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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

クルド衛星放送ROJ-TV(ロジテレビ)裁判から見えてくるもの(4)言語と民族の権利とクルド問題

◆クルド関連

 ◆言語と民族の権利とクルド問題
トルコ人のジャーナリストとクルド問題をめぐって話をしたことがある。テロリストの放送局がなぜ認められるのか。ヨーロッパはこれを許しているのか。アルカイダなどテロ組織には連携して対処しているのに、PKKには及び腰なのか。問題を起こしているのは政府ではなくPKKではないか。トルコ国民にはこうした感情がある、と彼は話してくれた。

f:id:ronahi:20160225125048j:plainロジテレビのニュースは主要方言のクルマンジ、ソラニのほか、ザザ方言、トルコ語アラビア語でもおこなわれていた。写真はクルマンジでニュースを伝えるヘヴィ・ラペリン(2004年・撮影:坂本・ベルギーの放送センターで)

f:id:ronahi:20160225125058j:plainアナウンサーのヘヴィ・ラペリン(右)は、トルコで生まれた。幼い頃、父がトルコで政治活動をして投獄され、スウェーデン政治難民として逃れた。

f:id:ronahi:20160225125108j:plainスタッフは約150人。移民や難民としてヨーロッパにやってきたが、故郷のために貢献したいとボランティアで手伝う若者もいた。

f:id:ronahi:20160225125117j:plainロジテレビの天気予報。トルコ、シリア、イラクなどで改名された都市の名前をクルド語本来の呼び名にしている。トルコは建国後、クルド語地名をことごとく変えてきため、ロジテレビで初めて各地の地名を知るクルド人も少なくなかった。

トルコ人のなかには、もし自分たちの存在を認められず、言葉を話すことさえ禁じられたら、とクルド人の苦悩に理解を示す知識人もいる。だが、そうした主張は「テロリストに人権なし」の声にかき消されてきた。

トルコがそもそもクルド人の民族的権利や言語の権利を認めてさえいれば、過激な武装闘争をするPKKが急拡大することはなかっただろう。そしてロジテレビのように国外から衛星で電波を送り続けて放送をすることもなかったといえる。

言語も民族存在も認められず、村が焼かれ、投獄され、拷問される。そうした極限の状況下を突きつけられながら、世界のどの国も自分たちを助けてはくれない。それがクルド人をPKK支持へと向かわせた。こうした背景を踏まえなければ、ロジテレビ裁判の本質は見えてこない。

ヨーロッパのメディアのなかには今回のロジテレビ裁判を、2005年にデンマーク紙が掲載した預言者モハンマド風刺画問題を引き合いに出して取り上げたところもあった。しかし、今回の裁判はモハンマド風刺画問題のような言論・表現の自由と、宗教への冒涜の問題とは異なる。

言語を奪われた民族が、自分たちに起きていることを自身の立場から報道し、伝えることがどう保証されるのか、というのが問題の重要な部分だからだ。 トルコでは建国以来、クルドと名のつくものは認められないばかりか、民族存在や言語そのものを同化による抹殺が加えられてきた。言葉を認めて欲しい、と言えば、「国家分裂を企てる分離主義」とみなされた。

子ども番組でさえ放送は認められず、クルド人の権利を主張して投獄された政治家や文化人は数知れない。ロジテレビ裁判を「言論の自由」「テロ問題」の視点で見ることは問題を矮小化してしまうことになる。

ロジテレビのアナウンサー、ヘヴィ・ラペリンは、トルコ・ウルファ近郊の村で生まれた。父が政治活動をしたとして投獄され、幼い頃に家族とともにスウェーデン政治難民として逃れた。彼女は言う。 「民族にとって言葉がどれほど大切か誰もが知っているはずです。でもトルコのクルド人にはそれが認められなかった。文学や歌さえも抹殺されてきた。母から受け継いだ自分の言葉を話すだけで、なぜ血が流れなければならないのでしょうか」

トルコはエルドアン政権になって以降、クルド政策への転換がはかられた。
「PKKにはいっさい譲歩しない」としながらも、クルド人が求めてきた権利の一部をトルコ政府は認めるようになった。国営テレビTRTでクルド語放送がおこなわれるようになったことは最大の変化といえる。EU諸国からの圧力、融和的な政策と見るクルド人も少なくないが、これまでのような抹殺と同化を推し進めることはできないとトルコ政府が認識したのは事実だろう。なによりそれはクルド人が声を上げ続けたからである。

今回、デンマーク当局がロジテレビ閉鎖へ向けた具体的措置に動いたのも、これまでのようなクルド語の言語的権利をめぐる状況が変化したため、一歩踏み込んだ措置を取りやすくなった、という事情も見てとれる。 クルド問題とは、クルド人が引き起こした問題ではないし、トルコ国内だけの問題でもない。周辺国と大国の利害、そして国際政治が民族を翻弄し、国際社会が無関心を決め込んできた結果起きた問題である。 裁判の判決は、来年の年明けに出される見込みである。 (裁判結果記事>> 2012年)


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