イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【動画+写真23枚】イスラム国(IS)戦術分析(6)◆軍用車ハンヴィー哀物語

軍用車ハンヴィーが路肩爆弾(IED)の標的に【動画+写真23枚】
米軍をベトナム戦争で苦しめたのは、ベトコンゲリラの仕掛け罠や竹槍の落とし穴だった。そしてイラクで米兵の命をもっとも奪ったのは、高性能ミサイルや衛星誘導兵器ではなく、サンダル履きの武装勢力の男たちが道路に埋めた路肩仕掛け爆弾(IED)だ。 米軍で広く使われる高機動車ハンヴィーは、イラク軍にも配備され、武装組織の標的となってきた。武装組織イスラム国(IS)はどのように攻撃を加えてくるのか。

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【IS動画】ISの路肩爆弾戦術 (転載禁止)
(一部に兵士の死体の映像が含まれています)
映像後半②は、ISドローンのイラク軍駐屯地偵察から始まり、地中に路肩爆弾を埋める様子も映し出される。ここではおもに防弾防爆装甲車MRAP車両が狙われている。IS映像では「地雷除去車両」となっているが、地雷対策が施された防爆車両も含まれる。強化装甲車体は爆弾にはそれなりに耐えることができても、その場所から迅速に退避できなければ襲撃される可能性がある。米軍なら救援部隊要請や戦闘ヘリによる脱出支援もあるだろうが、地方のイラク軍駐屯地にそうした援護システムが整備されているわけでもない。

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2003年、フセイン政権崩壊直後にバグダッドを走っていた米軍のハンヴィー。MP(憲兵)とある。この当時は、カメラを向けても米兵は笑顔だったりしたが、のちに武装組織の攻撃が激しくなるとそんな余裕もなくなってくる。米軍のハンヴィーHMMWVはジープに続いて導入された高機動多用途装輪車でAMゼネラル社が製造。シュワルツネッガーの要望でハンヴィーの民生仕様「ハマー」が発売されたことでも知られる。(2003年・バグダッド・撮影:坂本)

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2004年半ばあたりから武装組織の攻撃が激しくなり、米軍のトラックやハンヴィーが狙われるようになった。武装組織にとって米軍基地は迫撃弾を撃ち込んでもそれほど殺傷効果も高くなく、発射場所も特定されることがあり、路上を走行する米軍車両への路肩爆弾が最も有効な攻撃手段となった。当時は屋根の機銃まわりも無防備なのがわかる。この頃から現場兵士から仕掛け爆弾対策を求める声が上がり、米国防総省も特別チームを立ち上げて装甲強化対策に乗り出す。(2004年・バグダッド・撮影:坂本)

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ハンヴィーは「占領米軍」の象徴となり、イラク各地で標的となる。おもに道路わきに仕掛けられた路肩爆弾で狙われたほか、手榴弾や投擲弾を投げ込まれたり、RPG対戦車ロケット砲による待ち伏せなどの攻撃にさらされた。破壊された車両は機銃や装備品を奪われ、火が放たれたりした。(2004年・バグダッド・撮影:坂本)

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写真はハンヴィーを狙った路肩爆弾事件の現場。爆発の直後、2次攻撃を警戒した米兵は周囲に銃を撃ちまくる。市民がいてもお構いなしだった。さらに近くにいたイラク人の男たちを一時拘束し、ひとりづつ尋問して、携帯電話を見せろと要求していた。携帯電話が爆弾の遠隔起爆装置としてよく使われていたからだ。こうしたイラク人に屈辱を強いるような米軍の対応がさらにアメリカへの反発を高め、過激な若者を武装組織に流れ込ませる構図となった。当初、米軍は路肩爆弾で攻撃されると車両を止めて現場検証をしていたが、そこに2発めの爆弾が爆発したり、ロケット弾が撃ち込まれるなどしたため、のちには爆発があっても負傷者がいない限りは全速で走り抜け、とにかく現場から離れるようになった。自衛隊が海外で狙われた場合、地元住民に対しこういうことをする局面も出てくることになるかもしれない。必要な装甲、装備、現場での爆発物処理、孤立時の救出援護や支援ヘリ、地元通訳の安全確保、住民感情、これらがどこまで想定されているだろうか。(2004年・バグダッド・撮影:坂本)

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これは2005年ごろの米軍ハンヴィー。屋根の機銃のまわりが鉄板で囲まれているのがわかる。反米武装勢力の激しい攻撃にさらされ、米兵たちは鋼板をかき集めてきては、車体に貼り付けて急場しのぎの「つぎはぎ装甲板」にした。こうしたハンヴィーは、米兵のあいだで「ヒルビリーハンヴィー」(田舎っぺ・ハンヴィー)とニックネームまでつけられた。(2005年・イラク北部・撮影:坂本)

