イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【動画・日本語訳】空爆による住民被害をイスラム国(IS)はプロパガンダでどう伝えているのか

「十字軍同盟VSイスラム」の構図で描く
イスラム国(IS)拠点に対して続く空爆。車両や軍事施設を狙った爆撃では、住民も巻き添えとなっている。住民被害が出るとISは宣伝映像で公開し、「十字軍同盟がムスリムを殺戮している」と伝え、世界に向けて発信してきた。プロパガンダの一部であることに留意しつつ、空爆の犠牲になっている住民がいる状況も知っておくべきだろう。

【動画1】有志連合の空爆による住民犠牲(一部意訳)

2015年6月に公開されたIS映像。シリア・アレッポ県コバニ近郊の村での60人以上が犠牲となった空爆での家族を殺された住民の怒りの声を伝えている。この事件があったのは事実で、コバニとマンビジ間の村で起きた。映像には「十字軍によるムスリムへの空爆」とタイトルがつけられ、死傷した子どもたちを映し出している。(2015年・IS映像)

【動画2】有志連合の空爆による住民犠牲(一部意訳)

2015年11月公開のイラク・モスルでの空爆被害映像。タイトルは「十字軍・サファウィによるムスリム住民に対する空爆」となっている。イラクでは無人攻撃機を含む政府軍機と有志連合機がIS拠点を爆撃してきた。「サファウィ」とはサファヴィ朝ペルシアのことで、ISは「現代のペルシア帝国たるイランの後押しを受けたイラクシーア派政府」という位置づけで使っている。「イラク政府は西側キリスト教世界の十字軍同盟と結託してムスリムを殺戮している」とISは描く。挿入された歌は、「この屈辱、なぜゆえに」というナシード。住民犠牲が出たり、過酷な試練に直面する動画でよく使われる。空爆被害に「苦難と屈辱にさらされるウンマイスラム共同体とその民)」とする歌詞を重ね、心情に訴えかけるつくりになっている。(2015年11月・IS映像)

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【IS系アマーク通信】IS系メディアが伝えるイラク・モスルでの空爆被害者の映像。ISプロパガンダの一部であることに踏まえた上で見るべきだが、もしIS側のメディアがこうした映像を出さなければ、有志連合やイラク政府、シリア政府は住民被害の状況を伝えただろうか。テロ扇動を防ぐためにIS映像はすぐにネット上から消される。若者が感化されたり戦闘員のリクルート活動に使われないよう一定の規制はしかたない部分もある。だが住民犠牲の事実までなかったことにされるべきではないだろう。(IS系アマーク通信・2017年2月・イラク・モスル)

ISは宣伝映像で「十字軍 VS ジハード戦士」ではなく、ムスリムイスラム教徒)が被害者となっていると描く。

「十字軍 VS イスラム」の構図で空爆被害を伝え、これが世界のムスリム同胞に向けたシリア・イラクでのジハード参加の招請や、各地での報復のための決起扇動に利用されてきた。

空爆と住民被害については、さらに次回に続く >>

<< 前回 【動画】IS壊滅の空爆作戦で住民巻き添え被害も

◆IS・イラク・シリア・クルド情勢の
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【動画】イスラム国(IS)壊滅の空爆作戦で住民巻き添え被害も

◆逃げられぬ住民、増える犠牲
米軍主導の有志連合、そしてロシア軍は、イスラム国(IS)に対する空爆作戦を続けている。アメリカがトランプ政権になって以降、IS壊滅戦が加速したこともあり、空爆回数は増えた。有志連合側は精密爆撃を強調するが、巻き添えで死傷する市民も絶えない。「テロとの戦い」のなかで多数の住民が犠牲となり、ISはそれを宣伝に利用する。

【動画1】有志連合映像・密爆撃について(一部意訳)

空爆は軍事的には確かに効果があるし、ISを短期間で壊滅させるには有効な手段である。IS重要幹部の多くが、地元情報をもとにピンポイントで狙われ殺害されてきた。有志連合側は、広報映像で「精密爆撃」を紹介し、住民被害を極力少なくする努力をしているとアピールする。一方で、誤爆や巻き添え犠牲について、住民死傷者の統計や被害詳細は有志連合からは積極的に公表されず、人権モニター団体などがまとめたものを通して実態の一部が伝えられる程度である。(2017年4月・CJTF-OIR映像)

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【有志連合】有志連合には欧米だけでなく、ヨルダン、サウジなどの中東諸国も参加。シリア・イラクでの空爆作戦は、軍や軍需産業にとっては実戦データを集め、改良兵器を使用できる有効な場である。IS壊滅戦が兵器の実験場や見本市ともなっているのはこの戦争のもうひとつ姿でもある。有志連合は連日、IS拠点への空爆状況をサイト上で公表するが、住民巻き添え被害の詳細について具体的に触れられることはほとんどない。(CJTF-OIR写真)

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【IS写真】ラッカのIS拠点上空に飛来した米軍のA-10攻撃機とみられる機体。ISは、「十字軍同盟がムスリムを標的としている」といった構図で描こうとしている。 (2017年7月・ラッカ・IS写真)

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【IS写真】機関砲で対空攻撃をするIS戦闘員。 (2017年7月・ラッカ・IS写真)

【動画2】IS系アマーク映像「ラッカでの空爆での住民被害」

SDFは住民の退避路を開きながら、民間人被害を抑えようとしているが、それでも犠牲は出る。有志連合側は空爆や砲撃によって住民の巻き添え被害が出る前提で、「犠牲もやむなし」と作戦を続けている。民間人被害について犠牲者の把握や補償、国際法上の責任も問題とされないまま、「テロ組織を壊滅させるため」と、民間人殺害が黙認されている現実もある。この映像の後半で男は、「十字軍同盟の空爆ムスリムと子どもが犠牲になっている」と話す。(2017年5月・ラッカ・IS系アマーク通信映像)

【動画3】IS系アマーク映像「ラッカでの米軍による空爆と負傷住民」

有志連合やロシア軍による空爆は「精密爆撃」だけではない。シリアの人権監視団体はIS壊滅戦の現場でクラスター弾白リン弾なども使用されているとしている。これは先月18日、IS系アマーク通信が伝えた「ラッカでの米軍による空爆と負傷住民」とする映像。爆弾の種類にについての説明はない。IS系映像ではあるが、広範に被害が及ぶ爆弾で住民が犠牲となっている現実があるのは事実だ。(2017年7月・IS系アマーク通信映像)

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【コバニ戦シリア・コバニがISに制圧されかかっていたとき、有志連合がIS拠点を爆撃したときの写真。数百メートル先のIS拠点に着弾すると地面や建物が大きく揺れた。このとき、住民はトルコに難民として避難し、町のIS地域にはIS戦闘員しかいなかった。クルド組織・人民防衛隊(YPG)は、「ISに奪われたら町は2度と戻ってこない、住宅地を破壊してもかまわないからISを叩く」という決断をし、有志連合にIS陣地を日々詳細に伝え、上空から絶え間なく爆弾が投下された。(2014年12月・コバニ)

【動画4】コバニ戦・IS拠点への空爆

同じ場所で撮った動画はこれ。このときは米軍機による空爆と思われるが、有志連合の他の国も爆撃に参加していたほか、無人航空機(攻撃型軍用ドローン)も投入されていた。IS側からはカチューシャ(ロケット弾)も撃ち込まれるなど激しかった。コバニ攻防戦では、ISが武器や物資を送り込んでくるラッカからの幹線道では住民がいるのであえて空爆を控え、コバニの戦闘地域にISが入ったのを狙って爆撃していた。ラッカ戦では状況は少し違って、いまも住民が市内に多数の残っているため、巻き添えを避ける空爆は容易ではない。(2014年12月・コバニ・撮影:坂本)

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【ラッカ】有志連合機がラッカ住民に向け上空から投下したビラ(いわゆる伝単)。ラッカで反ISの地下メディア活動を続ける組織「ラッカは静かに虐殺される」が昨年SNSで公開したもの。住民にラッカからの脱出を促している。実際には生活がある上、周辺農村では農地や家畜もあるため、脱出も容易ではない。(2016年・「ラッカは静かに虐殺される」写真@Raqqa_SL)

ISは「ムスリム住民が殺されるから報復をする」などとして欧米でのテロを正当化する。ISによるテロ犠牲者については悲しみと怒りをもって詳細に伝えられ、ホワイトハウスエッフェル塔もライトアップをして追悼する。他方、テロ組織壊滅のために空爆の犠牲になっている住民について、その数や名前がどれだけ伝えられているだろうか。それがいまの「テロとの戦い」の別の側面でもある。

ISが空爆被害を、どのように宣伝映像で伝え、利用しているかについては 次回 >>

<< 前回:シリア民主軍(SDF)、ラッカでISとの攻防

◆IS・イラク・シリア・クルド情勢の
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【動画+写真14枚】シリア民主軍(SDF)、ラッカでイスラム国(IS)との攻防続く

◆ラッカ全体をSDFが包囲
イスラム国(IS)の最大拠点都市のひとつ、シリア・ラッカの攻略戦を進めるシリア民主軍(SDF)は、これまでに市内の一部地域を制圧。米軍主導の有志連合の支援を受けながら、IS拠点への包囲網をさらに狭めつつある。一方、IS側は自爆車両攻撃や、スナイパーを配置して徹底抗戦を続ける。双方の戦闘のはざまで犠牲となる住民もあいついでいる。

【YPG動画・日本語訳】ラッカからの脱出住民(一部意訳)

SDFを主導するクルド組織・人民防衛隊(YPG)が公開した映像。ラッカからの脱出住民の様子を伝えている。映像には、父を失い、またISに強制されていた黒いヒジャブを焼く女性の姿が映る。(YPG映像・2017年7月20日)

