イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【写真解説】イスラム国(IS)の映像に映るアジア人戦闘員たち(4)~中国のウイグル人を引き寄せるIS戦略

今月、武装組織イスラム国(IS)が公開した映像のなかに、複数の中国のウイグル人が登場している。80歳というウイグル人の老人のインタビューでは、ウイグル人がいかに中国で弾圧を受けてきたかが語られている。ISはそうした人びとの思いまで、過激主義の渦の中に引き込もうとしている。中国政府の厳しい抑圧にさらされてきたウイグル人。その一部がいま、ISのような住民殺戮をいとわず、ヤズディ教徒やシーア派系住民を迫害する武装組織に参加している現実に複雑な思いを抱くばかりだ。

主要な亡命ウイグル団体は、ISの過激主義と中国のウイグル人抵抗運動は分けるべきとしている。中国政府がISの宣伝を口実に、ウイグル住民監視と統制を強化させる懸念も広がる。(写真はすべて2015年 IS映像)

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80歳という老人は、息子のひとりがシリアでの戦いに参加し、戦死したことがきっかけで、自分もこの地でジハードに参加することを願い4人の孫、そして娘と妻とともにやってきたとウイグル語で話す。「シリア入りののち軍事訓練に加わったが、実戦で銃を持つことは上層部から許可が出ず、警備任務に配置されている」とこの映像では話している。

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老人は「共産主義無神論者の中国政府は、ウイグル人イスラム信仰を抑圧してきた」と弾圧と迫害の歴史を語る。イマムだった自分は地下で信仰を守ってきた、学校でウイグル女性は身を覆うヘジャブの着用を禁止するなど迫害された、と話す。だがISという組織がシリアとイラクの支配地域でおこなっていることは、ヤズディ教徒を虐殺、奴隷化し、シーア派を処刑し、キリスト教を追放し、教会や墓地を破壊する他宗派、異教徒の迫害である。ISは、ウイグル人の中国での過酷な経験をも運動に引き込み、老人を宣伝映像で利用しようとしている。

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ウイグル人の映像が公開されたのは6月上旬で、アレッポ県広報部門制作とある。ISは各地域ごとに広報部門を置き明確に役割分担をしている。このことからこの映像の撮影場所はアレッポ県があるシリア北西部地域と思われる。

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先月公開された別の映像に映っていた同一人物と思われる老人。外国人戦闘員を含むIS部隊がアサド政権のシリア政府軍の拠点攻撃に向かう映像で、ハイル県広報部門制作とある。ハイル県(またはカイル)はISが支配地域で独自に行政区分をおこなってシリア東部のデリゾール県を改名した地域。1枚目の写真がアレッポだとすれば、この老人を含むウイグル人のいる部隊は相当の距離を移動していることになる。戦闘詳報として映像が公開されたのは5月上旬であり、アレッポ映像が公開された6月には、すでに他のウイグル人らとともにデリゾールの前線に移っていたのではないか。この映像では、戦車による自爆突撃でシリア軍陣地を吹き飛ばし、制圧する様子が記録されている。

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アレッポ県発の映像には、ウイグル人とみられる子どもも映る。場所はおそらくマンビジではないか。直接、中国の新彊ウイグル自治区からシリア入りしたのか、第3国に居住していた亡命ウイグル人かは不明だが、中国政府に向けた強いメッセージを発していることから、中国・新彊出身のウイグル人である可能性は高い。

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この学校ではアラビア語コーランを学んでいるようだ。「中国よ、よく聞け。僕たちはこの旗をトルキスタンに立てる」と言って少年はISの黒い旗を指さす。

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IS支配地域で医療活動に従事するという男性がウイグル語で話す姿も映像には映っている。自分の経験を「イスラム国」のために役立てている、と話す。

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ISは老人を宣伝映像に登場させて、ウイグル人のジハードへの参加を呼びかける。だが、クルド治安当局者の情報として、今年初めには、IS支配地域から逃亡を企てたとしてウイグル人数名が処刑されたとも報じられている。中国で抑圧されるウイグル人の運動は、文化的、宗教的な権利拡大を求める穏健なものから、武装闘争による東トルキスタン独立運動まで組織も潮流もさまざまで、IS支配地域にいるウイグル人を全体化させて見るべきではない。

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6月上旬に公開された別の映像。アレッポ近郊ソランで自爆突撃をする「殉教戦士メッセージ」とされる。戦士アブドルサラーム・トルキスタニとあり、ウイグル人と思われる。背後が自爆攻撃車両と見られ、突入時に阻止されないよう前面と側面は鉄板が溶接してある。さらに格子状の鉄枠は対戦車ロケット砲を防ぐために取り付けられたもので、ISが自爆車両によく使う。一部のウイグル人が過激組織ISに参加していることをもって、中国政府が新彊ウイグル自治区での住民弾圧を拡大させることも懸念される。

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イラク・サラハディン県でイラク軍施設に対し自爆攻撃を敢行したウイグル人と思われる戦闘員。アブ・サディク・トルキスタニと組織名がつけられている。サラハディンでは同じ日、連続自爆攻撃が相次ぎ、ドイツ、イギリス、クウェートパレスチナ、ダゲスタンなどの戦闘員らが自爆車両で死亡。ISは多国籍の戦闘員を使うことで宣伝に利用している。ひとさし指1本を立てているのは、「神はアッラーのみ」を意味する。

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