イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【IS動画+写真30枚】イスラム国(IS)戦術分析(8)◆狙撃部隊と戦術

◆姿が見えない狙撃の恐怖 【動画+写真30枚】
昨年12月、イスラム国(IS)包囲下にあったシリア北部の町コバニ。ISの激しい砲弾と自爆攻撃、そして米軍の空爆で瓦礫だらけになった町を進んだ。最前線地区に入ったとき、クルド人戦闘員が言った。「ウェルカム・トゥ・スターリングラード!」。最初、何のことかと思ったが、「映画知ってるか」と言われようやくわかった。映画スターリングラードは、第2次大戦下の激戦のスターリングラードソ連軍とドイツ軍の狙撃手を描いた作品だ。廃墟のなかで、照準スコープ越しに狙う相手との「駆け引き」。獲物を狩るように敵を仕留める狙撃戦。次々と倒れる仲間。こんな映画の世界が、21世紀のコバニで現実のものとなっていた。

銃声は響くが、相手の姿は見えない。どこから撃たれるかわからない恐怖は、動きを封じるだけでなく、狙われる側の心理をじりじりと追い込んでいく。

動画が表示されない場合はadblockをOFFにしてみてください
【IS動画・日本語訳】IS狙撃戦術 (転載禁止)兵士を殺害する映像も含まれています
(1) ISは支配地域各地で狙撃兵の養成を進めている。これはイラク・サラハディンでの狙撃兵の基礎訓練課程の映像。「狙撃部隊」というより狙撃要員を養成し、各分隊に配置する例が多いようだ。映像では、ロシア製ドラグノフ(SVD)のほかにルーマニア製「ルーマニック」と言っているのは、おそらく中央に置かれた狙撃銃のことと思われる。「射程距離1500メートル」としているがドラグノフの射程はもう少し短いので、「ルーマニック」の射程かもしれない。映像のなかの「ラフィダ」とは、ISがシーア派を侮蔑的に呼ぶ用語。シーア派に対する狙撃をISは「ラフィダ狩り」などと表現している。
(2) シリア「ハイル県」での市外戦での狙撃。ハイル(またはカイル)はシリア東部デリゾール近郊を指す。市街戦での狙撃では、ほんのわずかに頭が見えただけでも、撃ち抜かれているのがわかる。

f:id:ronahi:20160204055037j:plain

イラク・サラハディンの動画で講習をしていた教官戦闘員。ドラグノフ銃の一般的なスコープ内レティクル図を使って照準スコープの照準の取り方や距離の見方を教えている。左下が簡易距離計で、距離に応じて標的物の目盛りから着弾位置を出して照準を合わせる。訓練を積めば、かなりの精度で狙撃できる。(イラク・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055121j:plain

狙撃銃は「ブンドキーア・カナアス(狙撃ライフル)」と総称される。ISはドラグノフ銃はそのまま「ドラグノフ」と呼ぶことが多い。(イラク・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055208j:plain

この講習ではロシア・ドラグノフ銃(SVD)と、ほぼ同じ仕組みのルーマニアPSL銃を使っているようだ。

f:id:ronahi:20160204055231j:plain

伏せて撃つ「伏射」(ふくしゃ)の姿勢。銃身を二脚(バイポッド)や土のうなどの台座に載せれば安定して撃てる。(イラク・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055242j:plain

イラク・ニナワ県での別の狙撃部隊の訓練。いずれもドラグノフ銃(SVD)とルーマニアPSL銃を使っていると思われる。(イラク・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055303j:plain

戦闘員が着る銃弾を入れるベスト(チェストリグ)も、狙撃兵仕様になっている。揃いの眼を覆うグラスも、おそらく支給されたものだろう。(イラク・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055400j:plain

イラク・ニナワでの訓練。手前がロシア製ドラグノフ(SVD)で、後方がルーマニア製PSL狙撃銃とみられる。両狙撃銃は非常に似た構造となっている。SVDもPSL狙撃銃も、ISは総称して「ドラグノフ」と呼んだりしているようだ。(イラク・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055419j:plain