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SDFによるラッカ攻略を目指す「ユーフラテスの憤怒」作戦が開始されたのは昨年11月。4段階のステップでラッカ近郊一帯に進撃し、今年6月上旬には「市内突入の大攻勢戦」が宣言された。SDFは近郊住民を脱出避難させながら、各地区の攻略を進めている。シリア各派の勢力図は7月下旬の状況。(だいたいあってると思います。細かいところはご容赦)

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【SDF写真】ラッカ西部でBMP-1で進撃するYPG部隊。(2017年6月・SDF映像)

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【YPJ写真】ラッカ攻略は、近郊の農村地域の制圧から市内を包囲する形で進められてきた。(2017年7月・ラッカ・YPJ映像)

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【SDF写真】ラッカ市内のISはすでにSDFに包囲され、全体の4割ほどがSDF側に制圧された。(2017年7月・SDF映像)

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【SDF写真】 軍事訓練を経て部隊に編制されたSDF戦闘員。この部隊はクルド人でなく、アラブ人。シリア北部各地で増員がはかられている。(2017年6月・SDF映像)

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【SDF写真】うしろに座っているマルチカムの迷彩服でサングラスしてるのはおそらく米軍関係者。シリア内戦当初はアメリカは自由シリア軍とかを支持していたが、支援金を持ち逃げされたり、戦闘員の志気低下などで支援政策としては失敗に終わった。アメリカはNATO同盟国トルコの反発もあって、クルド勢力には限定的な支援しかしなかった。ISの脅威が世界に広がるなか、積極的なクルド支援に転じた。(2017年6月・SDF映像)

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【YPG写真】アメリカが供与した装甲車で出撃するYPG戦闘員。トランプ政権になって以降、軍事支援は拡大し、シリアへの米軍地上戦闘部隊も増派された。IAG装甲車両の供与は、トランプ大統領就任のタイミングとも重なったことから「トランプからのクルド勢力へのプレゼント」とも報じられた。(2017年7月・ラッカ・YPG映像)

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【YPJ写真】ラッカでの対IS戦の前線で、ハンヴィーに乗り込むYPJ(女性防衛隊)戦闘員。(2017年7月・ラッカ・YPJ映像)

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【有志連合】有志連合のルパート・ジョーンズ英軍少将は、7月23日、ラッカ北方の町アイン・イサに入り、ラッカ市民評議会や住民救援機関らと会合。「SDFは信頼できるパートナーである。有志連合はSDFとともにダアシュ(IS)掃討を進める。ラッカ解放は、ISに決定的なダメージを与えるだろう」と会見で述べた。(FURAT-FM映像)

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【有志連合】 ジョーンズ英軍少将は今年2月、「ダアシュ(IS)が市民を殺戮するなら、我々はお前たちを見つけ出し、お前たちを殺す」と述べるなど、ISに対して強い姿勢で戦う決意を示している。少将が直接現地入りしてSDF・YPGの影響下にあるラッカ住民組織と会合を持ち、支援を進めることを表明した意味は大きい。ISやその共鳴者が欧米各地で過激なテロを繰り返した結果、各国は一致してIS壊滅戦を加速させ、クルド主導のSDFを支持する政策をとることとなった。逆に言えば、ISがもし欧米でテロを起こさなければ、シリアのYPG系クルド勢力に大規模な軍事支援をする展開になる可能性は低かっただろう。クルドにとってはラッカ戦で多大な犠牲を払うことは、ロジャヴァ連邦の国際的承認につながる機会ともとらえている。(SDF写真)

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【IS写真】IS側もラッカ攻防戦を独自メディアを通して動画や写真で伝えている。写真はラッカ南西地区で重機関銃を撃つIS戦闘員。ラッカの市民生活の様子を伝える宣伝は減り、戦闘報告ばかりになった。(2017年7月・ラッカ・IS写真)

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【IS写真】自爆突撃するIS車両。ドローンで撮影するだけでなく、映像をライブモニターしながら車両を運転する自爆突撃員に無線機で標的まで誘導するなどしている(2017年7月・ラッカ・IS写真)

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【IS写真】「ラッカ東部で背教徒PKKを標的」として機関砲で攻撃する様子を伝えるIS写真。ISは最近ではYPGと呼ばず、すべてPKKと呼んでいる。PKKとはクルディスタン労働者党。YPGの実質上の母体となった組織である。YPGに対しては、背教徒のほかに「無神論者集団」という呼び方もしている。(2017年7月・ラッカ・IS写真)

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【IS写真】ラッカではISの外国人戦闘員も戦っている。写真は「殉教志願戦士アブドルラザク・アル・トルキスタニ」とあるので、SDFに自爆突撃したウイグル人とみられる。(2017年7月・ラッカ・IS写真)

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【IS写真】 ラッカ県西南方面の前線では、ISはシリア政府軍とも戦っている。写真はISが公開した、政府軍と対峙する戦線。政府軍は西から攻勢をかけ、シリア中部のIS地帯に攻勢をかけている。(2017年7月・IS写真)

住民はISに「人間の盾」として使われる一方、米軍主導の有志連合の空爆の犠牲ともなっている。トランプ政権になって以降、IS壊滅作戦が加速すると、空爆の回数も増えた。SDFは住民を避難させながら攻略作戦を進めるが、それでも爆撃で巻き添えとなる住民があいついでいる。
有志連合の空爆で巻き添えとなる住民被害については次回 >>

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【IS動画+写真37枚】イスラム国(IS)戦術分析(21)◆戦闘員養成8・軍事キャンプと忠誠式

◆バグダディに忠誠誓いジハード戦士へ【動画+写真37枚】
イスラム国(IS)の軍事キャンプでの教練を終えた新兵は、必ず指導者バグダディに忠誠を誓う忠誠式をする。このあと「ジハード戦士」として各戦線に配置されていく。今回は、軍事教練達成と忠誠についてとりあげてみたい。バグダディへの忠誠は、アフリカやフィリピンにまで及びつつある。

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【IS動画・日本語訳】セイフ・バハル軍事キャンプ(2015/09) 一部意訳・転載禁止

2015年9月公開のセイフ・アル・バハル軍事キャンプの動画映像。フラート県はISが勝手に作った県で、イラク西部とシリア国境にまたがる地域に位置する。当時はISがシリア・イラクでまだ広範に勢力基盤を保持していた時期。48秒目からがIS軍事キャンプの歌。また、前々回の映像と同じアブ・ハムザ・ムハジールのスピーチ(2008年)が使われている。映像の最後で、軍事キャンプ全課程を修了した新兵部隊の一群が街頭に出て、バグダディへの忠誠を唱和する。

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イラク西部「フラート県管区」にあるセイフ・アル・バハル軍事キャンプ。中央の黒いボードが訓練隊ロゴ。(IS写真・イラク・2016年)

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射撃訓練。写真に写っているだけでも、30人以上が確認できる。(IS写真・イラク・2016年)

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泥のなかで匍匐前進する訓練は、イラク軍でもよくやっているので、IS独自というわけではない。(IS写真・イラク・2016年)

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動画公開と同時期に公開されたセイフ・アル・バハルキャンプの写真。建物への突入訓練は、軍事キャンプの全教練課程を修了した総括でもある。(IS写真・イラク・2015年)

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攻略突撃(カタハム)の訓練では、援護射撃を受けながら、戦闘員が手にするポリ容器の爆弾で壁を爆破。突破口を開いて突入する。ISが得意としてきた敵拠点への侵入手法。(IS写真・イラク・2015年)

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ポリ容器爆弾については、以前IS爆弾製造工場の記事で触れた。ポリ容器は壁・橋梁爆破、無線遠隔起爆装置をつなげた路肩爆弾として使われる。炸薬の量を減らして、手投げ弾的な使い方をするなど汎用性は広い。こうした即製爆発物はアブワ・ナスィファと呼ばれるが、省略してアブワと言ったりする。(IS写真・イラク・2015年)

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切り込み隊が自爆攻撃を前提にして自爆ベルトを装着してまず突入する場合は、イングマスィ(突撃決死戦士)と呼ばれる。警備が強固な施設だと、まず自爆車両攻撃を加え、そのあと攻略部隊が突撃する。(IS写真・イラク・2015年)

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これまでに何度か記述してきたことをまとめると、ISの軍事キャンプでの基本教練は4つの柱がある。
(1) 教義・シャリーアイスラム法)・信仰武装
(2) 身体鍛錬
(3) 小・中火器の武器講習
(4) 戦闘訓練
これは軍事キャンプを統括する兵務庁(ディワン・アル・ジュンド)の運営指導のもと、各キャンプで共通し、マニュアル化されている。
◆1日の訓練メニューは軍事キャンプ日課表で

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同じく突入訓練。こういう重機関銃はラシャシュとかドシュカ(Dshk)と呼ぶ。軍事キャンプでの基本教練期間は、以前は2~3か月前後と言われていた。最近は戦局悪化で地元出身者を即席的に養成する必要に迫られており、期間は短縮されている可能性がある。(IS写真・イラク・2015年)

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攻略突撃(カタハム)が実戦で運用される例。これはアンバル県の警察署を襲撃するIS部隊の「フラート県」アーカイブ映像。(ISはアンバルを勝手に分けて一部を「フラート県」とした)。シリア国境近くの町カイムで警察建物に攻略突撃を敢行している。(IS映像・イラク

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同じく警察署への突撃。突入に成功し、イラク警官らを殺害した。攻略後は場所を維持する場合もあれば、武器弾薬を戦利品として奪って撤収することもある。教練での練度が低いと、前方の仲間を誤射したりするなど部隊全体に被害が及ぶ。軍事訓練のレベルが低かった自由シリア軍では同士撃ち事故などもあいついだことがある。(IS映像・イラク

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動画に挿入されたアブ・ハムザ・アル・ムハジールの音声スピーチは、2008年に出された「勝利への道程」からと思われる。アブ・ハムザ(別名アブ・アユーブ・アル・マスリ)はエジプト人。イラク聖戦アルカイダ機構に入り、同組織を引き継いだイラクイスラム国(ISI)で「戦争大臣」となったが、2010年に米軍・イラク軍の合同作戦で死亡。

