イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【IS動画+写真15枚】イスラム国(IS)戦術分析(10)◆暗殺襲撃

◆宗派暗殺抗争とIS台頭 【動画+写真15枚】
今年10月、バングラデシュで日本人が武装組織イスラム国(IS)に関係するとみられる集団に殺害された。今後も日本の外交官、企業駐在員、NGOスタッフなどを狙った暗殺・襲撃のような事態は起きうるだろう。今回は、「暗殺戦術」を取り上げる。イラクではシーア派スンニ派の宗派対立が互いの暗殺抗争になり、治安機関が政党や政治家の私兵と化して暗殺に手を染める状況が続いてきた。そうした流れがいまのIS台頭を招いた側面がある。

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【IS動画】グロック拳銃・サイレンサー(サプレッサー)製造と暗殺遂行
「鉄の塊を運び入れよ」は、コーランの洞窟章(アル・カハフ)からの引用と思われる。(映像に出てくる旋盤機は日本の工作機械メーカー名が大きく書いてあるので、ぼかしを入れました) バグダッドでの製造を強調する意味は、イラクの首都の治安警備をかいくぐり、武器工場を保有していることを誇示する狙いがあると見られる。最後の実際の銃撃シーンは、前方の黄色いタクシーから右のSUV車にむけて追い抜きざまにサイレンサー銃で発砲しているのが分かる。

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ISバグダッド県メディア部門が制作した映像「鉄の塊を運び入れよ」は3部作になっている。パート1では、短機関銃MP5サイレンサーを装着し発射音の比較実験をしている。(IS映像)

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パート3では、角型鉄パイプを短く切って爆薬を詰め込んだ小型爆弾も公開している。スプレーで黒く塗装しているのが角型パイプ爆弾。(IS映像)

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角型鉄パイプで車両を爆破している様子。車両への爆弾攻撃は追い抜きざまに手榴弾のように投げつけたり、標的車両に密かに取り付けておいて、無線遠隔装置で爆破するなど様々だ。これは国防省高官の車両を狙ったと見られる。(IS映像)

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車に取り付ける粘着爆弾はIS以外の武装組織も何年も前から使用している。これはバグダッド治安部隊の広報映像。事件が多発したためテレビで繰り返し放送し注意を促してきた。粘着爆弾は、暗殺対象の車両に密かに磁石やテープで取り付けて、携帯電話をつないで遠隔起爆装置にして爆破する構造。イラク以外の場所でも、ISがこうした暗殺戦術を使って外国企業駐在員などの車両を狙うことも起きうるだろう。(IS映像)

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交通警官とすれ違いざまに、いきなりシャツの下から取り出した銃で撃っている。サイレンサーが取り付けられているのがわかる。(IS映像)

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イラクでのサイレンサーによる襲撃・暗殺は以前からあったが、頻発しだしたのは2008年頃。これはイラクの治安が一時回復した時期と重なる。都市部での検問が厳しくなり、自動小銃を車に隠し持ちにくくなったことで、武装組織各派が標的を絞って個人暗殺をするような戦術が多用されるようになった。これはISの前身組織、イラクイスラム国(ISI)の頃の映像だが、早朝の軍の警備詰め所と思われる場所に侵入し、寝ている兵士をサイレンサーで次々と射殺し、逃亡している。(ISI映像)

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ISは襲撃や暗殺を「シーア派狩り」と表現。イラク軍の基地に出入りする車両を狙った。勤務に向かう兵士や一般の食品納入業者も含めてすべてISの襲撃対象となっていた。自衛隊が戦闘地域に派遣された場合、駐屯地に出入りする民間業者、住民が狙われることも起きるだろう。この事態の対応も想定しておくべきではないか。(IS映像)

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イラク政府に協力する者はスンニ派であっても殺害対象となった。これはマリキ首相(当時)の協力者としてスンニ派有力者が、地元スンニ部族の姿に変装した戦闘員の待ち伏せで襲撃される映像。(IS映像)