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2004年12月、ラムズフェルド米国防長官(当時)がクウェートを訪問した際、米兵との対話集会でひとりの兵士がマイクの前に立ち「なぜ我々は、毎日ごみ捨て場で錆ついた鉄板をあさり、車体に取り付けなくてはいけないのか」と長官に詰め寄った。現場の2000人以上の兵士たちから拍手と歓声があがり、長官はとまどい顔で「予算の問題ではなく、調達システムの問題だ」とはぐらかした。この異例の「国防長官批判」のニュースは米国で大きく伝えられた。仕掛け爆弾による被害が深刻で、兵士たちを心理的に追い詰めていたエピソードとして知られる。(2004年・米国防総省映像)

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【写真左】は旧式のハンヴィーで防弾装甲が強化される前。それでも窓の防弾ガラスは8枚重ねだった。【写真右】は防弾防爆装甲が強化されたアップ・アーマード・ハンヴィー(UAH)。これまでの防弾ガラスにさらに防弾補強が加えられ、ドアも何倍も分厚くなった。それでも路肩爆弾が爆発すれば、車体は飛び散り、引き裂かれたりする。(2007年・バグダッド・撮影:坂本)

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路肩爆弾による米兵死傷があいつぐようになると、イラクで任務にあたる米兵の家族らの間から「ハンヴィーの装甲強化を」という声が高まった。増え続ける米兵の犠牲が兵士の厭戦心情につながったり、政府批判や反戦運動に広がることへの懸念もあり、米国防総省は防弾防爆装甲車両プログラムを立ち上げ、装甲強化型ハンヴィーの配備に加え、防爆車両の開発と導入計画を急ピッチで進めた。写真の米軍ハンヴィーは2007年バグダッドで取材したときのもの。銃座の周囲は防弾ガラスでぐるりと囲まれ、屋根には偽装網の幌がついている。狙撃で遠方から狙われる例があいついだためだ。米兵の防弾ベストも、胸部と股間だけでなく、肩から上腕をすっぽり覆うものになった。(2007年・バグダッド・撮影:坂本)

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ハンヴィーの装甲強化と同時に進められたのが、路肩爆弾の回避対策だった。写真の米軍ハンヴィーのフロントには黒いパネルが取り付けられている。無線遠隔操作で爆発する爆弾を、ジャミング(妨害電波)を発生させることで起爆させないようにするシステムだ。2007年ごろ米軍がイラクで実戦投入した。このほか車体後部にもジャミングアンテナが取り付けられている。写真はバグダッドに駐留していた米陸軍第1歩兵師団を取材したときのもの。写真左がパネルをたたんだ状態。走行時は写真右のようにパネルを下げて、地面に妨害電波を発しながら爆発を阻止する仕組みのはずだった。ところが米兵たちに直接話を聞くと「最初は期待したけど、それほど効果もなくがっかり」と導入直後から落胆の声が上がっていた。(2007年・バグダッド・撮影:坂本)

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これは武装組織イスラム国(IS)の前身組織、「イラクイスラム国(ISI)」の2007年頃の映像。路肩爆弾対策のジャミングパネルをつけたハンヴィーが吹き飛んでいる。多額の開発費を投じた装置も、現場ではそれほど機能せず、その後、このジャミングパネルは姿を消し、米国防総省は防弾防爆に特化した車両MRAPの導入プログラムを加速させた。(ISI映像)

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米軍に最新の装甲強化型ハンヴィーが配備される一方、イラク政府も米国からハンヴィーを調達する。再編期にあったイラク軍には米軍の中古のハンヴィーが随時供与された。写真左のアクセルペダルの部分にはUS ARMYの文字が見える。写真右は、イラクハンヴィーの屋根の機銃。ロシア製の重機関銃DshKだった。ここに立つ兵士はどんな気分かと思って銃座に上がってみたのだが、銃を向けてまわりを見おろしているという感覚より、四方八方から狙われている嫌な心地しかしなかった。その後、イラク軍にも最新型の装甲強化ハンヴィーが配備されることになる。(2007年・バグダッド・撮影:坂本)

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これはイラク軍のハンヴィー。実際に乗ってみるまで屋根の機銃のところには座席があると思っていたのだが、機銃担当兵は写真右上にあるベルトに腰を軽くのせるだけで、基本的にはずっと立って機銃を握る。防弾装甲とはいえ、走行中いつ路肩爆弾が爆発するかわからず緊張した。「爆発したら横転して頭をぶつけたり首を折ったりするから、ヘルメットはかぶっておけよ」と兵士に言われた。(2007年・バグダッド・撮影:坂本)

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イラク駐留米軍は、2007年ごろから路肩爆弾対策のために防弾防爆装甲車MRAPを現場に投入する。だがそれからわずかとたたないうちにイラクイスラム国(ISI)が、MRAP攻撃を特集した動画を公開した。約30分にわたる映像には、クーガー、バッファロー、RG-32など防弾防爆対策車両が次々と路肩爆弾で破壊される様子が映り、「米軍の対策は無意味だ」などとした。実際には爆発を防いだり、除去された爆弾もあったものの、決定的な対策とはならなかった。路肩爆弾があまりにも多く、攻撃のほうが爆弾処理を大きく上回っていた。(2007年3月・ ISI映像)