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今年に入って、IS系出版機関ヒンマが、アブ・ハムザ・ムハジールの「勝利への道程」をあらためて複数の言語に翻訳してネットで配布。右上はインドネシア語、右下はクルド語(ソラニ)。ロシア語や英語などもある。「勝利のための8つの道程」が示され、武装鍛錬の準備や忍耐が必要などと説いている。約10年前のISI時代の音声スピーチ文書だが、ISのなかで継承されていることがわかる。

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戦闘員たちがどういうジハード戦士像を頭に描いているのかを推し量るのは難しい。ISは広報物によくイスラム騎士の映像を使う。日本でもサムライや幕末の志士に憧れる人は多いだろう。そこに自分を重ね合わせ、自己を奮起させる思いや「俺、カッコいい」とナルシスティックな心情を抱いたりする。「武士道とは死ぬことと見つけたり」の境地と、ジハード戦士の思考に共通する部分があるのかも知れないが、中二病をこじらせたIS戦闘員の極端なジハード主義の行きついた先が、子どもに捕虜を斬首させたり、異教徒殺戮やヤズディ女性集団拉致・奴隷化だったという現実も押さえておくべきだろう。(IS写真)

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ISでは、「アッラーの大道で己れの命と財産を投げうってジハードに立つことはムスリムの義務」であると教え込まれる。戦いで殉教するのはほまれで、天国が約束されるとする。これに加え、正統カリフ時代の栄光のイスラム軍勢の騎士の姿を投影する。とくに若い外国人戦闘員(ムハジール)のメンタリティはこうした「宗教的義務+カッコよさ」が融合したものがあって、ネットで拡散したプロパガンダを通じて、続々と外国人がイラク・シリアに流れ込んで過激主義がさらに先鋭化した側面がある。(IS写真)

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これは今回の動画と同じセイフ・アル・バハル軍事キャンプの過去の映像で砂漠(土漠)で教練を受けている。初期の頃の地方部では地元出身戦闘員(アンサール)はジャージ姿など服もバラバラだった。これは今年公開されたフラート県の過去と現在を振り返るIS映像から。(IS映像・イラク

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これもIS台頭期のセイフ・アル・バハルでの新兵教練映像。シリア・イラクの貧しい農村では、家族を養うために、給料がもらえるISに仕方なく入った者がいる。外国人戦闘員に比べて地元出身者は思想的・信仰的にも強固ではなく、外国人戦闘員のジハード戦士像とはすこしメンタリティが違う。そうした偏りを均一化するため、軍事キャンプでの精神・宗教指導が重視され、宗教的大義のもとでジハード戦士となる意味が教え込まれていく。その過程で地元住民や異教徒を殺すことへの疑問や違和感も消し去られてしまう。(IS映像・イラク

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軍事キャンプでの教練課程をすべて修了すると、卒業お披露目行進がある。動画と同じセイフ・アル・バハル・キャンプの新兵部隊。(IS写真・イラク・2015年)

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町なかで住民に「ジハード戦士」が完成したことを見せるとともに、自分たちもそのことをあらためて確認する。沿道には子供たちの姿も見える。(IS写真・イラク・2015年)

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卒業お披露目の車列。過酷な教練を経て「ジハード戦士」となったことへの高揚感に満ちる瞬間でもある。戦闘員となれば一応給料は出たが、結果的には多くが消耗品として死んでゆくことになる。(IS写真・イラク・2015年)

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北斗の拳的なヒャッハー感にあふれながら爆走。掲げているボードがセイフ・アル・バハル軍事キャンプの部隊ロゴ。(IS写真・イラク・2015年)

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こちらはアンバル県管区シェイヒン軍事キャンプでの卒業車列。これもかなりヒャッハー度が高い。(IS写真・イラク・2015年)

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日本のメディアがISのニュースを伝えるときに資料映像でよく使うやつ。これも軍事キャンプの卒業お披露目の行進で、2014年のシリア・ラッカ市内の映像。(IS映像・シリア・2014年)

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ラッカでのお披露目行進の進む先には巨大な旗がそびえる。この時はイラク・モスルも制圧し、武器、資金も大量にあった頃。支配地域を広げ、さらに軍事キャンプを作って、地方の若者を戦闘員に養成していった。(IS映像・シリア・2014年)

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ラッカの軍事キャンプ。キャンプ名は公開されていない。外国から入り込んだ戦闘員志願者は、ラッカやその近郊都市で訓練を受ける例が多かったといわれる。シリアではまだ米軍・有志連合の空爆も始まっていない時期で軍事キャンプが次々と設営されていた。トルコの国境警備も緩く、外国人が流入し、戦闘員が量産されていた。(IS映像・シリア・2014年)

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これもラッカのキャンプ卒業お披露目の車列。マッドマックスのような世界が現実となり、国際社会に脅威を与えるまでになった。これらのIS軍事キャンプで訓練を受けた戦闘員の一部が、のちにヨーロッパに入り込んでパリなどで襲撃事件を起こす。(IS映像・シリア・2014年)

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軍事キャンプの全課程を修了すると、お披露目で街頭に出る。そして、忠誠式(ベヤアまたはバイア)をする。宣誓という意味では、自衛隊が「事に臨んでは危険を顧みず」と誓う「服務の宣誓」にあたる。ISではこれをもって「ジハード戦士」が完成したことになる。写真は今回の動画の3か月前に公開された別の動画から。指揮官と思われる同じ男が映っているので、1期前の別の訓練隊の卒業のときと推測される。(IS写真・イラク・2015年)

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ISのベヤアは、忠誠式での宣誓のほかに、突撃前に部隊で志気を高める際に唱和する。写真は昨年、IS系アマーク通信が公開したもの。イラク・タラファルで戦闘を前にベヤアを唱和している様子。戦闘員が円陣を組んで右手を重ねあい、バグダディに忠誠を誓っている。右腕時計が多い。戦闘員だけでなく、住民や部族もISに忠誠を誓うとき、これをやらされる。(IS系アマーク通信写真・イラク・2016年)

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ISが勝手に作ったジャヌーブ県(イラク)管区の軍事キャンプでの忠誠式。ベヤアの文言の、「聞き、従う」は、コーラン(食卓章:7節)からで、「順境にあっても逆境にあっても、盛隆にあっても 苦難にあっても、 無私の心をもって」の箇所はハディース(ブハーリとムスリム)のウバダ・ブン・アッ・サーミトの言葉とされる。現在はアブ・バクル・バグダディへの忠誠だが、その前はISI指導者アブ・オマルへの忠誠だった。ゆえにバグダディがもし死んでも、次の指導者となった者の名前に入れ替えて、この忠誠の言葉を唱和することになる。(IS写真・イラク・2014年)

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2015年12月にIS系のメディアが公開したフィリピンのイスラム組織の軍事キャンプ。ISが中央の指示のもと指導官を送り込んでいるかは不明だが、映像はIS系のメディア部門で配布され、関係が作られてきたことを示すものとなった。(2015年・フィリピン)

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2016年3月にはフィリピン南部ミンダナオ地域スールーのイスラム組織アブ・サヤフ傘下の「唯一神の兵士大隊」が、アラビア語でISのバグダディ指導者に忠誠を表明する映像も出ている。フィリピンはこれまでのところISの「県」としては承認されていないが、これらの一連の忠誠映像を通じて、フィリピンのIS共鳴組織がIS本体と関係性を構築してきたことも動画で確認された。IS系組織は今年、マラウィの町を襲撃しており、IS系メディアも「東アジア」発として戦況などを伝えている。(2016年・IS系FURAT映像・フィリピン)

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IS系メディアが2014年7月頃に「フィリピンの刑務所での忠誠」として出した映像。多数の受刑者が、バグダディへの忠誠の言葉を唱和している。未確認映像ながら、すでに2014年の時点でIS台頭の影響がフィリピンまで及んでいたことを示している。マラウィ襲撃は突然起きたわけではなく、それに至る前段階があったといえる。(バッタール映像・2014年)

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ソマリアイスラム組織がISのバグダディに忠誠を表明する映像。ISは権力の真空地帯や紛争地域を狙って浸透を図ろうとしてきた。かつてはアルカイダが強かった各国の地域でも、新たにISに忠誠を表明させ勢力を伸ばしてきた。シリア・イラクのISを叩いても、別の場所で拠点を構築し、ジハード運動を組織、継続することは十分にありうる。フランス・ノルマンディ教会襲撃犯も忠誠の動画をアップしている。(2015年・IS映像)

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シリアのハイル県(=デリゾール)管区で軍事キャンプでの教練を修了し、集まった戦闘員。「カリフ国の新期グループの卒業」とある。戦闘員はキャンプ卒業後、各戦線に配置される。(IS写真・シリア・2015年)

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世界でいちばん乗りたくないバスである。「座席の背もたれ倒していいですか?」「ダメです」。 これも軍事キャンプを修了したデリゾールの戦闘員。(IS写真・シリア・2015年)

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これは今のISとなる前の2013年(またはそれ以前)にセイフ・アル・バハル・キャンプをイラク軍が急襲、制圧した映像。軍事キャンプはこれまで何度も標的となってきた。だが潰されてもキャンプの名は残り、別の場所に引き継がれる。今回のIS動画は、いったん潰されたこのセイフ・アル・バハルを継承し再興したキャンプとみられる。(イラクTV映像)

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2014年にイラク軍がニナワ県下の軍事キャンプを上空から爆撃した映像。徹底した掃討作戦にも関わらず、結局、こののちにニナワ県モスルは制圧され、バグダディをカリフとする「イスラム国」を宣言するまでに至ってしまう。現存するキャンプを叩いても、蓄積された知識やマニュアルが国外へと伝播し、別の場所で息を吹き返すことになるかもしれない。(イラク軍公表映像)

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【イラク】アバディ首相、イスラム国(IS)からのモスル奪還作戦の勝利宣言

