イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【動画】歌から読み解くシリア・イラクでの戦争(3) イスラム国(IS) フランス語で「移住」呼びかけ

イスラム国(IS)が5月に公開したフランス語の歌によるメッセージ、「手を伸ばし忠誠を」はイスラム宗教歌ナシードとフランス・テーストのメロディが融合されていて、ISナシード特有の重さや不気味を感じさせない。歌詞で繰り返されるのは、バグダディを指導者とするイスラム国=「カリフの国」への移住だ。シリア・イラクでの戦いをジハード(聖戦)とし、言葉巧みに戦争に駆り立てる。

◆フランス語で「移住」呼びかけ外国人勧誘
歌に出てくる「移住」(ヒジュラ)という言葉は、単純にシリアのIS支配地域に移り住むという意味ではない。「ヒジュラ」は、預言者ムハンマドがメッカを追われ、教友や家族らとヤスリブ(のちのメディナ)に移ったことを意味する。ムハンマドはそこでイスラム共同体(ウンマ)を築き、勢力を拡大させメッカへと戻った。またこれまでの社会関係を断ち切って、新しい人生を新天地で始めるというニュアンスも含む。そこからは、「カリフを頂点とするイスラム国」への移住とバグダディ指導者への忠誠を宗教的な行為にさせようとしていることがうかがえる。

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〔動画〕「手を伸ばし忠誠を」(フランス語) (転載禁止)

ヨーロッパでの暮らしを捨て、シリアに向かう。トルコ国境の鉄条網をくぐり、ISに合流、戦闘訓練を受けて前線に立つ。ISに参加してくる若者たちの姿そのままが描かれるが、映像に映らないのは、こうして戦闘に加わった若者たちがあっけなく戦死したり、自爆要員として使い捨てにされている事実だ。死ねば天国に行けると教え込まれ、住民殺戮にも手を染める。家族で「移民」を果たしても、仕事があるわけでもなく、若者はまっさきに戦闘に送られる。

歌詞にある「復讐しよう」をどう捉えるかは難しい。歴史のなかで時の圧政者や異教徒からイスラム教徒が受けてきた迫害や、現代のイラクやシリアのスンニ派が、シーア派やアラウィ派と向き合ってきたなかで芽生えた復讐心とは異なるように感じる。フランスのイスラム青年はこの「復讐」と言う言葉を、移民の閉塞感、キリスト教社会での異質な存在と扱われた自分たちの経験など、個々の境遇からくる鬱屈した思いの入り混じったもののとして受けとめるのではないだろうか。 シャルリ・エブドー襲撃事件で、フランスでのイスラムへの偏見が拡大することが懸念されるなか、ISはイスラム系移民の感情に取り入り、過激主義に引き込もうとしている。そうしたタイミングで出たのが、このナシード音楽「手を伸ばし忠誠を」だと言える。

映像の最後に登場するフランス人は、アブ・スハイブ・アル・フランシで、早い段階からシリア内戦に参加し、ヌスラ戦線を経て、ISに加わった。プロパガンダ映像に繰り返し登場し、ISの広告塔となっている人物だ。映像では銃を掲げて「ここが我らの生きる土地だ」と、「イスラム国」への移住を人生の新天地のように表現する。だが、ISの恐怖支配によって多くの地元のキリスト教徒やイスラム教徒の住民が故郷を捨てて難民となり、暮らしてきた土地を奪われている現実がある。(つづく

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(歌には日本語の翻訳をつけましたが、わかりやすいように意訳した箇所もあります。特定の勢力の宣伝に荷担することを意図するものではなく、いま起きている戦争のひとつの側面を歌から読み解くという趣旨で掲載しています)

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