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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)報道~実像をどうつかむか(3)◆ISの規定する主要な「敵」

◆IS関連 ◆各国・各組織声明文

先日ウェブ上で公開された武装組織イスラム国(IS)英語機機関誌ダービク第12号の巻頭言は、フランス・パリ襲撃事件やロシア民間機爆破についてのものだった。パリ事件の直後であり、またロシア機爆破に使ったとされる小型爆弾の写真も公開されたことから、欧米メディアはこの巻頭言を大きく伝えた。それをなぞるように日本の報道もこの部分をクローズアップして報じたが、もうひとつダービク12号には日本に関する記述がある。バングラデシュでの日本人殺害だ。

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第12号は全66ページ。その中で「オバマ」と出てくるのは2回。ところが「シンゾウ・アベ(安倍晋三)」は3回出てくる。

バングラデシュ日本人殺害・抄訳】
(イタリア人殺害から)数日後、ベンガルの地のカリフ国兵士たちに属する別働隊が日本人を北部地域、ラングプールにおいて標的とした。これら一連の祝福されし攻撃は、十字軍の国民ども、そしてバングラデシュに居住する同盟者をパニックに陥れた。さらにその外交官、観光客らの行動を制約し、絶え間ない恐怖を強制することとなったのだ」(中略) 「日本のアメリカ支援は日本国民の生命をさらに危険にさらすものとなると、イスラム国は日本の異教徒国民に対し警告した。ダービク誌では日本の首相・安倍晋三が不遜なる十字軍同盟を支持する決定をしたことについて以下のコメントを記述した。
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安倍晋三による、この十字軍支援の無分別なる宣誓がなされる以前は、日本はイスラム国の標的のトップリストには名を連ねてはいなかった。だが、安倍晋三の その愚かさゆえ、今後、すべての日本国民とその権益が - それがどこであろうと見つけ次第 - あらゆる場所で、わがカリフ国の兵士たち、そしてその協力者たちの標的となるのだ」(ダービク第7号「巻頭言」4ページ)
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かくしてベンガルの地におけるカリフ国の兵士たちはカリフ・イブラヒム(訳註:バグダディ師を指す)に忠誠を誓い、隊伍を整え、地域指導部を選出し、その下に結集し、かつての分派を解体し、必要なる軍事的準備をし、十字軍とその同盟者がどこにいようと見つけ次第、標的とすることをもって、イスラム国指導部からの命令に迅速に応えたのだ。 (ダービク誌第12号)

◆「安倍首相名指し批判」の真意はどこに

同誌のバングラデシュでのIS支持組織の活動を特集する記事では、9月の首都ダッカでのイタリア人殺害に続き10月、同国北部のラングプールで日本人ホシ・クニオ(星邦男)さんを殺害したとの記述が出てくる。そして、2月のダービク第7号の巻頭言、後藤健二さんら日本人人質事件での日本を攻撃対象とする」とした文章を抜粋し再び掲載している。 ダービク誌はこれまでも欧米人の斬首処刑の際に繰り返し、自身の「正当性」を主張してきた。だが、第7号の後藤健二さんらの殺害についての記述では、日本の「平和憲法」という言葉をわざわざ使い、小泉政権までさかのぼったうえで、アフガニスタン空爆を支持しイラク自衛隊を送った日本の「罪状」を並べたてている。そしてエジプト訪問でIS対策への支援を表明した安倍首相を徹底して批判した。

日本の憲法小泉首相時代の政策を持ち出す文章など、普通の戦闘員が簡単に書けるような内容ではない。 中東、アラブ世界からすると、日本はとても遠い国だ。7号の「安倍首相批判・日本攻撃宣言」を読んだとき、高学歴のIS支援者が協力しているか、あるいは日本人もしくは日本人に近い人物が関係しているのではないかとさえ疑った。ISの規定では日本も「十字軍の同盟国」であるが、自衛隊空爆作戦に参加してはいない。 昨年、後藤健二さんがシリアで消息を絶ったのち、家族のもとには身代金を要求する接触がISからあったと言われる。それでも今年の中東訪問時に安倍首相は「内戦で苦しむすべての人びとに支援」ではなく、あえて「ISと戦う国に2億ドル支援」とISの名を声明に入れた。ISが安倍首相をわざわざ繰り返して名指しするのは、日本に対する何らかの位置づけができつつあるのではないか。