イラク国民の勝利と団結を強調
7月10日、イラク・アバディ首相は、武装組織イスラム国(IS)掃討作戦が続いていたモスルから、解放と勝利を宣言した。首相は、イラク国民による勝利であることを強調し、奮闘を称えた。各国がイラク軍を支援したことに感謝を表明しつつ、モスル解放のために戦ったのはイラク国民であることを宣言の中で繰り返している。今回の宣言ではシーア派指導者、シスタニ師への謝辞も盛り込んでいる。ISが壊滅したと宣言したアバディ首相だが、モスル市内ではこの時点でまだISが一部地区に残存していた。ISを支持していたとする住民に対する、政府治安部隊や市民からの報復も起きている。以下は「モスル解放宣言」の映像字幕。(一部意訳)

【動画・イラク・アバディ首相】モスル解放・勝利宣言・日本語字幕(一部意訳)

モスル奪還作戦の勝利を宣言したアバディ首相は、国民のさらなる一致団結を求めた。だが、問題は山積している。スンニ派勢力の間ではシーア派やその後押しをするイランがイラクを乗っ取ろうとしているといった強い危機感や不満を抱いている。また、IS壊滅戦でともに戦ったクルディスタン地域政府は、イラクからの独立を問う住民投票を9月に実施する予定で、イラク政府側はこれに反発している。国民の団結や統一、宗派和解に至るのは容易ではない。(7月10日)

イラク・アバディ首相】モスル解放・勝利宣言
(2017/07/10)

慈悲深く 慈愛あまねアッラーの御名において。万有の御主アッラーにすべての称讃あれ。

自由と解放が果たされたここモスルの中心から宣言します。イラク人とすべての機関によって偉大なる勝利が勝ち取られました。わが戦士たち、国民の勝利はこの3年の成果です。名誉あるイラク人よ、メソポタミアの息子たちよ。約束を身をもって果たした勇敢なる戦士たちよ。

我々は統一団結をもって、この数年にわたってダアシュ(IS)と戦い抜いてきました。3年におよぶ戦いを経て、この勝利へと至ったのです。国民の尽力奮闘、犠牲、諸君の血をもって、この国土とイラクの名誉を引く裂こうとする目論見に抗してきたのです。今日、国民は、かつてないほど一致団結しています。

イラク国民よ!この勝利は、暗黒、残虐、テロリズムに対する勝利です。まさにこの場から世界に向け、迷信とテロに満ちたダアシュ(IS)が終焉し敗北したことを宣言します。

3年前、ここモスルでダアシュ集団が宣言した「国家」は、イラク人の奮闘と血、そしてアッラーのお力で打ち倒されたのです。今日の勝利によって、この殺戮国家は歴史の屑カゴへと葬り去られました。

勝利を導いた英雄たち、殉職者たち、負傷者たちは、我々の心に刻まれることでしょう。我々は彼らのことを忘れず、犠牲者のご家族にも敬意を表します。シスタニ師とその歴史的ファトワ(宗教令)にも感謝を忘れません。
勝利的なイラク軍の勇敢なる兵士諸君すべてに感謝を表明します。

イラク人たちよ!皆さんはこの勝利を心から祝おうではありませんか。この勝利と一連の作戦はイラク人の手によって成し遂げられました。イラクのための戦いに立ったのはイラク国民であり、他国の国民ではないのです。イラク人こそがこの地のために戦い、勝利を成し遂げたのです。この勝利を国民に、そして全世界に誇ろうではありませんか。イラク国民ほど、この尊き大地のために戦い抜き、犠牲を払った者はいないからです。

同時に、わがイラクとともに立ってくれた各国に感謝を表明します。テロリズムとダアシュ(IS)に対するこの戦争で、各国はイラク軍を支援してくれました。わが軍地上部隊への戦闘訓練、物質的、航空兵力支援に感謝します。

この先にはさらなる任務が待っています。安定化の回復と復興、ダアシュ(IS)残存勢力の一掃です。情報活動や治安任務、より一層の団結が求められています。

私たちがダアシュ(IS)に立ち向かって戦ったごとくの国民の団結力です。地域を安定化させ、国内避難民を帰還させます。この勝利アッラーのご加護にほかなりません。
イラク勝利万歳!
アッラーからの祝福と平安があらんことを!

イラク万歳!
2017年7月10日

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ISが3年にわたって支配してきたモスルの奪還戦は昨年10月に始まった。イラク軍のほか、警察、治安部隊、民兵部隊が作戦に参加。有志連合は軍事訓練や戦闘機による空爆などで支援した。写真はモスル市内に展開するイラク軍。(2017年・イラク国防省映像)

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アバディ首相が今回の宣言のなかで触れたシーア派指導者シスタニ師のファトワ(宗教令)とは、2014年6月にモスルがISに制圧された際の深刻な状況のなかで、「祖国防衛」について出されたものを指している。「祖国とその国民、その名誉と聖なる諸廟を守るべく、武器をとれる者は防衛部隊に参加せよ」としたもの。これ以降、イラクで準軍事組織民兵部隊機構、人民動員隊(PMU)が広範に編制され、ISとの戦闘に投入された。以前から存在したシーア派民兵部隊も、このPMUに編入されていった。宗派抗争がIS台頭の背景ともなったことを踏まえれば、今回、アバディ首相が「モスル解放宣言」のなかでシーア派指導者のシスタニ師とファトワについて言及したことの意味は重い。

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民兵部隊の総員規模は6~10万人前後とされる。スンニ派キリスト教徒も一部にいるが、実質的に中心となっているのはシーア派である。人民動員隊(PMU)は、様々な民兵部隊から編制されている。シーア派が多い南部の都市や大学などでも志願動員の若者らが招集された。民兵とはいえ、戦車や装甲車なども政府から与えられて展開している。(2017年・PMU映像)

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イラクで続いてきたスンニ派シーア派の宗派抗争の延長線上で、シーア派民兵集団が準正規軍となって戦闘現場や治安維持任務に投入されたことは、宗派バランス問題に大きな影響を与えた。実質的な「シーア軍」のような形になっている。左はイラン製軍用車サフィールと思われる。(2017年・PMU映像)

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イラク議会は、昨年、このPMUについて、「イラク軍と同等の正規軍的機構」と認めるとした。シーア政党の強い影響を受けた民兵隊が治安活動することで問題も起きている。シーア派民兵による、IS戦闘員への拷問に加え、スンニ派住民への報復的な殺害や暴力行為などが発生している。写真はモスルで戦うシーア派民兵。(2017年・PMU映像)

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今年6月中旬~下旬頃のモスルの状況。イラク軍は地図右側のチグリス川東部をまず攻略し、ISを西部地区へ追い込み包囲していった。(2017年・地図作成・アジアプレス)

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昨年10月に始まったモスル奪還戦以降、ISはモスルだけでいくつもの宣伝映像を出してきた。ISは次々と自爆する戦闘員を「殉教者」として称えた。写真はイラク軍部隊に自爆突撃するISの若い戦闘員。ISはドローンを飛ばし、ライブ映像を通して自爆戦闘員に無線で突撃位置を伝えて車両を誘導する。(2017年・IS映像)

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IS戦闘員としてモスルで自爆車両突撃した年配の戦闘員。「殉教志願戦士アブ・ハムザ・モスリ」とあるのでモスル出身者とみられる。ムスリムの信仰心に訴えかけるような構成に作り上げている。一方、この同じ映像の最後では、スパイとしてイラク人を殺害する残虐なシーンも挿入している。(2017年・IS映像)

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自爆突撃する車両に乗り込む若いIS戦闘員。写真左のように車のドア部分にも爆発物が取り付けてある。(2017年・IS映像)

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IS系アマーク通信が伝えた、空爆で負傷した子供。有志連合は民間人被害を最小限にするとしたが、空爆の犠牲となった市民も少なくない。一方、ISは空爆被害が出るたびに 「ムスリムイスラム教が標的となっている」などとして、プロパガンダを通じて宗教的対立の構図に持ち込もうとした。(2016年12月・IS系アマーク通信映像)

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アバディ首相がモスル解放を宣言して以降にIS系アマーク通信が出した映像。モスル戦を最後まで戦う様子として伝えている。過去に撮影した映像も含まれていると思われるので撮影日は不明だが、激しい戦闘が続いたことを示している。(2017年7月11日・IS系アマーク通信映像)

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モスル戦について、IS側と見られる声明(公式かどうかは不明)が「重要・緊急」としてネット上で出た(7月12日付)。「十字軍とその手先の従僕者どもの結託同盟に対するモスルでのカリフ国(イスラム国)兵士たちの不屈の戦いの継続」を呼びかけている。

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モスルでISを排除した地区に入るイラク軍指揮官(今年3月)。国防省映像は、イラク軍を歓迎する住民の様子を伝えている。今後、地元スンニ派住民や有力部族の協力を取り付けることができるかが課題となる。ISに代わって、こんどはシーア派が町を統治することに不安を抱く住民もいる。(2017年3月・イラク国防省映像)

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このアバディ首相「モスル解放宣言」の別の見方をすると、国家指導者が戦争で国民を鼓舞する演説映像というのは歴史に残るものである。今回のアバディ首相の背後ではイラク軍司令官らが並んでいるが、後半では横を向いたりする。またカメラ位置もあって、背の低い首相が、より小さく見えてしまっている。ISからモスルを奪還した歴史的映像としては、もう少し首相の威厳を意識した演出もあってもよかったのではとも思う。例えば、ISのプロパガンダ映像では、背後に立つ戦闘員でさえ、視線を一点にそろえ、だらしなく見えるしぐさをしないよう徹底して撮影している。

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【IS動画・日本語訳】イスラム国(IS)なぜイランを狙うのか(イラン後編)

