イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【動画+写真26枚】イスラム国(IS)戦術分析(9)◆誘導ミサイル(対戦車・携帯式防空)

◆艦船・航空機も標的に 【動画+写真26枚】
安保法制成立以降の新たな枠組みで、海外での任務に向かう自衛隊。これまでのPKO活動での派遣も含めて、武装組織イスラム国(IS)と陸上自衛隊の直接戦闘は近い将来にはまずないとしても、武装組織の襲撃事件に巻き込まれた外交官や在留邦人を救出・搬送するために輸送機や艦船を出動させることは現実的に起きうる事態だろう。自衛隊「初の交戦」はこうした現場で起きるかもしれない。ISは、シリア政府軍、イラク軍などから奪った兵器、反体制派が外国から供与された対空兵器などを戦闘で次々に獲得してきた。なかでも小型誘導ミサイルは艦船や輸送機、民間機が標的となる可能性もあり、大きな脅威だ。ISはどういうミサイルを装備しているのか。

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【IS動画】ISによる誘導ミサイル攻撃 (転載禁止)
(1) エジプト海軍の艦船を誘導ミサイルで攻撃(ISは「フリゲート艦」と主張) (2) エジプト軍 M60戦車(パットン)を誘導ミサイルで攻撃 (3) イラク軍ヘリコプターを携帯式防空システムで撃墜。 ISは「お前たちから奪った武器がお前たちに向けられる」という言い方をよくする。アメリカはイラク政府、そしてシリア反体制派に武器を供与、一方、ロシアはアサド政権軍を支援。ISはこれらを戦闘で奪うなどして、多数の高度な武器を手にした。いつかアメリカやロシアは、自らが供与した武器によって苦められることになるかもしれない。

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今年7月中旬、エジプトで活動するISの「シナイ県」組織が公開した艦船攻撃の映像。ミサイルはISがエジプト陸軍を襲撃して奪ったロシア製対戦車ミサイル・9M133コルネットと思われる。(エジプト・IS映像)

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コルネットミサイルは照準器が目標に照射する信号に向けて推進していく。射程は約5キロとされるが、コルネットEM型はさらに射程が長い。ISが陸から海上の艦船に対し誘導ミサイル攻撃をする能力を有していることが示されることとなった。(エジプト・IS映像)

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攻撃後、ISが出した「地中海におけるフリゲート艦攻撃」とする声明。(2015年7月16日付)。被弾したのは哨戒艦と見られ、エジプト海軍は攻撃があったことを認めたうえで死者はなかったとした。ISがシリア・イラクを越え、エジプトにも勢力を広げつつあることを示した意味では、攻撃の政治的効果は大きかったと言える。(IS声明)

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ミサイル攻撃とは異なるが、武装組織による艦船への攻撃としては、2000年10月に米海軍のミサイル駆逐艦コール(DDG-67)への自爆攻撃が知られる。イエメンのアデン港に停泊中のコールにアルカイダ戦闘員2名が小型ボートに爆弾を積んで自爆突撃し、乗組員17名が死亡、40名近くが負傷した事件だ。イージスジステムを備えた米艦船が小型ボートで自爆攻撃されたことは米軍に大きな衝撃を与え、その後の沿岸海域戦闘艦の開発にもつながった。(米国防総省映像)

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エジプトのISシナイ県メディア部門が9月に公表した映像。ロシア製の対戦車誘導ミサイル・9M133コルネットの講習の様子。(エジプト・IS映像)

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プロジェクターを使っての講習。エジプト国内の秘密拠点にありながらも、実際に武器を保有し、それらを体系立てて講習する仕組みを作り上げているのがわかる。(エジプト・IS映像)

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コルネットについての学習では、ISシナイ県のロゴまで入れた画面をパワーポイントで表示。パソコンのタスクバーには、Photoshop、Premiere, After Effects などの編集ソフトのアイコンが並ぶ。(エジプト・IS映像)

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おそらく戦車のどこを狙うかといったような点を説明していると思われる。(エジプト・IS映像)

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この講習では、携帯式防空ミサイルシステム(MANPADS)も取り上げている。映し出された画面には「9K38-イグラ」とある。旧ソ連が1980年代に開発し、現在も各国で使用されている防空ミサイルだ。(エジプト・IS映像)

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実際にイグラを保有しているのがわかる。誘導装置を備え、射程は約5キロ。航空機、ヘリコプターを撃ち落とすことができる。シリアと違いエジプトはいまもたくさんの外国人観光客が訪れる国だ。軍用機のほかに民間機が狙われることになるかもしれない。(エジプト・IS映像)

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対戦車誘導ミサイル・コルネットの発射。イラク軍の車両ハンヴィーを狙ったもの。自衛隊がISと戦闘するために戦車を中東に送ることはないだろうが、中東近隣地域に派遣された陸上自衛隊の車両や宿営地が誘導ミサイルで狙われることはありうる。(イラク・IS映像)

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これはイラク・サラハディン県でイラク軍のM1エイブラムス戦車に向けて発射されたコルネットミサイル。(イラク・IS映像)

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エイブラムス戦車は米軍の主力戦車である。イラク軍も大量にアメリカから調達し、ISとの戦闘に投入しているが、対戦車ミサイルで撃破されたり、自爆攻撃などで破壊される車両があいついでいる。(イラク・IS映像)

