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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【動画】歌から読み解くシリア・イラクでの戦争(7) イスラム国(IS) 恐怖の「処刑歌」は誰が歌っているのか

◆歌と処刑映像をプロパガンダにしたIS
武装組織イスラム国(IS)をこれほど知らしめたのは、その残虐さに加え、メディア戦術に長けていたことだろう。ISは処刑や殺戮を映画仕立ての編集で宣伝映像にして次々とネットで公開、誰もが世界中で見ることができるようになった。

実際の処刑映像の冒頭の1分間を抜き出してみた。シリア・ラッカで政府軍兵士13人が公開銃殺される場所に向かうようすだ。目隠しをされ、拘置施設から連れ出される兵士たち。街頭でひざまずかされ、「罪状」が読み上げられる。兵士たちはその後、頭を撃ち抜かれ、路上に横たわった死体がアップで映し出される。見る者の恐怖を極限にまで高めるのが、不気味な歌だ。

〔動画〕「我らは剣を手に」  【転載禁止】
シリア政府軍兵士が処刑される直前の映像部分。わずか1分間の映像にいくつもの不気味な歌詞が並ぶ。実際の処刑に合わせて流れることで見ている者をさらに恐怖に陥れる。ISの代表的な処刑歌のひとつ。
〔動画〕「この世を照らしたイスラム国よ」
(マヘル・ミシャール)
イスラム国テーマソング」といわれるほど知られたこの歌は、ISトップシンガーと呼ばれるマヘル・ミシャールが作り、自身で歌っている。彼の透き通るような声色や節回しに魅了された者も少なくない。おそらくマヘルがその場の戦闘員から請われて歌い、スマホで撮影された映像。
〔動画〕マヘル・ミシャールはサウジアラビアのカスィーム出身で1989年生まれ。これはISに入る前、歌手活動をしていた当時に出演したテレビ番組。甘い声で歌っていた普通の青年歌手が、のちに「ISトップシンガー」「処刑歌作曲人」とメディアから呼ばれるまでになる。(YouTube)

f:id:ronahi:20160202011155j:plain2013年5月頃、マヘルはシリアに向かったと見られる。ISに参加するとナシード歌手のかたわら、支配地域でのイベントの司会も務めている。写真(下)はシリア・アレッポ県で巡回広報活動するようす。子どものイベントを盛り上げるのがうまかったようだ。

f:id:ronahi:20160202014752j:plain【左】腹に自爆ベルトを巻いている。いつでも殉教できる、という決意を持つためにとくに外国人は戦闘時以外でも自爆ベルトを装着する場合が多い。
【右】イラク治安部隊から奪った米国製戦闘車ハンヴィーの前に立つマヘル。ツイッター写真より)

第1回記事でも書いたが、IS映像に使われるのはナシードだ。本来、ナシードとは唱歌で、イスラムにおいては「イスラム聖歌」である。キリスト教讃美歌やゴスペル、あるいは仏教賛歌のようなものといえばわかりやすい。ゆえにナシード自体が「殺戮賛美の歌」なのではない。

ISのナシードは、コーラスのように聞こえるが、その多くは1人の歌い手がいくつもの音階パートをデジタル複製して重ね合わせ、コーラスに仕立てている。シーア派武装組織のナシードがドラムやシンセを入れた軍歌調なのに対し、ISナシードには楽器が入ることはまずない。なによりISはその支配地域で、楽器を使った歌舞音曲を「イスラム法に反する」などとして禁止している。

戦闘歌は勇ましく、ジハード(聖戦)、正義、剣、勝利、ライオンなどの言葉が頻繁に使われる。そして、クッファール(アッラーを信じぬ者)、ムルタッド(背教者)、タグット(イスラムを抑圧する圧政者)といったISが好んで使う宗教用語も並ぶ。戦死した仲間を弔うときは、厳かで深淵な調べのナシードで「殉教者」を讃える。

基本的にボーカルだけのナシードは、パソコンと高音質マイクがあればどこでも録音できる。ナシードの歌い手は「ムンシッド」と呼ばれる。ISには何人ものムンシッドたちがいて、それぞれの声色を活かした多様な曲作りがなされている。

なかでも有名だったのが、ISトップシンガーと呼ばれ今月13日、シリア・ハサカで米軍の空爆で死亡したマヘル・ミシャールだ。サウジアラビアで歌手だったマヘルは、テレビ番組にも出演し、青少年のチャリティーイベントで司会などもしていた。

サウジのメディアによると、数年間、サウジのモスクで奉仕活動に従事したのち、歌手仲間とともにシリア入りしたという。台頭して間もないIS(当時は「イラク・シリアのイスラム国」ISIS)に合流するも、仲間は組織の目に余る残虐ぶりに心変わりし逃げ出したが、マヘルはそれでも残ることを決めたようだ。以降、アブ・ズベイルという組織名を得て、ISのナシードを自ら作曲し、歌い続けることになる。

マヘルが歌いあげるジハードの調べに魅せられ、外国人義勇兵としてISに加わった若者も少なくないだろう。 普通の青年歌手としての将来を捨て、シリアで死んだマヘル・ミシャール。その声は甘く、美しかった。 彼がシリアで歌いたかったのは、殺戮や処刑のための曲だったのだろうか。

マヘルの「続編」記事はこちら>>>

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