◆ペルシア帝国にさかのぼりシーア派批判
6月7日に起きたイスラム国(IS)戦闘員によるイラン・テヘランでの襲撃事件では、ホメイニ廟と国会議事堂が標的となった。いずれも警備の厳しい施設が狙われており、襲撃には実行犯以外にも複数の協力者がいるとみられる。ISはイランをいきなり攻撃対象に選んだわけではない。これまでにも宣伝映像などを通じて、イラン批判を繰り返してきた。ISはイランをどうとらえ、なぜ標的とするのか。

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【IS動画・日本語訳】「ペルシア・その過去と現在」(ペルシア語)一部意訳

今年3月末にイラク・ディアラ県発として出された映像。全編ペルシア語でペルシア帝国から現代イランまでを連ねて批判するプロパガンダ映像は初めてと思われる。イラン出身の戦闘員が複数登場する。(元の映像は36分という長大な映像なので、かなり短く編集。映像の解説はこの下のキャプチャを参照してください。字幕は専門用語が多いですが、だいたいあってると思います。(斬首映像部分は編集で削除しています)

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映像はゾロアスター教時代のササン朝、そしてシーア派サファヴィ朝ペルシア帝国にさかのぼってイランを批判する「壮大な」内容。ISがイランを批判するとき、マギ(マジュース)という用語をよく使う。もともとペルシア系祭司を指すが、ISはゾロアスター教に関する文脈で用い、イランを「ゾロアスター多神偶像崇国家」と蔑み、イスラムだとは見なしていない。映像では、「シーア派」という字幕を付けたが、ISは実際にはシーア派とは呼ばず、ラフィダとする。ラフィダは「拒否者」という意味で、とくにスンニ派原理主義者、過激主義者がシーアを指すときに侮蔑的に使う。このほか、イランをサファウィ(いわゆるサファヴィ朝ペルシア)と呼んだりする。

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冒頭から最後まで「サルマン」がキーワードとなって出てくる。ペルシア出身のサルマン・アル・ファルスィは、ムハンマドの教友のひとりで土木技術者だった人物。マディナに移住し、ムハンマドに帰依。ムハンマドメディナ軍勢と、メッカ連合軍との戦いで、サルマンの技術指導によってメディナ周辺に塹壕(ハンダク)を掘り、戦いを勝利に導いた(ハンダクの戦い・627年)。一騎打ちが主流だった時代、敵軍は塹壕戦の前に敗北。今回の映像では、イランのスンニ派に向けて、ペルシア出身のサルマンの末裔であることを呼びかけ、シーア派政府に抗し、立ち上がるよう扇動している。戦場でISがやたらとトンネルや塹壕を構築するのは、軍事戦術的な意味もあるが、それを超えて、「ハンダクの戦い」での塹壕戦への強い宗教的な思い入れもある。

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映像はISの歴史観シーア派への認識をCGや映画の引用、報道写真などを集めてきてビジュアルを駆使して示すものとなっている。ISによるイラン批判の要点は、

(1) シーア派イスラム逸脱と背教・多神偶像崇拝
(2) イランでのスンニ派への歴史的、今日的な弾圧と迫害
(3) ホメイニ体制以降のシーア派「革命輸出」による権勢拡大とスンニ派への敵対
(4) イラク、シリアにおけるISへの敵対行為とシーア派勢力への支援
(5) 十字軍同盟諸国との結託
などである。字幕動画ではカットしたが、元の映像では「イラクイスラム国」(ISI)時代のアブ・オマル・バグダディの音声スピーチも盛り込み、イランでのスンニ派弾圧やモスク破壊について言及した部分を選んで抜き出している。

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イラク・ディアラ県という地方メディア部門ながら、戦闘員をいくつもの角度から撮影し、パンやチルトまで入れて凝ったカメラワークまで見せ、ワイヤレスマイクで音声を収録している。イラク東部のディアラはイランに接する国境地域。

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IS映像では、イランで絞首刑の写真が挿入されている。イランのスンニ派は人口の1割ほどで、宗派そのものが禁じられているわけではない。だが当局は宗派運動や反体制活動につながることを警戒し、何らかの組織活動をしようとすると厳しく統制される。また監視網が張り巡らされているのも事実だ。IS映像では、「1979年のイラン革命以降、1万8千人のスンニ派が処刑された」としている。

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どう見ても悪人キャラのような戦闘員は、「イラン征服」の野望を語る。アル・バローシーという名なので、イランとパキスタンにまたがるバローチスタン地域の出身と思われる。映像の最後で、「イランを征服してやる」と言っている。スンニ派の国に変えてやるというのは無茶すぎるが、イランに揺さぶりをかけるために国内のスンニ派勢力を支援する国が出てくることも考えられる。かつて武装組織のひとつに過ぎなかったイラクイスラム国(ISI)が、結成10年を経ずしてイラク、シリアにまたがる広大な地域を制圧し、のちに「イスラム国」を宣言するまでになってしまったことを考えれば、この地域は「まさか」も起きうる場所である。いくつもの戦争が戦われ、世界史に登場してきたイラク、シリア地域の町々が、いま再び現実の戦場となっている。

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「サルマン・ファルスィ大隊」を名乗る部隊がペルシャ語で「イランを標的にする」に警告を出している。この映像は今年3月に出されたので、6月にはそれが実際の襲撃事件となって起きることになってしまった。

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イラン政府要人の写真をプリントし、それを標的に一斉射撃やサイレンサーで銃撃するなど、「イラン批判」映像としては、さまざまな「見せ場」を作るなど巧妙な構成になっている。

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イラン批判を並べ立てたうえで、出てくるのが斬首処刑。イラク東部ディアラ県で、拘束したシーア派民兵4人を公開処刑している。イラク人のバドル軍団民兵とみられる。ISはシーア派政党・民兵をイランの後押しを受けた存在とみなす。子どももいる群衆を前に、首を切り落とす。(上の字幕動画では残酷な斬首部分は削除しています)
ナイフを手にするIS戦闘員は、クルドの民族衣装をベースにした戦闘服で胴巻き帯(シュテック)を巻いているので、イラン出身またはイラク出身のクルド人と思われる。

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レバノンシーア派政党ヒズボラ(神の党)のハサン・ナスラッラー師も映像に挿入され、「イランの手先」として描かれている。確かにイランは、「シーア派支援政策」をもって積極的に国外のシーア派政党や組織を支援してきた。ヒズボラにはイランからカチューシャロケットが供与されている。イスラエルに対して撃ち込まれているが、ISはそうした部分には触れていない。シリア内戦では、イランはシーア系アラウィ派のアサド政権を支援し、戦闘部隊を送っている。またイラクシーア派民兵部隊にも軍事支援をしている。ISは、プロパガンダ映像を通じて、シーア派拡大の「危機感」を煽り立て、スンニ派が自分たちのもとに結集するよう呼び掛けている。

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ISがプロパガンダ映像や機関誌でシーア派を批判する際には、こうした映像・写真を使って、その儀式や祭祀がいかにイスラムの道や啓典コーランから外れた異端かを示そうとする。シーア派を逸脱集団とし、その元締めがイランとする一方、自分たちはスンニ派として預言者の正しき道の実践者なのだと強調する。だが、集団殺戮や、子どもに爆弾を巻き付け、薬を飲ませて自爆突撃させたり、異教徒女性をレイプして転売するようなISをアッラーの大道」などとは普通のスンニ派住民は思っていない。(2017年・IS機関誌ルミーヤ第9号)

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ISは、支配地域でシーア派モスクや施設、墓碑を徹底的に破壊。爆破したり、ブルドーザーでひき潰すなどした。歴史的建造物も多数含まれている。また、シーア派住民を追放したり、抵抗する者は処刑した。写真はISによるイラク北部タラファルでのシーア派モスク(フサイニーヤト・ジャワード・モスク)の爆破破壊。(2014年IS写真)

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シーア派モスク住民迫害やモスク破壊などに対して報復の声が上がり、イラクではシーア民兵組織が強化された。とくにタラファルでの前線に多く展開している。イランは積極的に介入して、シーア派に武器を支援する。写真はイラク・タラファル近郊でISが襲撃したシーア民兵組織「ヒズボラ大隊」の陣地。旗を引き裂いている。(2016年・タラファル近郊・IS写真)

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イランは、シリア・アサド政権軍に民兵部隊を派遣している。また武器も供与。写真はシリア西部アレッポでISが鹵獲したイラン製機道車サフィールと思われる。搭載しているのは、M40 106ミリタイプの無反動砲のようだ。こうしたことからも、ISはイランを主要な敵のひとつと規定し、攻撃対象にしている。(2016年・IS写真)

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イランはイラク軍へも武器・車両を供与。ティクリート近郊のIS地点に墜落したドローンは、イラク軍がIS地域の上空偵察用に運用していたものとみられる。イラン製ドローン、アバビル3型とみられる。(2015年・IS写真)

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テヘラン襲撃事件の報復として、イラン革命防衛隊(IRGC)は、6月18日夜、イラン西部の基地2か所から中距離弾道ミサイル、計6発をシリア東部デリゾールのIS拠点に向けて発射。発射されたミサイルは、地対地中距離弾道ミサイル・ゾルファガール(MRV)で射程は約700キロとイラン・メディアは伝えている。(2017年・IRGC映像)

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映像はデリゾールでIS拠点にイランの弾道ミサイルが着弾したことを伝えている。イランが国内の基地から直接、シリアのIS拠点にミサイル攻撃を行ったのは初めてとされる。革命防衛隊は「ISの自動車爆弾工場などを破壊」としている。この弾道ミサイル発射はISへの報復としてだけでなく、対立関係にあるサウジアラビアへの威力誇示につながるものともなる。(2017年・IRGC映像)

<<【イラン・IS声明】IS戦闘員5名が国会議事堂・ホメイニ廟を襲撃(イラン前編)

◆IS・イラク・シリア・クルド情勢の
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【イラン・IS声明・日本語訳】イスラム国(IS)戦闘員5名が国会議事堂・ホメイニ廟を襲撃(イラン前編)