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エイブラムス戦車に命中したコルネット。対戦車誘導ミサイルを回避するには発煙弾などが有効ともされるが、車両や駐屯地に向けて撃ち込まれた場合、防ぐのは容易ではない。すべての攻撃が成功しているわけではないものの、ISにとっては1発命中すれば、それだけで十分な宣伝効果を果たすことになる。(イラク・IS映像)

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ISがイラクキルクークイラク軍陣地を攻撃、制圧して奪ったコルネットの照準装置。旧ソ連・ロシア製の対戦車誘導ミサイルにはコルネット以外にもコンクールスなどいくつかのタイプがあるが、ISの戦闘員のあいだでは総称してコルネットと呼ぶこともあるようだ。(イラク・IS映像)

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コルネットはシリア、イラク政府軍ともに使用している。これはイラク・サラハディン県でイラク軍陣地を制圧し、武器庫からミサイルを奪う様子。(イラク・IS映像)

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シリア・ホムスの戦線で使用された対戦車ミサイル。中国製のHJ-8(紅箭-8)のようだ。シリア政府軍か、IS以外の反体制諸派から奪ったと思われる。(シリア・IS映像)

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中国製HJ-8と思われるミサイルがシリア政府軍のT55戦車を撃破。(シリア・IS映像)

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これはシリア・ホムスでISが使用した対戦車ミサイル。アメリカ製のTOW BGM-71らしい。ISだけでなく他の武装組織諸派が使用しているのも確認されている。アメリカが反体制派に供与したものがISに渡ったと見られる。(シリア・IS映像)

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シリアで使われた米国製TOWミサイル。ISの写真説明には「タウ」ミサイルと書かれている。(シリア・IS映像)

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対戦車ミサイルと並んでISが誇示するのは防空ミサイル。IS司令官アブ・ワヒブが担ぐのは旧ソ連が開発した9K32ストレラ2と思われる。彼はかなりのナルシストではないかと思うほど、様々な武器とともにポーズをキメた写真を多数公開している。ミサイルも彼にとっては重要なアイテムと見える。ISが勢力誇示を狙って、誘導ミサイルで民間機を撃墜することは十分想定される。(IS関連映像)

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イラク・サラハディン県で使用された防空ミサイル。イラク軍ヘリに向けて発射されている。中国製のFN-6(飛弩-6)と見られる。射程約6キロで、赤外線ホーミング誘導方式を採用している。中国製ミサイルについては、シリア反体制派のためにカタールやサウジの支援者がトルコ経由で送ったものものもあるといわれるが不明な部分が多い。シリア鹵獲した武器をイラクで使ったり、逆にイラク軍から奪った武器・弾薬をシリアの戦線に回すなど、ISは一定の運用システムを構築しているようだ。(イラク・IS映像)

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携帯式誘導ミサイルはシリア軍やイラク軍にとっては脅威となっている。写真は誘導ミサイルのセンサーをかわすためのフレアを放出しながら飛行するシリア政府軍戦闘機。民間機にはミサイル回避システムはなく、空港近辺の高度が低い位置で発射されれば撃墜されることもありうる。(シリア・IS映像)

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これはISとは異なるシリアの反体制派、ジャバハト・アサラ・ワル・タンミーヤ(真正発展戦線)の映像。自由シリア軍とも連携する組織で、諸外国から武器が供与されたといわれる。写真では4種類の異なった防空ミサイルを構えている。このミサイル見本市のような映像はけっこう知られていて、軍事サイトによると、左から◆9K32Mストレラ2M◆中国FN-6◆9K338イグラS◆9K310イグラ1 ではないかとされる。反体制派が様々な対空兵器を使っている様子を示している。弱小な組織はISに恭順・合流して武器を引き渡したり、横流しすることさえあった。その結果、最も過激で強大なISが高度な武器を保有することになった。大国がそれぞれの思惑で送った武器で死んでいるのは戦闘員だけではない。子どもを含めた住民が殺され、町や村が破壊されている。(映像は真正発展戦線のもの)

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ISがシリア政府軍から奪ったスカッドミサイル。昨年のラッカでの凱旋軍事パレードではイラク・シリア政府軍から奪った多数の戦車・装甲車両、榴弾砲を披露した。なかでも世界を驚かせたのがこのスカッドミサイルだった。だだ、多くの軍事専門家はスカッドの運用には液体燃料の確保、メンテナンス技術、専門のオペレーターが必要で、ISは扱えないと分析している。このパレードが行なわれたのは、イラク第2の都市モスルを制圧し、指導者バグダディが「イスラム国」を宣言して1か月後で、ISがもっとも勢いづいていた時期である。米軍・有志連合の空爆はまだ始まっておらず、いたるところで兵器を誇示して回っていた。米軍のシリア空爆はこの2か月後に開始される。(シリア・IS映像)

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ISはスカッドミサイルを運用できなくとも、この映像は大きな効果があった。強大な組織に見せることで勢力誇示ができた上に、感化されて世界からIS戦闘員に志願した若者もいたと推測される。ISは何をするかわからない組織であり、これらのミサイル兵器を予想外の方法で使うこともありうる。(シリア・IS映像)

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