イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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トルコ国営放送TRTがクルド語放送を開始

 ◆トルコ・クルド問題解決のステップなのか 融和懐柔策か
トルコ国営放送TRTがテレビとラジオでクルド語の放送TRT6を始めた。 実際に放送を見て、驚いた。 なんという変化だろう。これはさまざまな意味でトルコの歴史に残る政策転換である。建国以来、「クルド人もクルド問題も存在しない」としてきたのが、かつてのトルコの公式な立場だったからだ。

f:id:ronahi:20160225141826j:plain2009年4月に放送を始めたトルコ国営放送TRTのクルド語放送TRT6。トルコで主要なクルド語クルマンジ方言とザザ方言で放送される。

f:id:ronahi:20160225141839j:plainTRT6はネットでも視聴できる。TRT6 >>

TRTは2004年にも一時、部分的にクルド語放送を始めた。だが、それは1週間にわずか30分だけで、「クルド語」とはいわず、クルド語の主要方言名である「クルマンジ」「ザザキ」として表現された。 「アナトリアの豊かさを示すいくつかの言語集団のため」として、アラビア語、チェルケス語などと並んで1週間のニュースをまとめたスポット番組というものだった。番組を観ている者はほとんどなく、「トルコのクルド政策を問題にするEUに対し、トルコ政府が批判をかわすためにしぶしぶ始めた放送」というのが多くのクルド人の見方であった。

それに比べると、今回のTRT6は24時間の常時放送枠である。 トルコ政府はそれなりに開局準備をすすめていたようだ。昨年、イスタンブールで同局の幹部プロデューサーらがクルド系出版社や知識人らを招待してパーティーを開いた。 その際、「政府が公式にクルド語放送を始める予定だが、きちんとクルド語を話せる人材が足りない。ぜひ協力してほしい。ただし政治的でない人物に限る」と政府側の人間が呼びかけたという。

パーティーに出席したクルド人たちはこう言って苦笑したそうだ。「きちんとクルド語を話せないようにトルコ語教育をして言語を奪い、同化政策を強いてきたのはそもそも政府ではないか」。トルコでクルド語を話すこと自体が政治的とみなされてきたなかで、クルド語をきちんと話せる人物で政治的でないでない者などいない、とこのパーティーに出席した知人は話してくれた。クルド語の権利やクルド人と主張したために長期投獄された者、閉鎖された出版社は数知れない。トルコでは、「クルド」そのものが政治的であったのだ。

しばらく自分なりにTRT6を視聴してみた。一部の表現は独特だが、言葉だけを聴きとる限り、基本的にはロジテレビのクルド語とほとんどかわらない。トルコ政府は「ロジテレビ=PKK」という立場ながら、かなり意識した作りになっている。

トルコのクルド人は、TRT6をどう受けとめているのだろうか。いろいろ聞いてみたが、PKK支持者はかなり冷めた見方をしている。 「政府のやることだから信用できない」。「建国の父アタチュルクのおかげでトルコ人の国、トルコが成立した」とクルド語で聞かされても、それは自分たちの思いではない、というような声もあった。

TRTでは放送規定があって、PKKと表現する場合は「分離主義テロ組織PKK」、ゲリラは「テロリスト」としなければならない。ところがTRT6を注意して見てみると、トーク番組などではゲリラを「シェルワン(戦闘員)」と表現する出演者も一部にいて、クルド人スタッフも苦闘している様子が垣間見える。

TRT6として始まったクルド語放送が欧米諸国による人権問題への圧力の結果ではあるし、EU入りを目指すトルコ政府の融和的措置という側面もある。

いままでクルドを抑圧してきた政府が、過去の政策への反省もなく、また憲法上の規定もあいまいなまま始まったクルド語放送である。だが、「民族そのものが否定されてきた時代」が続いたトルコでクルド語放送の扉が開いたのは大きな変化だと個人的には感じる。

この変化はいずれさまざまなところで影響を及ぼすことになるだろう。こうした変化は、クルド人たちが長期投獄や拷問など過酷な弾圧にさらされながらも、自身の言語、文化への権利について声を上げ続けたゆえにもたらされたものだという部分は押さえておきたい。 TRT6 はネットでも視聴できる。

一度見て欲しい。TRT6 >> クルド語を知らない者には普通のテレビ放送である。だがクルド人にとっては政府が奪ってきた言葉で政府機関のTRTが放送を始めたことは大きな驚きである。たったこれだけの放送をトルコはしてこなかったし、そのためにたくさんの血が流れた。

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