イラク・ニナワの訓練。模擬標的の建物を使って訓練している。(イラク・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055448j:plain

偽装網を使用したり、偽装服(ギリースーツ)をかぶれば、数百メートル先の敵からは発見されにくい。(イラク・IS映像)

f:id:ronahi:20160321091819j:plain

偽装用のギリースーツを着用し、2人1組で行動する狙撃チーム。左が狙撃手(スナイパー)で、右は観測手(スポッター)。ほぼ正規軍なみの装備や狙撃能力を有していると見られる。(シリア・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055511j:plain

偽装服は山岳地帯の狙撃兵がよく使う。これは偽装ネット型ではなく、戦闘服にヒラヒラを付けたタイプで珍しい。この前線はイラク北西部のシンジャルでクルド兵ペシュメルガクルディスタン労働者党(PKK)と、ISが対峙する山岳エリア。こうした偽装迷彩だと数十メートル先にいても発見は容易ではない。(イラク・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055531j:plain

前から2人めの戦闘員が持つのが狙撃銃。戦線にもよるが、前線山岳地域の場合、10人前後の分隊なら2~3人が狙撃手という例がある。(イラク・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055547j:plain

外国人戦闘員を集めたシリア人の軍事キャンプで狙撃の講習。右はカザフ人で、後ろは東南アジア系の戦闘員のようだ。手前の銃は、オーストリア製の軍用狙撃銃SSG69と思われる。(シリア・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055606j:plain

今月公開されたカリブ・トリニダード諸島からシリア入りしたIS戦闘員の映像。狙撃訓練を受けているが、各種の軍用狙撃銃が並ぶ。プロパガンダ映像用に集めてきて並べたものだろうが、実際にIS支配地域でこれらの多様な狙撃銃が存在するのは間違いないようだ。イラク軍やシリア軍を襲っては武器を奪っているが、狙撃銃は銃も弾もカラシニコフ銃ほど豊富なわけではない。(シリア・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055627j:plain

スコープを調節して照準を合わせているのが分かる。前線で1発だけ突然「パーン!」と音がすれば、狙われた側は「カナアス(狙撃)だ!」と皆、一斉に腰をかがめ、物陰に身を隠す。だが相手の姿が見えないので、どこから撃たれているかもわからず、どちらに逃げていいかさえ分からない。それが毎日続けば、戦闘での疲労に加え、極度の緊張と心理的な恐怖感でどんどん追い詰められる。狙撃の怖さはここにある。(シリア・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055641j:plain

これはイラクキルクークの軍事キャンプの狙撃部隊訓練。ISの軍事キャンプにはそれぞれ、「殉教した指導者の名」がつけられることが多く、ここは「アブ・オマル・バグダディ軍事キャンプ」となっている。現在のアブ・バクル・バグダディではなく、その前の「イラクイスラム国(ISI)」の指導者で2010年に米軍・イラク軍合同部隊の攻撃で死亡したのが「オブ・オマル」。(イラク・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055712j:plain

バグダッドイラクシーア派民兵拠点を狙うIS。スコープはドラグノフ銃のもの。頭ひとつわずかに出ているだけでも狙われる。(イラク・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055722j:plain

イラクファルージャでのIS狙撃兵。2004年の米軍による「ファルージャ武装組織掃討作戦」では米海兵隊の狙撃部隊が投入され、武装組織だけでなく市民も殺害していた。それから11年、こんどはISとイラク軍が狙撃や砲撃を繰り返す。ファルージャで戦火が止むことはなかった。(イラク・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055732j:plain

