもクルディスタン労働者党(PKK)と関係の深い組織であるのは事実だ。YPGが「PKKとは別組織」とすることで、アメリカもPKKをテロ組織指定しながらも、YPGには米軍の軍事顧問を密かに送ったり、部分的な武器支援を目立たない形で行うことができた。IS中心拠点都市ラッカへの進撃は、YPG・PYDなしには遂行できないといってもいい。一方で、トルコにとっては、YPGが北部のクルド人居住区一帯で支配を固めると、国内のクルド問題や政治情勢に大きく影響することになる。

f:id:ronahi:20160226210229j:plainシリア北部のコバニの最前線でISとの激戦を戦うクルド組織・人民防衛隊(YPG)の戦闘員たち。IS拠点に突撃し制圧した直後の映像。(撮影・坂本)

「いよいよトルコ軍がシリア・クルド地域に軍事介入する」。「YPGが介入の口実とされるのでは」とクルド人は口を揃える。シリアをめぐりトルコが大きな動きが起こそうとする兆しとクルド人は受け止めている。同時にPKKが戦闘を激化させている意図がわからない、とも言う。もしトルコがシリアに軍事介入すれば、クルド情勢の「転換点」のひとつとなる可能性もある。(つづく
>> 次へ「犯行声明」出したTAK(クルディスタン自由の鷹)とは

広告を非表示にする