◆イラン国内で主要機関を狙ったISの攻撃
6月7日、イラン・テヘランの国会議事堂建物とホメイニ廟を狙った同時多発襲撃事件が起きた。実行犯5名を含む23名が死亡し、負傷者50人以上を出す惨事となった。同日、ISは声明を出し、「攻撃はカリフ国(イスラム国)兵士によるもの」と襲撃を認め、さらなる攻撃を予告した。ISがイランの主要機関への攻撃を実行し、明確な声明を出すのはこれが初めてとなる。

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【IS動画・日本語訳】クルド系戦闘員、襲撃前メッセージ (クルド語)一部意訳

IS系アマーク通信が6月8日に公開した映像。イラン・テヘランでの襲撃を実行したとみられる戦闘員5人が映っている。冒頭のアッラーを称える部分とコーラン引用箇所のみアラビア語で、あとはクルド語(ソラニ方言)で話している。イランに向けて戦闘メッセージを発するならペルシャ語でいいはずだが、これは出撃を前にクルド人メンバーどうしで意志一致をしている意味もあると思われる。映像ではイランを「ユダヤの手先」とし、またシーア派だけでなく、サウジアラビアのサウド王家も批判。一方、イラン革命防衛隊は「サウジがこのテロの背後にいる」と非難し、事件後、テヘランでの襲撃糾弾デモでも同様の声があがった。ルダウ・ニュースは、襲撃実行犯のうち4名は、イラン西部ケルマンシャー出身のクルド人と報じている。(※クルド語ソラニ方言はおもにイラン北西部やイラク・クルド地域などで話されている方言。トルコ、シリアで主要なクルマンジ方言とは異なる)

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事件後にISが出した声明(6月7日)。アラビア語ペルシャ語で出されている。いずれもイランと表記せず、「ペルシャ」としている。以下は声明の要旨(一部意訳)。文末の一文はコーラン・ユースフ章:21節からの引用とみられる。襲撃を敢行したイングマスィ(突撃決死隊)については過去記事参照 >>

イスラム【速報】ペルシャ
イングマスィ(突撃決死戦士)5名がテヘラン
多神偶像崇拝者の国会議事堂とホメイニ墓を急襲  

ヒジュラ暦 1438年ラマダン月12日

アッラーの従者たる唯一神信仰者たちは、ペルシャの地のにおける不信仰とラフィダ(=シーア派)の牙城において、複数の場所で多神偶像崇拝者への攻撃を敢行した。カリフ国兵士の突撃決死戦士たち5名が機関銃と手榴弾、自爆ベストで、偶像多神崇拝者の国会議事堂と邪悪圧制のホメイニの墓を攻撃し、彼らの本拠をその不浄な血で満たし、背教徒60名を死傷せしめたのち、殉教を果たした。カリフ国は、ペルシャの地にアッラーの御法を打ち立てるまで、この地のラフィダどもに立ち向かい続け、流血の中に叩き込み、国家機関を破壊するのだということを思い知らせるだろう。これは最初の雨であり、次なる雨が待ち受けている。【およそアッラーはご自分の思うところに十分な力をお持ちになられる。だが人びとの多くはこれを知らない】 

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国会議事堂内のモニターカメラに映る襲撃犯。6月7日午前11時頃、国会建物に一般訪問ゲートから3名が自動小銃と手榴弾をもって侵入、と地元メディアは報じている。

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襲撃犯は銃を撃ちながら国会建物上階に進んだ。イラン革命防衛隊特殊部隊が投入され、午後2時に襲撃犯を射殺し、制圧。

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IS系アマーク通信が公表したテヘランの国会議事堂襲撃時の映像(6月7日付)。実行犯が携帯電話で撮影し、アップしたものと思われる。映像では「ここから出ていくと思っているのか。我々はここにとどまるんだ」という声が聞こえる。即座にIS系機関がこれを公開するなど、襲撃の際の「流れ」が出来ていたと推測される。写真の一部をぼかしています。(IS系アマーク通信)

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国会議事堂前で銃を構える警官隊。(6月7日・Tasnimニュース写真)

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国会襲撃の直前、直線距離で約15キロ離れたホメイニ廟では自爆攻撃が起きた。写真は現場での爆発映像としてFARS通信が伝えた映像。(6月7日・FARS通信JAMARANニュース映像)

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イラン情報省は、実行犯5人の死亡写真とともに氏名を公表。フェレイドゥン、アブ・ジャハド、スリアス、カユム、ラミンとある。上段中央の男は頭部だけになっているので、自爆死したとみられる。情報省は「襲撃犯にはスンニ派過激組織とつながりがあり、のちにISに加わってイラクとシリアで戦闘に従事し、昨年、イランに戻った者がいる」としている。ルダウ・ニュースは、イランのIS関連グループのリーダーだったアブ・アイシャを治安部隊が殺害したが、その後、潜伏した5人のメンバーが今回の襲撃に至ったと報じている。(写真の一部をぼかしていますが、情報省はそのままの写真を公開)

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事件後、イラン治安当局はIS関係者とされる人物らを一斉摘発。テヘランほか、ケルマンシャー州、クルディスターン州、西アゼルバイジャン州の各州などであわせて40人以上を拘束したとしている。

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治安当局は「IS関係者の一斉摘発で武器や手製爆弾、自爆ベルトなどを押収」とする映像も公開。写真が自爆ベルト。

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IS系アマーク通信は事件後、即座にテヘラン攻撃についてインフォグラフ画像を作成。「イスラム国の突撃決死戦士5名が遂行し、国会議事堂に3名が突入、ホメイニ廟で2名が自爆ジャケットで爆発」などとある。アマーク通信はIS系メディアだが、ヒジュラ暦ではなく、西暦を使っている。(IS系アマーク通信画像)

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IS機関紙アン・ナバアは事件の翌日発行の第84号誌上で「テヘラン猛攻戦」と伝えるとともに、襲撃犯5名の写真を掲載。襲撃実行から非常に速い流れで、独自プロパガンダ機関が情報を拡散させている。戦闘員が右手を差し出して重ねているのは、バグダディ指導者への忠誠と思われる。(IS系アマーク通信画像)


ISは今回、イランを突然に標的としたわけではない。これまでにも宣伝映像などを通じて、繰り返しイランを批判してきた。ISがイランとシーア派をどのように規定しているかは次回 >> 「予告されていたイラン襲撃」 >>

◆IS・イラク・シリア・クルド情勢の
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【シリア民主軍SDF声明全文】イスラム国(IS)ラッカ攻略 大攻勢戦を宣言【動画+写真8枚】

◆IS「首都」ラッカに突入へ
シリア民主軍(SDF)は、イスラム国(IS)が事実上の「首都」としてきたラッカへの大攻勢戦を開始する声明を発表した。SDFは昨年11月、ラッカ攻略を目指す「ユーフラテスの憤怒」作戦を開始、米軍を始めとした国際有志連合軍の支援を受けながら、ラッカを西・北・東の3方面から包囲する形で、ISの軍事的要衝を制圧してきた。トランプ政権になってからは、米軍地上部隊の増派やSDFへの支援も拡大している。今回、ラッカ突入への大攻勢が開始されたことで、対IS戦は大きな節目を迎えたことになる。以下は声明全文。(一部意訳)

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ラッカでの総攻撃戦を声明を発表するSDF(シリア民主軍)、クルド組織・人民防衛隊(YPG)ほか、アラブ勢力トルクメンキリスト教徒などの合同部隊。今回の声明では「ラッカ解放の大攻勢戦」という言葉が使われている。「大決戦」というニュアンを含み、総攻撃戦への強い決意を示したものとなっている。(2017年6月6日・SDF写真)

ラッカ解放のための大攻勢戦に関する声明
シリア民主軍(SDF)
(2017/06/06)

長き反撃戦を経て、わが軍部隊ならびに共同でテロリストに対して作戦を遂行する勢力は、その英雄的な伝説の歴史を刻んできた。歴史的なコバニ攻防戦からテルアブヤッド、ハウル、シャダーディに至る戦い、そしてデリゾールやラッカ近郊の村々、これらの地域にある複数のダムの解放戦など、これら地域の住民をテロリストから解放し、住民の生存を確保するための歴史的な数々のステップが踏み出されてきた。

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SDF(シリア民主軍)のタラル・シロ司令官。


きょう、我々は、「ユーフラテスの憤怒」作戦室司令部の名において、ラッカ解放へ向けた「大攻勢戦」を開始したことを宣言する。ラッカは、テロリスト集団がテロの首都としてきた場所である。

この大攻勢戦は、以下の部隊の参加のもと開始される。

ジャイシェ・スワール(革命戦士軍)、アクラド戦線、民主北部旅団、部族連合部隊、マガウィール・ホムス旅団、シクール・ラッカ、リワ・アル・タハリール(解放師団)、セルジュク・トルクメン旅団、サナディード軍団、スリアニ軍事評議会、マンビジ軍事評議会、デリゾール軍事評議会自主防衛隊、ヌフベ軍団、YPG・YPJ、(人民防衛隊・女性防衛隊)。
訳注:一部の参加組織名称については、声明で読み上げられたものと、のちに文書で公表されたものとで異なるため、ここでは文書版をもとに列記)

また、この大攻勢戦は、ラッカ市民評議会、シリア民主評議会(MSD)、ならびに地域部族の指導的人士たち、この地域のわが人民の協力のもとに進められる。

ラッカ解放を目指すこの大攻勢開始の吉報をここに告げるとともに、わが軍は高い志気と大規模な準備のもと、戦闘態勢が万端整ったことを宣言するものである。

地上でのパートナーたちである国際有志連合軍と戦闘計画を策定し、その実行の準備はできている。ケレチョホでの攻撃で見たごとく、多くの勢力がこの歴史的作戦を阻むべく徹底した企てを加えてきたが、こうした攻撃や企ては無駄に終わってきた。
訳注:ケレチョホでの攻撃=4月末、トルコ軍がシリアに越境して北東部ケレチョホ山付近のYPG施設を空爆し20人が死亡した事件)