日本人死者3人を含む多数の犠牲者を出したチュニジアでの観光客襲撃事件(今年3月)のように、IS本体が直接関与しなくとも、ISに共鳴する組織や感化された個人が外国人襲撃を実行し、ISがそれを事件後に承認する声明を出すこともありうるかもしれない。ISが声明や映像で折にふれ方針を明らかにすることの怖さはここにある。

日本を「敵」とする認識が広まるならば、今後は、中東以外の場所でも外交官、観光客、駐在員、日系企業が標的となることもあるだろう。ISの次の動きを読むには、彼らが何を思考し、誰を「敵」と規定しているのかを見極めることが手がかりとなる。もちろん、安倍・自民党政権でなければ標的とならないかと言うとそんなことはない。また、日本人さえ巻き込まれなければいいというのではなく、シリア・イラクでは毎日、ISの恐怖支配と、各国軍の空爆によって数え切れない人が命を落としていることも忘れてはならない。

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北斗の拳とマッドマックスを合体させたかのようなIS戦闘車。これがいまシリア・イラクのIS支配地域で起きている現実で、世界もそして日本も、こういう彼らを相手にしようとしている。イラク、シリアの内政問題、宗派対立だけなく、大国の武器支援や政治的思惑が、結果的にこうした集団を台頭させる結果を招いた。たくさんの人びとの命が失われ、避難民たちも故郷に戻ることのできない状態となった。(2015年11月・IS映像)

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一覧表にまとめてみたISが規定する4つの主要な「敵」。ISにとって「自分たち以外は全部敵」であり、全方位戦争路線である。パレスチナにもIS共鳴組織が登場しているが、リビアアフガニスタン、イエメンの支持組織が早々と正式な下部組織と承認されたのに比べ、パレスチナ組織は現時点で承認されていない。「IS用語」は他宗派への侮蔑表現を含むので、とくにイスラム圏では冗談でも使わないように。

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これはISが「自分たちに敵対する同盟国ども」として公表した図。十字軍とその同盟者と規定する国は増え続け、日本もその中のひとつになっている。日本で言うと、例えば右翼なら「天誅」、左翼だと「階級的鉄槌」など、暴力を伴った自分たちの正義が悪を裁くという思考は社会運動についてまわるように、ISは「アッラーを信じぬ者、敵対する者どもに審判を下す」と自分たちが神の代理人であるかのように認識し、殺戮を正当化している。もしISが追い込まれれば、オウム真理教がハルマゲドンを自分たちでもたらそうとしたように、「最後の審判」を自ら引き起こす方向に突き進むかもしれない。支配地域の住民が恐怖しているのは、ISへの空爆を阻止するために住民を見せしめで処刑したり、ダムを爆破決壊させ町ごと沈め大量虐殺するような事態である。一方で、ISにも「建前と本音」がある。かつてパキスタンやサウジがタリバン政権を承認していたように、もしISを国家として承認する国が出てくれば、過激主義をトーンダウンさせ、実利をとる可能性もありうる。アメリカでさえ9・11事件で壊滅を誓って多額の軍事費を使い戦争をしたタリバンとの交渉を模索している。今後、IS情勢もどう動くかわからない。(IS映像)

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今年1月末、安倍首相のエジプト訪問にあわせて出された日本人人質、後藤健二さん、湯川遥菜さんを処刑すると警告したIS映像では、NHKワールドの映像を挿入。ネットで適当に集めた安倍首相の画像を使うのではなく、NHKが日本においてどういう放送局を意味するかも理解したうえで、その映像を使ったと見られる。(IS映像)

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