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襲撃事件が多発すると外国メディアや企業駐在員は警護のための護衛をつけるようになった。そのため民間軍事会社(PMC)への需要が高まった。高給を求めて、外国の特殊部隊にいた元兵士などがイラクで警備員となった。写真はイラク政府高官と外国大使館関係者の警備にあたるPMC警備員。PMCはたいてい政府要人や外国人の身辺警護で、行政機関や外国企業で働く末端のイラク人や家族を守ってくれるわけではない。武装組織にとっては狙いやすいイラク人が次々と標的となっていった。(2006年撮影・坂本)

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イラクで宗派抗争が激しくなると、暗殺や襲撃が宗派や政党のあいだで頻発する。
写真左イラクスンニ派ドレイミ部族の有力者、アドナン・アル・ドレイミ元議員。政府でシーア派の影響が強くなり始めると、部族は弾圧され、彼の息子2人もテロを企てたとして逮捕されている。のちにドレイミ部族が大量に武装組織に流れ込み、ISを生み出す主柱のひとつとなった。
写真右は、スンニ派イラクイスラム党のタリク・アル・ハシミ元議員。このあとイラク副大統領に就任するが、暗殺部隊を指揮しシーア派要人を殺害した容疑で2011年、司法当局から逮捕状が出される。彼はクルド地域政府に一時保護されたのち、トルコに渡ったままイラクに戻れなくなり、事実上の亡命を強いられることになった。シーア派主導のマリキ政権は、彼を国際刑事警察機構ICPO)を通じて国際指名手配犯にまでしている。実際に暗殺事件に関与したかどうかは不明だが、欠席裁判のまま殺人・襲撃などで150件に及ぶ起訴となり、彼にはのべ5回の死刑判決が出された。イラク政府内の政党間、宗派間の対立は、互いの暗殺抗争という滅茶苦茶な事態になっていった。この「ハシミ追放事件」は宗派の亀裂を修復不可能にし、現在のIS台頭にもつながっている。(2006年撮影・坂本)

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暗殺や襲撃が横行し、治安機関までも深く関与する状況になったのが2007年前後。写真はイラク警察の防弾車 REVA 4X4 APC南アフリカ製)。内務省管轄でシーア派の警官が多く、理由なくスンニ派住民を逮捕して拷問、殺害するなどしていた。政治家は政府の治安部隊を公然と使って他党派を襲撃するなど私兵化が進み、イラク人が自分の国の政府も、他宗派も互いに信用できなくなる空気が広がった。こうしたことも、スンニ派地域でのIS勢力拡大の背景となっている。(2007年撮影・坂本)

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今年10月、バングラデシュで日本人が殺害された事件で、ISが出した声明。この声明は事件直後に出され、バングラデシュのIS関連組織が、IS本体と密接に連携していることがうかがえる。「カリフ国(イスラム国)の兵士がバングラデシュ・ラングプールで、日本人・ホシ・クニオ(星邦男)を追尾し、射殺した。十字軍同盟諸国の人間に対する作戦はこれからも続く。ムスリムの国において彼らに安全はない」などとある。駐在員、外交官の襲撃が起きれば、警護や救出に自衛隊が出動することも現実味を帯びたものとなるだろう。

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左は日本人殺害に関与した容疑で3人を逮捕したと伝えるバングラデシュ地元紙。右はIS機関誌ダービク(第12号)で、バングラデシュでイタリア人、日本人を殺害したことなどに触れている。ISは日本人が今後も標的となることを繰り返し記述している。

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10月30日、ISは、反IS地下活動を続ける「ラッカは静かに虐殺される」メンバー2人の殺害を公表した。ISの「首都」ラッカ市内でIS支配の実態を隠し撮りし市民生活の実状をネットで伝えたり、反ISポスターを密かに貼ってまわる活動をしていた。シリア国境に近いトルコ・ウルファのホテルに一時滞在中のところを発見されたもようで、「いかなる背教者も殺す」と斬首された死体の映像を公開した。ISはシリア国内だけでなく、隣国トルコでも索敵・暗殺作戦遂行能力を有していることを示すものとなった。IS地域外の国にいても、外交官、企業駐在員、NGOスタッフが狙われるということを意味している。

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