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こうした路肩爆弾は、米軍用語ではImprovised Explosive Device (即席型爆発装置=IED)とされるが、兵士たちはIEDのほかに、Roadside Bomb(路肩爆弾)と呼んでいる。アラビア語ではアブワ・ナスィファと言う。「ダメージを与える混合物」という意味だが、イラクでもシリアでも「アブワ」だけでこのIEDのことを指すまでになった。砲弾に起爆ケーブルをつないだものであれば、ハンヴィーぐらいなら簡単に吹き飛ばす威力をもっている。写真はイラクイスラム国(当時)が地面に爆弾を設置する様子。(2007年 ISI映像)

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あらゆるものが路肩爆弾になる。写真はイラク軍の爆弾処理班が無力化したもの。写真左は、殺傷力を高めるために炸薬とともにネジやナットが大量に仕込まれている。リモコン装置は遠隔起爆装置で、エアコンやテレビのリモコン、子どものおもちゃのラジコンなどが使われた。写真右は、ジュースのパックに偽装した爆弾。パックの下からニクロム線が延びている。道路脇のゴミのなかにまぎれこませて置かれていると発見は困難だ。(2010年・撮影:玉本)

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これもイラク軍の爆弾処理班が無力化したもの。遠隔起爆装置としてコードレスホンが使われている。(2010年・撮影:玉本)

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古い砲弾でも加工すれば路肩爆弾に転用できる。ケーブルには無線遠隔装置のほかに、有線の電爆線などがつながれる。写真はISがシリアで使用した爆弾の例。(IS映像)

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2010年頃にはイラク軍にも防弾防爆仕様の装甲車両MRAPが配備される。そもそもアメリカのイラク政策が混乱を作りだし、結果的に武装勢力を台頭させたと言えるのだが、こうした装備をイラク政府はアメリカに発注し、結局、アメリカの軍需産業にカネが流れることとなったのは皮肉なことだ。何より過酷なのは現場のイラク兵たちだった。とくに爆弾処理部隊の死傷者は多数にのぼっていたが、治安回復のために危険を顧みず、同僚が殉職しながらも日々、任務にあたっていた。(2010年・モスル・撮影:玉本)

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写真はイラク軍のMRAP車両。米軍のクーガーの派生型でイラク軍向け仕様のバジャーILAV。車体の底部がV字型になっていて、爆発時の爆風をそらす仕組みになっている。爆発で車体が破壊されることは減ったものの、車輪が吹き飛ばされて、動けなくなり、救援部隊が来る前に襲撃される例もあいついだ。窓の丸い部分は開閉式で、ここから銃を突き出して撃つことができる。(2010年・モスル・撮影:玉本)

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イラク軍や警察から奪った大量のハンヴィーを連ねてモスル市内を進むIS部隊。2014年6月、ISはイラク第2の都市、モスルを制圧。町を防衛していたのは精強なイラク軍部隊だが、市内各所での連続自爆攻撃やゲリラ戦に苦戦し、ついに任務を放棄して敗走した。このモスルだけでも2300台のハンヴィーがISの手に渡ったといわれる。ISはハマーから転じて「ハマル」と呼ぶ。(IS映像)

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ISは昨年6月、イラク軍から米国製ハンヴィーやM1エイブラムス戦車、戦闘装甲車、榴弾砲などを次々と強奪。戦闘で損傷したものだけでなく、基地に格納されていた新品に近い整備品も多数含まれていた。このモスルでの「戦利品」が、イラク軍との戦闘に使われ、さらに2か月後のニナワ県でのシンジャル襲撃とヤズディ教徒殺戮、タラファでのシーア派住民虐殺へとつながる。そして9月にはシリア・コバニ総攻撃にモスルで強奪した最新兵器が振り向けられることになる。(IS映像)

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装甲が強化された戦闘車ハンヴィーは、強力な「自爆突撃用の車両」ともなる。車輪に数発程度の小銃弾を受けても走行可能で、高速で突入されれば阻止するのは容易ではない。写真は、車内に爆弾を詰め込みイラク軍基地に突入するタジク人戦闘員。後ろの茶色い缶やポリキャップのタンクはすべて爆弾。この自爆要員はタジク人だ。(IS映像)

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タジク人戦闘員がアンバル県のイラク軍基地に自爆突入する際に使われたハンヴィー。フロントの防弾ガラスはのぞき窓のみを残して鉄板でふさがれ、車体には鋼板が溶接されロケット弾対策が施されている。自爆突入のために改造された車両だ。写真右は自爆突撃して爆発したハンヴイー。車両1台に積んだ爆弾でも基地の防護壁や兵舎を吹き飛ばす威力がある。ISはこうしたハンヴィー突撃を連続で仕掛けるなど、作戦も巧妙化している。(IS映像)

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