タジキスタンの治安警察・対テロ特殊部隊の元司令官だったタジク人のハリモフ大佐は、今年、IS関連メディアの映像に登場し、ISに参加したことが確認された。特殊部隊在任中にはアメリカで対テロ部隊の訓練を受けていた人物だ。狙撃の名手として知られ、映像ではその腕前を披露している。こうした人物が戦闘員の養成にあたれば、高度な射撃兵が量産されることになる。(IS関連メディアFURAT映像) ハリモフ大佐映像>>

f:id:ronahi:20160204055745j:plain

大型の対物ライフルは、自作しているものもあるようだ。なかにはロシア製の機関砲を分解して砲身や部品を転用し、独自の対物ライフルとして使っているものもあるといわれる。発射音は、普通の銃のような「パーン」ではなく「ドーン」とともに「カキーン」という音がする。発射時の反動もすさまじい。(イラク・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055756j:plain

これも独自製造したと思われる対物ライフル。「23ミリ弾狙撃銃」とある。(イラク・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055814j:plain

イラクファルージャで使われている対物ライフル。コーラのペットボトルの横にあるのが銃弾。いかに大きいかが分かる。(イラク・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055852j:plain

機関砲などを改造した対物ライフルの弾なら、土のうやコンクリートのブロックも突き破る。軍用車両でも装甲を貫通できる威力がある。(シリア・IS映像)

f:id:ronahi:20160204055938j:plain

まるで東北の震災で津波にさらわれたかのような瓦礫の町になったシリア・コバニ。この破壊は、すべて砲弾と空爆によるものだ。この先はもうISの支配地域だ。狙撃兵が弾を撃ってくるが、どこにいるのか姿が見えない。(シリア・コバニ:2014年12月・撮影:坂本)

f:id:ronahi:20160204055959j:plain

写真は、シリア・コバニのクルド組織・人民防衛隊の狙撃手の女性。クルド側もドラグノフ狙撃銃を使うが、ISに包囲され補給路が絶たれていたシリア・コバニでは各地区の戦線に充分いきわたらず。M-16ライフルに照準スコープをつけたもののほうが多かった。M-16は、ISがイラク軍から奪ったものを、YPGがISを襲撃し鹵獲して使っていた。(シリア・コバニ)

f:id:ronahi:20160204060017j:plain

戦争シミュレーションゲームでは、市街地の戦場を進むシーンがよく出てくるが、再現されていないのがこの狙撃よけの幕。市街戦の現場では、路地にも建物の窓にも、狙撃されないようシーツやカーテンの幕を張ってある。廃墟のなかからかき集めてきて、つなぎあわせて張ったものだ。(2014年12月・撮影:坂本)

f:id:ronahi:20160204060034j:plain

コバニの前線を取材したときの写真。左からISの狙撃兵が撃ってくる。300メートルもない距離だ。先を行くクルド戦闘員が、「じゃあ走るから、数秒してから続いて走れ」と言われ、全力で数十メートルの路地を駆け抜けた。瓦礫だらけの地面に何度も足をとられる。3秒おきとか、均等ではなく、バラバラの間隔にする。狙撃兵は秒数を数えながら次に走ってくる人間の動きを予測している。(シリア・コバニ・2014年12月・撮影:坂本)

f:id:ronahi:20160204060047j:plain

向こうの建物はすべてIS支配地域。そこから狙撃兵が撃ってくる。砲撃で吹き飛んだ建物の壁の部分にはカーテンが張られ、狙撃で狙われないようにしていた。ここで何人も撃たれたという。頭一つや足先が見えただけで、IS狙撃兵は精確に弾を撃ち込んでくる。(2014年12月・撮影:坂本)

f:id:ronahi:20160204060101j:plain

コバニ南部の最前線の建物4階に上がったときのもの。IS狙撃兵は前方と右側の2方向から狙ってくる。写真左上の壁にはISから撃ち込まれた弾痕。町の地区をめぐって、たくさんの命が失われ、地区を奪われれば、また次の日は、そこを奪還するために何人もが死ぬ。戦争の現実だ。(シリア・コバニ・2014年12月)

<< 前へ  IS戦術分析(7)◆爆破戦術と爆弾製造工場
次へ >> IS戦術分析(9)◆誘導ミサイル(対戦車・携帯式防空)

◆IS・イラク・シリア・クルド情勢の
新着記事はツイッターで案内しています>>