これらの企てや攻撃の目論見に反して、我々は意志を強固なものとし、テロリズムに対する怒りを確認し、その戦いへの決意をさらに高めさせるものとなった。ゆえに、すべてのケレチョホで犠牲となった烈士たちが我々の道を照らしてくれたのである。

ケレチョホで殉死した烈士たちの記憶を胸に刻み、我々はこの大攻勢戦を成功裏に成し遂げ、歴史的勝利を烈士たちの御魂に捧げるであろう。

ここにあらためて、我々はラッカ住民に対し、敵(=IS)の中心施設、標的となる場所、戦闘地域からできるだけ離れるよう呼びかける。わが軍部隊が任務を遂行できるよう、住民が結集し、わが軍を手助けしてくれることを求めるものである。また、ラッカの青年たちに向けては、自身が暮らす地を解放するために、わが軍部隊への参加招請を継続する。

この歴史的な日において、いまこの段階へと到達できた我々のために命を捧げた烈士たちに敬意を表し、また(負傷した)英雄たちの傷が回復することを願うものである。ここにあらためて、「ユーフラテスの憤怒」作戦の名のもと、この大攻勢戦に参加する全軍・勢力の戦士、司令官たちに敬意を表明する。また、国際有志連合軍に感謝を表明する。

これに加えて、テロリストに抗する、すべての宗派・宗教からなるわが人民、そして戦闘現場でわが軍部隊を取材し、進行状況を伝える報道関係者に挨拶を送るものである。

シリア民主軍(SDF) 総司令部
2017年6月6日

【動画・日本語訳】ラッカ近郊でISから解放された村落(一部意訳)

3月末にYPGが公開した映像で、ラッカ近郊でISから解放された村のようすを伝えている。SDF・YPG部隊はISとの戦闘にあたり、地元住民の安全路を確保して、仮設キャンプなどに避難させ、戦闘地域での被害を抑えようとしている。ISは住民の移動を阻止し、「人間の盾」にしている。一方で、有志連合の空爆で民間人が巻き込まれている現実もある。村落からISを排除したあとも、住民や地元部族の協力を取りつけたり、潜伏したIS戦闘員を摘発するため村を巡回している。(2017年3月・YPG映像)

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ラッカ大攻勢戦開始を受け、ISとの戦闘に出撃するSDF部隊。(2017年6月・SDF映像)

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ラッカ攻略を目指す「ユーフラテスの憤怒」作戦は、昨年11月に開始。作戦は有志連合の航空支援、米軍地上部隊と連携しながら、ラッカを包囲する形で4段階の作戦が進められてきた。今回、いよいよラッカ市内に入る総攻撃戦が開始されることになる。(地図は2017年6月上旬時点の情報をもとに作成)

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今回の声明では「ケレチョホで死亡した烈士」について言及している。これは4月末に起きたトルコ軍によるシリアでの越境空爆事件を指している。SDFの主力部隊であるクルド勢力・人民防衛隊(YPG)の拠点をトルコ軍戦闘機が爆撃し、20人が死亡。写真は死亡したYPG・YPJ戦闘員。トルコ軍はイラク・シンジャルでも爆撃。トルコはクルディスタン労働者党(PKK)をYPGの関連組織とみなし、空爆は「PKKが武器をトルコに運び込もうとしたのを阻止するため」としている。今回、国際社会が注目するラッカ攻略戦の声明で、SDFがあきらかにトルコを批判する形でこの事件にあえて言及したことは、今後のラッカ攻略やシリア北部情勢にも影響するものとなるだろう。(2017年4月・YPG写真) 

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トルコは、PKKとつながりの深いYPGを主導勢力としてラッカ攻略を進めることに強く反発し、アメリカに再考を求めてきた。だがトランプ政権は、IS掃討を優先させる方針。「自分ならISを手早く片付けてみせる」が米大統領選の公約でもあり、ラッカを攻略できれば、「テロの首都を制圧した大統領」として大きなポイントになる。クルド側も、戦闘での犠牲は大きいが、将来的にはシリア・クルド地域の国際社会での承認につなげることができる。写真は先月、ワシントンでトランプ大統領と会談したエルドアン大統領。(2017年5月16日・ホワイトハウス映像)

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アメリカは「PKKはテロ組織」としながらも、YPGについては、IS掃討作戦で唯一的に有効に戦える戦闘組織として武器支援を拡大するなど「政治的立場」を分けている。4月末にはケレチョホがあるマリキーヤ(クルド名デリク)に米軍部隊が一時展開し、トルコを抑制。米軍シリア派遣部隊の指揮官がトルコ軍による空爆の被害現場を視察した。写真はトルコ軍に誤認されないよう星条旗を掲げる米軍のストライカー装甲車。(2017年5月・ロジャヴァ・ニュース映像)

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IS側は、SDFと有志連合軍によるラッカ攻略を「十字軍同盟がイスラム教徒とそのウンマ(共同体)に仕掛ける戦争」として総力戦を呼びかけ、また欧米諸国などでの単独襲撃を含めた「決起」も扇動している。宣伝映像では各国指導者が並ぶ背後に十字軍騎士が描かれ、イスラムキリスト教世界との対立構造に仕向けようとしている。西欧諸国・キリスト教諸国を「十字軍」とするのは、ISが作り出した呼び方ではない。9・11事件の際、ブッシュ大統領は「テロとの戦い」を表現したときに十字軍という言葉を使い、のちにあわてて訂正している。ISの規定では、十字軍諸国と同盟関係にある日本もこの十字軍同盟に入る。(2017年4月・IS映像)

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4月末、ISのラッカ県メディア部門は巨大な軍事キャンプで100人以上の訓練兵が戦闘訓練をするようすを紹介。また高齢者を含む住民もラッカ死守に立つよう求め、総力戦で臨むとしている。ラッカに潜入してIS軍事拠点の位置をSDF・有志連合軍に教える情報要員を「背教徒スパイ」として処刑する映像もあいついで公開している。決死戦の構えを見せ、自爆攻撃を含む激戦となるのは間違いないが、ISは部隊の一部や幹部、その家族はラッカ東部のデリゾールに移動させ温存を図る可能性が高い。(2017年4月・IS映像)

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せっかくなので、ずいぶん前の写真ですが、ラッカでクルド人の農家を取材したときのもの。当時はカミシュリでのクルド民衆蜂起が各都市に飛び火した時期で、アサド政権の情報機関(ムハバラット)があちこちで目を光らせていて、観光客のふりをして取材。クルド人の民家に泊めてもらいながら移動した。シリア内戦が始まって数年後には、この地域はIS支配下に。ラッカはアラブ人が趨勢の町だが、いまクルド勢力がISとの戦いで重要な役割を担い、国際社会が注目するような状況になるとは思ってもみなかった。このとき出会ったたくさんの人びとが、いま取材や現地情報などを手助けしてくれている。(2004年・撮影)

「ユーフラテスの憤怒」作戦・これまでの流れ(おもな声明一覧)
第1段階・開始声明 (2016/11/06)    第2段階・開始声明 (2016/12/10)
第2段階・戦果報告 (2017/01/16)    第3段階・開始声明 (2017/02/04)
第4段階・開始声明 (2017/04/13)    タブカ・ダム制圧声明 (2017/05/12)

◆IS・イラク・シリア・クルド情勢の
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【IS動画+写真29枚】イスラム国(IS)戦術分析(20)◆戦闘員養成7・軍事キャンプ運営構造

◆軍事キャンプ統括する兵務庁【動画+写真29枚】
イスラム国(IS)支配地域の各所で運営される軍事キャンプ。ここで新規戦闘員が訓練を受け、各部隊に配置される。ジハード戦士を養成する軍事キャンプを統括するのは兵務庁と呼ばれる機関。キャンプはどのように運営されているのか。

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【IS動画・日本語訳】空爆への怒りから戦闘員に(2016/07) 一部意訳・転載禁止

2016年7月公開のラッカ県メディア部門のISプロパガンダ映像。「実話をもとにした再現ドラマ」仕立てになっていて、米軍主導の有志連合やロシア軍などによる空爆での市民の犠牲を目の当たりにした青年が、戦闘員に志願するというストーリー。空爆への怒りから青年が向かった先は「戦闘員登録事務所」。軍事キャンプで訓練を受け、前線に配置されるまでが描かれている。

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今回の映像で、軍事キャンプ入隊後に青年が手にしているパンフレットは、ISの出版機関ヒンマが発行した「イスラム教徒の義務」に関するもの。映像では空爆への復讐心を煽るだけでなく、モスクや礼拝、イスラム、信仰を想起させるシーンを意図的にいくつも盛り込んでいる。「イスラム教徒全体が攻撃にさらされ、これに対し立ち上がることは信仰上の義務」という構図に仕立て上げようとしている。

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 映像にはラッカにある「戦闘員志願者登録事務所」が出てくる。これは新規戦闘員をリクルートしたり、入隊志願者の受付窓口となっている場所。自衛隊で言うところの地方協力本部に相当する。(2016年・IS映像)

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この画像は昨年公開されたイスラム国の「国家」構造について解説した映像のシーン。IS軍事キャンプを統括するのは兵務庁(ディワン・アル・ジュンド)で、その下に軍事キャンプ運営部が置かれている。例えば日本の場合、警察は都道府県単位で、自衛隊は方面隊が単位となっている。ISの部隊運用は基本的に支配地域内の「県」管区単位になっていて、軍事キャンプもその下に運営される。あくまでも構造上のことで、戦況が悪化した現在、実際にどこまで機能しているかは不明だ。(2016年・IS映像)

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シリア・アレッポ県管区のシャダッド・アル・テュニスィ軍事キャンプ。(2014年・シリア・IS写真)

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この写真が公表された当時はISが最も支配地域を拡大させていた頃。Tシャツにはキャンプ名がプリントされている。(2014年・シリア・IS写真)

