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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【動画+写真22枚】イスラム国(IS)戦術分析(12)◆戦車・機甲旅団

◆IS関連 ◆IS戦術分析

◆機甲部隊編成し威力誇示~自爆突撃に戦車も【動画+写真22枚】
武装組織イスラム国(IS)は昨年12月、イラク・ニナワで編成した戦車・機甲旅団の映像を公開した。戦車や装甲車の勇姿を映し出すのだが、前半の解説ではISが自分たちの「ジハード」に根拠付けをし、「虐げられたスンニ派が幾多の苦難を経て、ISとして団結し、ついにカリフ国家を建設、そしてローマを目指す」としている。キリスト教の総本山・ローマに向けて進撃する戦車を重ねる映像はあまりに無理やりだが、考えてみればわずか70年前、日本は「英米撃滅・大東亜共栄圏建設の聖戦」をしていたし、共産主義も「全世界を獲得せよ」と革命を掲げ武装闘争を各地でやっていたのだから、「ローマ征服をめざす聖戦」を掲げるISを荒唐無稽と言い切れない。そしてこうした理由付けを信じ込んだ若者たちがフランス・パリでの襲撃事件を引き起こした現実がある。

【IS映像】ファルーク機甲旅団(イラク)「いざ約束の地ダービクで」 (転載禁止)
ダービクはシリア北部の小さな町で、ハディース(言行録)に「イスラム教徒とローマ(いわゆるキリスト教徒の十字軍)の最終決戦の地」として言及されているとして、ISは十字軍との対決の象徴としている。映像の一番最後で「ダービクで十字軍を焼き尽くす」とあるのは、ISの前身組織「イラク聖戦アルカイダ」で米軍の空爆で2006年に死亡したアブ・ムサアブ・ザルカウィの声だろう。映像では預言者ムハンマドが「ヘラクレイオスの都(コンスタンチノープル)が先」とした言行録の言葉が引用されている。のちにコンスタンチノープルの征服は果たされ、次の約束、ローマの征服こそが預言者の約束として待ち望まれていると意味づけをしている。戦車部隊の勇姿にあわせてメッセージを織り込み、過激主義に惹かれるムスリムの若者を映像で感化させ、ジハードに駆り立てようとする仕掛けが映像に組み込まれていると言える。

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機甲旅団の動画が公開されたのは昨年12月だが、写真報告が出たのは10月で、そのときは、「ニナワ・ファルーク第3機甲旅団」と説明がついていた。ということは第1、第2旅団もあるのだろうかと思ってしまうところでもある。今回のプロパガンダ映像は「機甲旅団」を見せ付けて、来たるべきイラク軍のモスル奪還戦に対抗する準備ができていることへのデモンストレーションの意味合いが強い。(イラク

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高速走行させた装甲兵員輸送車MT-LBで盛り土をジャンプ。MT-LBは旧ソ連時代に開発されたが、各国軍で使われていてイラク軍でも現役。車両はISがイラク軍から奪ったもの。(イラク

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イラクに駐留していた米軍が路肩仕掛け爆弾に苦しめられ、開発されたのが防弾防爆仕様の戦闘装甲車MRAP、クーガー。イラク軍は、クーガーのイラク向け仕様の「ILAVバジャー」をアメリカから調達し配備していたが、モスル陥落の際、相当数がISの手に渡った。車体の底がV字型になっていて、路肩爆弾が爆発しても爆風をそらす構造になっている。(イラク

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クーガー(ILAVバジャー)に乗り込むIS戦闘員。運転席に2名、後部に8名が乗る。(イラク

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機銃のパネルには「ファルーク機甲旅団」のマーク。指1本を立てるのは、「神はアッラーのみ」を意味する。(イラク

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2014年6月のモスル制圧直後は、イラクの国旗を消したり、ペンキを粗く塗っていた程度で、この当時は「機甲大隊」とだけ書かれている。(イラク

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モスル制圧前は、他の戦線と同じようにダンプカーなどに鉄板を貼り付け、ロケット弾の直撃を防ぐ金網をスラットアーマーとして溶接した自作装甲車を前線に投入していた。今回の機甲旅団映像はプロパガンダとはいえ戦闘員を訓練し、正規軍並みの機甲部隊を整備する意図がみられる。(イラク

