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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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〔シリア・イラク〕 イスラム国(IS)日本人人質事件(6) 後藤さん殺害映像の重さ

◆過激主義とどう向き合うか
2月1日、後藤健二さんを殺害したとみられる動画がウェブ上にアップされた。もし事実とするなら、人質事件はたいへん厳しい結果を迎えたことになる。悲しみと怒りが交錯する複雑な心境だ。 1月29日の後藤さんの3回目の音声メッセージは、静止画写真のない、音声とテキスト文字だけのものだった。さらにメッセージは日本政府でなく、ヨルダン政府宛で、「リシャウィ死刑囚の釈放がなければ、拘束中のヨルダン人パイロットを殺害」とするものだ。これまでの欧米人人質事件と異なった流れで、猶予期限も実質1日である。トルコ国境にリシャウィ死刑囚を移送しろ、としながら、シリア時間でなく1時間時差のある「イラク・モスル時間」で期日を指定していることから、後藤さんはモスル近郊で拘束されているか、そこが解放場所となるかとも推測された。

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3回目の音声メッセージが後藤さん最後のメッセージとなった。「イラクのモスル時間の29日の日没までにリシャウィ死刑囚をトルコ国境まで移送して解放されなければヨルダン人パイロットは殺されることになる」としている。

過去の人質事件では解放にいたった人質事件もあったものの、ISは殺すと判断すればためらわない。前々回でも書いたが、やはり容易に信用できる相手ではなく、交渉の難しさがあらためて浮き彫りとなった。一部メディアのあいだでは、後藤さんは解放されるのではないか、という読みもひろがっていただけに、IS側が後藤さんを殺害した経緯はわからない。最初の殺害予告が出た段階で、湯川さん、後藤さん、ヨルダン人パイロットのいずれもがすでに殺害されていて、世界中のメディアが振り回され、結果的にISの宣伝に利用されただけだったのかもしれない。

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後藤さん殺害映像とみられる動画。左上にISの公式映像を示すフルカーンのロゴがある。映像のタイトルは「日本政府へのメッセージ」となっている。

ISの本体組織が特別に計画を練ってすぐに日本人や関連機関を実際に狙う可能性は低いだろうが、ネットでこうした言葉はすぐに拡散される。世界中にいるシンパ層のあいだこの認識が広まれば、外国駐在の日本企業、NGO、観光客もいつかは標的とされるかもしれない。 「テロとの戦い」が抱える矛盾は、強い姿勢を打ち出すほど、標的とされる度合いが高まるということだ。戦って死んで殉教すれば名誉と信じる人間を相手に、「おまえらには屈しないぞ」と言ったところで通用しない。

例えば「日本や日本の人びとは人道を尊重し、軍事には手を貸さない」という認識が広まることは有効な防御ともなるだろう。それは過激主義に媚びたり、理解者となるという意味ではない。 これまでのアメリカの軍事的な戦いがいかに失敗し、自国民、他国民にどれだけの犠牲を出してきたか、誰がイラク混乱のきっかけを作り出したかを考えれば、アメリカ建国史上もっとも長い14年にわたるこの戦争に付き合い続け、言われるままに軍事的な役割を担っていくことが、日本にとってベストな選択なのかどうか。それでもいい、ずっとついていきます、というなら、それなりの覚悟も問われるだろう。過激主義を生まない土壌を時間をかけてでも作っていくことも、安全保障のひとつとなるのではないか。アメリカを批判すると「反米=左翼」、武装勢力批判をすると「親米=保守」といった偏狭なレッテル貼りが日本ではいまでも見られる。ISの問題はこうした次元で語れるものではない。

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ISと関係の深いメディアRMCは、ラッカで街頭インタビューをし、「日本はヒロシマナガサキでアメリカに何をされたか、その歴史を忘れたのか」「十字軍を支持するのではなく、人質と引き換えに2億ドルを支払うべきだ」「日本はISを攻撃するアメリカを支持した。支払わなければ人質は殺されるだろう」などの声を紹介、人質事件の責任は日本にあるとする映像を公開した。身代金からリシャウィ死刑囚の釈放要求に変わる前に撮影された映像と思われる。(1月30日)

人質事件は後藤さんの殺害映像以降、日本のメディアの関心は政府対応など国内に移っている。IS支配下の人びとにとってはいまも、そしてこれからも過酷な状況は続くということであり、何も問題は解決していない。メディアが目を向けるべきは、そうした戦火のなか苦しむ人びとであり、それこそ後藤さんが伝えたかったことでもあるはずだ。 (つづく) (2015/02/02)
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