イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【動画】歌から読み解くシリア・イラクでの戦争(11) シリア・クルド女性部隊YPJ~銃をとる女性戦士たち

 ◆ISと最も激しく戦うクルド組織、戦死も多数
歌から戦争を読み解くシリーズ、これまでイスラム国(IS)を紹介してきた。今回はISと最も激しく戦う組織のひとつ、シリア・クルド勢力の人民防衛隊(YPG)を構成する女性防衛隊(YPJ)の歌。民族衣装や伝統文化を織り込んだ映像からは、故郷の大地クルディスタンを守りぬくという人びとの思いが伝わってくる。

〔動画〕「さあ YPJが今日ここに」 (クルド語) 【転載禁止】
これを歌っているのはクルドのグループ、シェヒッド・ネワル。歌の多くに故郷への思いや独立への願いが込められているのは、クルド人がずっと民族分断の悲劇にさらされ、彼らが暮らすそれぞれの国で弾圧を受けてきた歴史があるからにほかならない。この映像の美しく華やかな民族衣装はシリアのクルド地方のもので、結婚式や新年を祝う日などに着る。歌のタイトル、Va ye iro YPJ(YPJが今日ここに)は、映像の冒頭のヒツジの毛から糸を紡ぐ伝統のなかのクルド女性と、いま銃をとって戦う「今日の女性」の姿が重なりあう。メソポタミアの歴史受け継ぐ女性たちが、戦争のただなかで戦っている。

f:id:ronahi:20160202140310j:plainコバニの最前線で戦っていたYPJの戦闘員(19)。コバニ近郊の村の出身で、故郷を守りたいという思いからYPJに加わった。緑の瞳が印象的だった。この写真を撮影した10日後、ISとの戦闘で戦死した。(シリア・コバニで 2014年12月・撮影:坂本)

f:id:ronahi:20160202140322j:plain数週間の軍事訓練を経て、YPJ戦闘員となる。農村の女性、大学生などさまざまだが、故郷への思いはひとつだ。YPGが男性でYPJが女性ではなく、YPGが組織全体をあらわし、その中の女性部門がYPJである。写真は入隊の際の宣誓式のようす。机にはカラシニコフ銃とオジャランPKK議長の本が置かれ、故郷のために身を投げうつ決意を誓う。PKKはのちにマルクス・レーニン主義トーンダウンさせて、社会民主主義的な路線に転換するが、武装闘争は堅持。PKKやYPGには組織内部には左翼的作風が色濃く見られる。(YPG映像より)

f:id:ronahi:20160202140329j:plainシリアのクルド人居住地域は、クルディスタンの西に位置し、ロジャヴァ(クルド語で西)と呼ばれる。歌に出てくるミタンニ王国(wikipedia)とは紀元前15~13世紀頃のフルリ人の王国。上部メソポタミア勢力圏があり、ちょうど現在のシリア・クルド地域にあたる。首都があったワシュカンニは、いまのラアス・アル・アイン(クルド名セレカニエ)近郊といわれる。シリアのクルド人は、こうした文明の末裔であることを誇りとしてきた。

シリアで戦うクルド組織は、人民防衛隊(YPG)である。そしてその半数近くを占めるのがYPG内の女性部門、女性防衛隊(YPJ)だ。 よく混同されるのだが、イラククルディスタンペシュメルガ女性兵と、シリア・クルドのYPJはまったく別物である。ペシュメルガに女性兵はいるものの、後方任務が主でまず前線に出ることはない。一方、YPJは男性と同じ戦闘現場で戦い、凄まじい数の戦死者を出してきた。

シリアでYPJが組織され女性が戦うのは、兵力が不足しているからではない。女性たち自らが決意して銃をとり、郷土防衛戦に志願しているのだ。

YPG・YPJはクルディスタン労働者党(PKK)を母体とする組織である。シリアが内戦に陥ると、PKKはイラク北東部の山岳地帯にある軍事キャンプから、シリア出身の戦闘員を地元に戻す形でいち早く送り込んだ。そしてシリア北部地域で武装自警組織を整備する。

YPGが圧倒的に不利な武器でISと互角に戦えるのは、PKKの戦闘経験に加え、故郷を守り抜くという強い意志があるからだ。

PKKはマルクス・レーニン主義の党として1970年代末に結成され、80~90年代にトルコで武装闘争を展開した。PKKは、クルディスタン解放を革命闘争のなかに位置づけ、民族解放運動と同時に封建主義との戦いを掲げてきた。「部族主義と男性優位社会、そしてイスラムのなかで抑圧された女性の解放」を闘争方針のひとつとし、革命参加にも男女平等の思想が貫かれている。

小学校も通ったことがなく、読み書きのできなかった農村の女性がPKKに加わり、共産主義を学び、男性とともにトルコ軍と戦った。一方、組織内では指導者オジャラン議長は絶対的存在だった。PKKしか知らない若者ほど、オジャランへの忠誠心は強く、冷徹な組織命令にも従った。90年代にはトルコ各地の都市部で何人もの若い女性メンバーが自爆攻撃を敢行し、市民をも巻き添えにした。

シリアでは、貧しい町や村の若者たちがPKKに入り、トルコでのゲリラ闘争を戦ってきた。いまシリアに戻ってYPGを組織する幹部の多くが、10年以上前にPKKに参加した世代だ。そして今度はトルコからクルドの若者たちがシリアでの戦いに駆けつけている。もしYPGがなければ、シリアのクルド地域はとっくにISに制圧されていただろう。

かつて欧米諸国からは「テロ組織」とされたPKKと深い関係を持つYPG・YPJだが、内戦下のシリアにISという未曾有の過激組織が台頭し、自由シリア軍などの反体制派が野合集団となって有効に戦えないなか、IS壊滅のカギを握るYPG・YPJにアプローチを始める欧米諸国も出始めている。米軍はYPGを空爆で支援し、2月にはYPJ司令官がフランスのエリゼ宮に招かれ、オランド大統領と会談した。

アメリカの大手メディアは、YPJの女性たちを「自由と民主主義のために戦う戦士」と表現して伝えている。これまで世界から見放され、やっかいもののようにさえ扱われてきたクルド人がいま、中東情勢を左右するまでになったのはなんとも皮肉であり、ときに都合よくクルドを利用する大国の現実に複雑な思いでもある。今後、シリア・クルドの戦いが重要度を増すことになるのは間違いない。

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