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これはニナワ・モスル近郊の戦線だが、「攻略大隊」と名づけられている。右の黒い車両が自爆突入車のようで、それを援護して突入路を開ける突撃装甲車として使っていると見られる。機甲部隊とは別のようだ。(イラク

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戦車は空爆の標的になりやすい。ニナワ県シンジャル一帯の前線では山に展開するクルド部隊から見下ろされることもあり、偽装網や遮蔽物で戦車を見えにくくする例がよく見られる。最近は小型ドローンを飛ばしてライブ映像で確認しながら着弾位置を選定し砲撃するなどしている。写真の戦車はおそらくイラク軍から奪ったと見られるT-55。(イラク

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T-55に砲弾を装填し、クルド・ペシュメルガ部隊陣地に砲撃を加えるIS部隊。(イラク

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2014年9月に始まったシリア・コバニ侵攻戦では、約4キロ四方の小さなコバニの町をISは40両の戦車で包囲。近郊の農村地帯を制圧しながら、町の中心部まで入り込んだ。戦車の後方で戦闘員が随伴しながらクルド側の銃撃をかわして進撃する基本戦形をとっている。(シリア)

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シリア東部・デリゾール近郊の戦線での歩兵戦闘車BMP-1。旧ソ連時代に開発された戦闘車でシリアでもイラクでも現役。周囲にフェンスを取り付けてロケット弾対策を施している。アラビア語でPの発音がないので、現地では「ビーエムビー」と聞こえる。(シリア)

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戦車を市街地で使用すると建物に多大な被害をもたらす。空爆で戦車を狙っても住宅破壊は避けられない。(シリア)

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シリア・デリゾール近郊でシリア軍基地への攻撃で使われた自爆戦車。砲塔部分がなくても、荒れ地を進めるキャタピラ車両は自爆突入には有効だ。右は自爆で爆発し立ち上った煙。(シリア)

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これもデリゾールでの自爆攻撃。旧ソ連製BTR-50ではないかと思われる。かなり高速でシリア軍陣地に突入している。(シリア)

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BMP-1での自爆突入。ドラム缶の大きさのポリタンクにつめた爆弾が段重ねに敷き詰められているので、相当な爆薬量になる。戦車やキャタピラ装甲車を自爆兵器として作戦に組み込むことも「IS機甲戦術」のひとつと言える。(シリア)

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イラク軍はアメリカ製のM1エイブラムス戦車も配備しているが、ISが奪ったエイブラムス戦車を運用している例はあまり見られない。破壊している映像が多い。(イラク

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M1エイブラムス戦車は、ISにとっては「十字軍アメリカ」の象徴でもあり、この映像では、爆薬を仕掛けたエイブラムスを盛大に爆破し宣伝に利用している。(イラク

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シリア・ホムスの戦線で使われたT-72戦車。シリア政府軍から奪ったものと見られる。(シリア)

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2014年にラッカを「軍事パレード」したときのもの。シリア軍から奪ったT-55戦車。軍事サイトなどによると、戦闘員がまたがっているのは北朝鮮製のレーザー測距器といわれる。(シリア)

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これも2014年ラッカでのパレード。2S1グヴォズジーカ122mm自走榴弾砲と見られる。(シリア)

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昨年10月、ISは、シリア空軍情報部で働いていたとする男を生きたまま轢き殺す残虐な映像を公開。男の尋問シーンが映り「シリア軍の戦車でIS戦闘員の死体をひき潰していた」と告白させられる。そのあとISは「敵対する者には同じように敵対せよ」とコーランの一節を持ち出し処刑に宗教的な意味をこじつけ、轢き殺して処刑。双方とも同じ残虐行為をしているのが戦争の現実ではあるのだが、そこには騎士道も人間の知性も見られない。(シリア)

【動画】 2014年6月、シリア軍基地制圧してラッカに凱旋するようす。BMP-1をドリフト走行させる荒くれぶりを伝える映像が世界に公開されたが、その頃からすると、現在は着実に機甲戦術を獲得しているようだ。(IS関連RMC映像より)

ISが戦車をどう攻撃しているかは「誘導ミサイル戦術」参照

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