イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【動画】歌から読み解くシリア・イラクでの戦争(6) イスラム国(IS) 自爆突撃の「殉教戦士」はいつも歌っていた

◆戦場でいつも陽気に歌っていた男
その男はいつも陽気に歌っていた。名前はアブ・アハマド・アル・テュニスィ。チュニジアからの義勇戦闘員だ。武装組織イスラム国(IS)は毎日、各地の戦線からの動画報告を公開するが、いくつかの映像に映るたびに、おどけた笑顔を見せ、歌っていたのが彼だった。

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〔動画〕自爆突撃で死んだチュニジア人戦闘員アブ・アハマド  (04分05秒) 【転載禁止】
イラクで自爆トラックに乗り込むアブ・アハマド。ハンドルの右横の赤いボタンが起爆スイッチで、荷台の爆弾とケーブルで結ばれている。銃弾で阻止されないよう分厚い鉄板が溶接されたトラックで、仲間の道案内を受けながら目標地点へと向かう。イラク軍が銃撃を加えるが、そのまま突入。大きな煙が立ち上り、アブ・アハマドは「殉教者」となった。いつも空を仰いで「天国に行く」と歌っていた。ずっと死ぬ覚悟を決めていたようだ。

f:id:ronahi:20160201193626j:plainコバニの町の入り口にある「ようこそコバニへ」とクルド語とアラビア語で書かれた看板の前でおどけて自分撮りするアブ・アハマド。ISはコバニを「アイン・アル・イスラムイスラムの泉)」と呼び、侵攻後、看板を塗りつぶした。ISだけで2000人以上が戦死したコバニの激戦を生き残り、半年後に500キロ離れたイラク中部の戦線を自身の「殉教の地」に選んだ彼にはどんな思いがあったのか。(ツイッター画像より)

f:id:ronahi:20160324171309j:plain自爆で戦死したのち、ISメディア部門が公開したアブ・アハマドの写真。自爆突撃直前に撮影されたものと見られる。

f:id:ronahi:20160201193646j:plain【写真上】シリアの田舎町で、子どもにお菓子を配る。

【写真下】コバニでの戦闘で、後ろで車が燃えていても笑顔だった。これは動画映像もあって、IS支持者からは「敵の殲滅を高らかに嗤う戦士」、クルド側からは「笑う殺人鬼」と呼ばれていた。

昨年、シリア北部コバニでクルド組織との戦闘が最も激しかったころ、ISが公開した動画のなかにアブ・アハマドは何回か登場する。後ろで米軍の空爆の黒煙が立ちのぼろうと、すぐ脇で車が燃えていようとも、白い歯を見せながら笑顔で歌っていた。

ちょうど彼がコバニにいた昨年12月、自分も同じ町に入って取材していたこともあり、砲弾を撃ち込んでくる先に、こういう男もいたのかと、のちに彼の映像を見て不思議な気分になった。

彼の姿が次に映像で確認されたのは、今年5月。イラク中部の石油施設の前線で、自爆車両に乗り込む様子だ。爆弾を満載したトラックの座席に座り、これから殉教するのだと語る。そして、このときも白い歯を見せ、歌っている。 記録では「殉教作戦は5月17日に遂行」となっている。

IS広報部門は、アブ・アハマドの歌を織り込んだ追悼映像を公開。毎日、何人もの自爆戦闘員がいるなか、こうした扱いは特別ともいえる。この時の映像では、笑顔ではなく、自爆トラックとISの旗の前でバグダディを指導者とする「カリフの国」への忠誠を静かに述べて、最後のメッセージを締めくくる。

彼の友人が残したブログによればチュニジアには妻と子供がいたらしい。仲間のツイッター写真には、レストランでくつろいだり、シリアの田舎町で子供にお菓子を配る姿も映っている。

きっと歌を自分の友とし、仲間からは慕われていたのだろう。こんな戦争に参加していなければ、気のいい男としてチュニジアで別の人生を送っていたかもしれない。 異教徒という理由だけで住民を殺害し、人間の首をナイフで容赦なく切り落とす組織になぜ加わったのか。 彼らの侵攻でコバニを追われて故郷を失い、難民となった住民は10万以上にのぼる。

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ケーキ店で仲間と写るアブ・アハマド(左)。右はチュニジア人の有名なラップ歌手からIS戦闘員となったEmino。同郷のチュニジア人どうし仲がよかったようだ。さらにその右にはヨルダン人パイロットを拘束したと映像に映っていた戦闘員。おそらく同一人物ではないかと言われている。

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