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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【動画・日本語訳】歌から読み解くシリア・イラクでの戦争(10) イスラム国(IS)独自解釈の「イスラム法」布告し統治

◆IS関連 ◆歌から読み解く戦争

◆市民生活は戦争と隣り合わせ
武装組織イスラム国(IS)の宣伝映像は、戦闘シーンや処刑映像だけではない。「国家」を自称するISは、自分たちがいかにシャリーアイスラム法)に基づきいかに自分たちが「すばらしい国家運営・自治行政をおこなっているか」も動画や写真で公開している。そして住民生活に関連した映像で、きまって挿入されるのがこの歌「われらが御主 シャリーアは光」である。

〔動画〕「われらが御主のシャリーアは光」 【転載禁止】
これはISの「首都」とされるラッカで、今年7月のラマダン(断食月)の終了の祝祭、イード・アル・フィトルを祝う風景の映像。夜店でにぎわう街には、日本と同じような「わた菓子」の屋台も出ている。子どもたちは祝祭のお出かけで、少し着飾っている。「ラッカでの生活は幸せです」と言う声ばかりを集めたプロパガンダ映像であることに留意しつつも、IS支配下の町には市民の日常生活があることがわかる。だがラッカは米軍主導の有志連合と、アサド政権双方からの空爆にさらされおり、人びとは戦争と隣り合わせで暮らしている。

f:id:ronahi:20160202041835j:plainISの支配地域では、裁判所は「イスラム裁判所」と書き換えられ、シャリーアによる司法制度が敷かれるようになった。法執行機関のひとつとしてヒスバと呼ばれる宗教警察が置かれ、イスラムに反するとみなされる行為を取り締まる。宗教警察機関はサウジアラビアやイランにも見られるが、ISは世界に自分たちのイスラム統治を宣伝すべく強力に任務を遂行している。飲酒、タバコの禁止などのほか、金曜礼拝時に商店を閉める指導、異教徒の施設や墓の破壊、迷信とみなす土着信仰の根絶などが進められている。写真はシリア・マンビジのイスラム裁判所。(IS映像)

f:id:ronahi:20160202041846j:plainラッカで同性愛者として高い建物から突き落として処刑される男性。どのように同性愛とされたか個別の経緯は明らかにされていない。姦通罪は投石処刑、強盗殺人は斬首、窃盗は手足切断、飲酒は鞭打ちなど細かい「規定」が決められていて、裁判所の裁定の上に刑が執行される。捜査や裁判が公正に行われているかは不明だ。(IS映像)

f:id:ronahi:20160401064917j:plainこれまでシリアでは、世俗主義のアサド政権下のもとヒジャーブ着用は地域や家族、個人の判断にゆだねられていた。ISは女児を除くすべての女性に着用することを布告。写真はISによるヒジャーブ着用規定で、各地にこの看板が掲げられるようになった。一般にヒジャーブは頭部と上半身を覆うものとされるが、ISは全身をすっぽり黒い布で覆うアバヤのような着衣をヒジャーブと呼んでいる。

f:id:ronahi:20160202041907j:plain米軍主導の有志連合の空爆は、ISの施設や車両を破壊するが、民間人の犠牲もあいついでいる。アサド政権軍の空爆はさらにひどく、無差別的におこなわれる。米軍は空爆の「軍事的成果」を強調し、他方、ISは住民被害を大きく伝える。(IS映像)

ラッカから逃れた住民によると、ISが「国家樹立」を宣言し、独自の行政を敷くと布告したとき、「人殺しや自爆しか知らない野蛮な山賊集団にいったい何ができるのか」と誰もが思ったと言う。ところがISは町の支配を固めると、統治機構の整備を実際に始めた。

ISは、シリア政府軍や自由シリア軍などの反体制諸派との戦争をすすめつつ、支配地域ではシャリーアに基づく行政システムを構築していった。市役所全般の業務、公共工事、裁判所、警察、徴税、学校教育、病院運営、農村管理など、およそ普通の自治体が担う行政のほとんどを行っている。

シャリーアと言っても、それはISがコーランを勝手に都合よく解釈した「法」だ。異教徒の墓地や寺院の破壊、女性は外出時、全身と顔を覆うヒジャーブの着用強制、窃盗は手足の切断刑、同性愛や姦通は公開処刑にされる。

こうした力の支配を進める一方、ザカート(喜捨)と呼ばれる貧者救済の扶助制度も整え、食糧配給や現金支給のような「生活保護」も実施する。内戦で経済も麻痺したなか、ほとんどの住民にとって生活は厳しい。ザカートによって命をつなぐ貧困住民がいるのは事実だ。だが、それが定期的に機能しているのかは不明なうえに、いつ自分が投獄、処刑されるかもわからず、米軍やアサド政権、ロシア軍の空爆にもさらされる。

映像の中で少年が「PKKと不信仰者との戦い」と話しているのは、シリアのクルド組織・人民防衛隊(YPG)の母体組織クルディスタン労働者党(PKK)と、自由シリア軍や政府軍、米軍などすべての反IS勢力を指している。この映像が撮影された数週間前には、YPGと自由シリア軍の合同部隊がISの北部拠点都市テルアブヤッドを陥落させたこともあり、ISが「聖戦キャンペーン」をしていた時期である。

クルド勢力自由シリア軍は、IS打倒へ向けた「ユーフラテスの火山作戦」を昨年から進めてきた。IS支配地域内にレジスタンスを組織して内乱やゲリラ戦を引き起こし、同時に外部から合同部隊がISを挟撃する構想だ。だが武器も資金も豊富なISは頑強で、最大拠点ラッカを攻略するのは容易ではない。逃げ場のない住民は、ISの統治と、各国軍の空爆の狭間で苛酷な日々を耐えるしかない。
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