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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)報道~実像をどうつかむか(2)◆ISとの「全面戦争」と情報の扱い方

フランス・パリ襲撃事件で、日本のメディアは武装組織イスラム国(IS)を大きく取り上げた。事件直後、たくさんの情報が氾濫した。世界がISとの全面戦争に向かおうとするなか、報道はどうあるべきか。

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パリ襲撃事件後にシリア・アレッポ県ISメディア部門が公開した映像。フランス語を話す戦闘員が空爆現場と思われる場所に立ち、空爆作戦を非難している。ISはヨルダン人パイロット焼殺やロシア軍空爆などのたびに、その国の言語を話す戦闘員を意図的に映像に登場させアピールする手法をとってきた。(IS映像)

◆「全面戦争」の流れのなか、情報をどう扱うべきか
パリ事件直後、朝日新聞は「フランス語を話すIS戦闘員が空爆批判する動画がネット上に掲載」とする記事を出し、戦闘員は南仏なまりと分析していた。このフランス人戦闘員の動画は、1年前にISが公開したものだ。記事では、「事件には触れられておらず撮影日時・場所は不明」とあるので、「誤報」ではない。だが、第三者がユーチューブにアップしたようなものを、ISがパリ襲撃事件後にフランス人を登場させた新たな動画を出したかのように伝えるのは、やはりアウトではないか。

毎日新聞の記事では、パリ事件の声明文の「(神に)祝福される戦い」を「いまいましい戦い」と訳していた。この「祝福される」は、ISの攻撃声明のほとんどに冠されていて、自分たちの戦いをアッラーに承認されたごとく正当化させるものとしてISを読み解く重要なキーワードである。記事には「ISフランス州名義で出された」とあったが、ISはフランスを自分たちの「州」とは規定していないし、声明文に「州」の文字は存在しない。 朝日・毎日はともに安保法制に批判的な立場の主要2紙である。世界はいまISとの全面戦争に突き進もうとし、いずれ日本も、軍事的な程度の差はあれ、何らかの形で関わることになる。小さな誤報・誤訳が積み重なって戦争拡大につながれば、こうした記事を書いたメディアはイラクやシリアの人びとにどう責任をとるのだろう。戦争直前の局面だからこそ、メディアはさまざまな情報を丁寧に扱うべきではないか。
恐怖とパニックを煽って各国が互いに軍事的なエスカレーションに至るのを望んでいるのはISの方なのだ。

さて振り返って、自分の記事や分析はどうかというと、じつはたいして偉そうなことは言えない。勘違いをしていることもあったし、記事を書いても新たな事実が判明して修正することもある。ISという組織の実態は本当にわかりにくい。ISに直接取材するのは容易ではないので、その関係者、周辺者、ISの敵対組織などからの情報に負うところが大きくなるが、これらが正確だとも限らない。ネットに出回っている情報はもとより、関係者の話にも誇張や誤解が含まれているだろう。イラク、シリア政府、そしてアメリカの発表だって「大本営発表」だし、他方、ISも「主催者発表」である。敵の損失はより大きく伝え、自身のマイナス情報は出さない。たくさんの情報は脚色されたものという前提でかからないと、見誤ることになる。それでも、継続して動きを追うなかで見えてくるものがあるのではないかと思っている。(つづく 次へ>>)

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パリ襲撃事件後のシリア・アレッポ県ISメディア部門制作の映像でフランス語を話す戦闘員。この戦闘員はヤニス・ベルハムラという名で、シリア入りする前はパリ近郊の町でピザ配達の仕事をしていたとフランス・メディアは伝えている。(IS映像)

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パリ襲撃事件以降、IS支配地域内の各県メディア部門がメッセージ映像を制作し、公開している。シリア・ハイル県(デリゾール近郊)のメディア部門が制作した映像には自爆ベルトのシーンが出てくるが、これはドイツ国籍の戦闘員で元ラップ歌手のデニス・クスペルト=Deso Dogg(アブ・タルハ)の歌の過去のクリップ映像を使っている。今年4月頃に出されたもので欧米諸国での無差別殺戮を連呼する内容だ。元の映像では左上のテロップは「アメリカ」となっているが、今回のものは「パリ」に置き換えられている。(IS映像)

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シリア・アレッポ県ISメディア部門が制作したパリ襲撃事件のメッセージ動画では、エッフェル塔が倒壊する映像まで挿入され「パリ崩壊」と出てくる。これはアメリカのアクション映画「J.I ジョー」(2009年)のシーンが使われている。 (IS映像)

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IS支配下のイラク・アンバル県ではパリ襲撃事件直後に声明文をコピー機で印刷し、住民に配布。(IS映像)

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印刷した声明文を街頭で配布する戦闘員。プロパガンダ写真なので、街頭で一部の住民に配る様子を見せているだけと思われるが、パリ襲撃事件を自分たちの「成果」として利用しようとする姿がうかがえる。(IS映像)

 

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リビアのIS支配地域では、パリ襲撃事件を祝って、戦闘員が住民にキャンディーなどお菓子を配る様子まで公開された。(IS映像)

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リビアの別のIS支配地域でも、パリ襲撃事件を祝って住民にお菓子が配られている。(IS映像)

 

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