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近接格闘訓練。(2014年・シリア・IS写真)

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雲梯(うんてい)を使った訓練。こうした基礎体力養成訓練はISではタドリバット・バダニと呼ばれる。(2014年・シリア・IS写真)

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現在、ISはアレッポ県下でかなりの支配地域を失っており、このキャンプの場所も存在しないと見られる。だが、キャンプ名は別の地域で受け継がれ、同名のキャンプが復活したりする。(2014年・シリア・IS写真)

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ロープ渡り訓練。いわゆる「モンキー」をしている。(2014年・シリア・IS写真)

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軍事キャンプにおける訓練兵の医療IDカードとされるもの。軍事キャンプが兵務庁のもとで運営されていることがわかる。組織内部での名前はクンヤと呼ばれ、本名とは違うコードネームをつける。軍事キャンプの段階からクンヤを名乗っているようだ。このIDカードはアブ・シャミル・シシャニという名なので、チェチェンからの戦闘員と思われる。(SNS写真より)

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シリア民主軍(SDF)が今年2月にラッカ県下のISの軍事キャンプがあった場所を制圧した際のもの。これはキャンプで使われていた軍事教練ノート。「イスラム国・兵務庁・ハムザ・ブン・アブドル・ムルタブ軍事キャンプ」とあり、これもキャンプが兵務庁の統括のもとにあることを示している。左は「預言者の道に従いしカリフ制」とある。これはISが作った言葉ではなくて、預言者ムハンマド亡きあと、継承者としてのカリフのありようについて語られてきたもの。ISはこれを根幹思想のひとつとしていて、「自分たちがカリフ制を再興したことは預言者の方途に則ったものである」と独自に規定している。過去記事の国境解体映像のなかで、昨年死亡したアドナニ広報官がこの言葉を繰り返している。(2017年・SDF映像)

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こちらはシリア・ホムスのアリン・アスワド軍事キャンプ。教練段階でギリースーツ(偽装網)をかぶっているのは珍しい。(2015年・シリア・IS写真)

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指導教官が訓練兵の間近に容赦なく実弾を撃ち込んでいく。(2015年・シリア・IS写真)

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シリアの土漠地帯での教練。(2015年・シリア・IS写真)

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軍事教練や演習は模擬弾など使わずに実弾や実際の爆弾が基本。このため教練過程で負傷する例も相当あると思われる。(2015年・シリア・IS写真)

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IS軍事キャンプには指導指針がある。左がIS軍事キャンプにおける戦闘員の精神的指導教程書のひとつで、タイトルは「一神教の教則」。独自解釈に基づくシャリーアイスラム法)理解や、一神教ムスリムの義務のほかに、ISが敵とみなす多神偶像崇拝者、不信仰者などについて解説している。軍事部門とは別に、宗教部門が信仰やイデオロギー部分を担当し、宗教的指針や原則を与えている。この文書を執筆したのはISの高級幹部でイスラム学者、トルキ・アル・ビナーリ(写真右端)とされる。バーレーン出身でシリアに潜伏しているとみられていたが、5月末、「ラッカまたはデリゾールで空爆で死亡か」との未確認情報が出た。握手をしている相手は、ドイツ出身の元ラップ歌手で、IS戦闘員となり、死亡説が報じられたアブ・タルハ・アルマニ(デニス・クスペルト Deso・Dogg)。

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これはイラク北部モスルのアブ・ムサブ・ザルカウィ軍事キャンプ。2014年6月、IS(当時はISIS)は大都市モスルを制圧、銀行から多額の現金を奪った。2015年8月の写真だが、このときは財政が豊富で、戦闘員を大量養成していた。訓練兵用のジャージまで揃えている。(2015年・イラク・IS写真)

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ここでもIS恒例の組体操タワーで志気を高める。RPGロケット砲やPK機銃を構える姿は勇ましいが、3段タワーの下の段は腰がかがんでいる。その点では組体操タワー5段をがっちり直立できるまでやらされる日本の小・中学生のほうが厳しい試練を課されているのかもしれない。(2015年・イラク・IS写真)

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ジャージの背中にはザルカウィ軍事キャンプの文字がプリントされている。モスルはイラク軍の奪還戦で陥落も近いとみられるので、もうこのキャンプは存在ないだろう。ISのスタイルとしては、キャンプが消えてもまた別の場所で同じ名前のキャンプを引き継いだりするので、支配地域を失って地下闘争に移行してもザルカウィ・キャンプが再び登場することもありうる。(2015年・イラク・IS写真)

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訓練の最後には、忠誠式というのがある。右手を差し出して、「カリフ」であるバグダディ指導者への忠誠(バヤア)を表明する言葉を唱和する。「ムスリムのカリフへの忠誠」とキャプションがつけられている。 忠誠式とは>> (2015年・イラク・IS写真)

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今回の軍事キャンプなどの宣伝映像は、対外的にはISの強さや決意性を見せつけるのに使われると同時に、IS支配地域内でも住民に向けて各所で上映される。これは街角に設置された広報宣伝のためのメディア・ポイントと呼ばれる場所。戦闘報告だけでなく、斬首などの残虐な処刑映像も大型モニターで見せている。街頭の映像に見入る子どもの姿もある。軍事キャンプの映像は、若者や子供を戦闘員に駆り立てる効果もある。写真はイラク・モスルのメディア・ポイント。(2016年・イラク・IS映像)

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メディアポイントでは映像をDVDで配布したり、USBメモリーにコピーするサービスもおこなっている。小さな町や村ではモスクで上映したり、大型モニターテレビ付き広報宣伝カーで巡回するなどしている。(2016年・イラク・IS映像)

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2016年公開の「ダマスカス県管区」の軍事キャンプ。ダマスカス周辺でも一部地区で登場したり、IS共鳴組織が活動している。(2016年・IS映像)

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都市部の軍事キャンプは、学校の跡地などが使われ、教室やグランドが活用されることが多い。ただ空爆などの標的となるため、常時設置をしているというわけではないようだ。(2016年・IS映像)

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ISが他の武装組織と違ったのは定期的に給料が出たこと。扶養家族によって手当もつくため、入隊した者も結構いた。戦乱で生活の糧を失ったり、学校閉鎖などもあり、家族を養うために戦闘員となった若者もいる。いまは戦局が悪化し、給料が減っているとか出ていないといわれる。(2016年・IS映像)

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「カリフ国・軍事キャンプの課程修了」とあるので、軍事教練の全課程を終えた戦闘員のお披露目総括訓練と思われる。(2016年・IS映像)

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ロープ降下。学校の建物のように見える。壁にはたくさんの銃弾の痕が見える。 (2016年・IS映像)

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建物の突入訓練。一般に攻略突撃はカタハムと呼ばれたりするが、最近では軍事教練の段階から、こういうのもイングマスィ(突撃決死隊)と総称されることが増えている。(2016年・IS映像)

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もともとイングマスィは自爆も含めた急襲コマンド突撃なので、最近、軍事キャンプでの教練段階からイングマスィとする表現が増え始めていることは、戦況悪化のなかで戦闘員に決死性を突きつける運用になっているのではないかと推測される。イングマスィとは>>

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【IS声明全文・日本語訳】イスラム国(IS)英マンチェスター爆弾事件「十字軍国民を殺傷」と関与認める

◆さらなる攻撃を予告
イギリス・マンチェスターで5月22日に起きたコンサート会場での爆発事件は、死者22人を出す惨事となった。武装組織イスラム国(IS)は23日、「十字軍国民を爆発物で殺傷」などとする公式声明を出し、事件への関与を認めた。ヨーロッパ各地であいついでいるISシンパによるとみられる市民襲撃事件では、まずIS系アマーク通信が「消息筋情報としてIS戦闘員による攻撃」とする例が多いなか、事件直後の段階でISが英語・アラビア語で公式声明を出して攻撃を認めたことは、準備段階から関与していた可能性も推測される。以下は声明全文。(英語版をもとに翻訳・一部意訳)

イスラム【速報】イギリス
マンチェスターでの爆発物による爆発で
約100名の十字軍国民を殺傷

ヒジュラ暦 1438年シャアバーン月27日

アッラーのご加護とご助力のもと、カリフ国の兵士は、アッラーの宗教のためになす報復として、多神偶像崇拝者を恐怖に陥れるべく、また、ムスリムの地に対する幾多の犯罪への回答として、英国の都市マンチェスターの十字軍国民が集まる只中に爆発物を設置した。
爆発物は恥知らずのコンサート会場で爆発し、十字軍国民30名を殺害し、70名を負傷に至らしめた。アッラーの御意のもと、十字架の崇拝者とその結託者どもに対し、さらなる過酷なことが次に続くこととなろう。万有の御主、アッラーにすべての称讃あれ。

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マンチェスター爆弾攻撃事件の犯行を認めるISの英語版の声明。声明では十字軍となっているが、十字軍を構成する国の市民、国民を指している。ISの規定では、ISに敵対する欧米のキリスト教国以外にも、これらと同盟する国々も十字軍同盟とし、日本もこれに含まれる。

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アラビア語の声明。メディアは男が自爆と報じているが、声明では、英語版とも、「爆発物による爆破」とある。ISが自爆攻撃の声明を出す際は、「殉教志願作戦」(アマリヤット・イスティシャハディーヤ)や、計画性をもって襲撃を敢行して、銃撃戦の上、自爆した場合でも「突撃決死作戦」(アマリヤット・イングマスィーヤ)とすることが多い。
メディア報道が錯綜しているのか、ISが準備していた声明と犯行の実態が異なる結果となったのか、男が爆発物を設置した際に誤って爆発させ自身も死亡したかなど、詳細は不明だ。今回の声明では爆発物についてアブワ・ナスィファという用語を使っている。これは即製爆発物や自家製爆弾を指す場合によく使われる。自爆ベルトを用いたときはヒザム・ナスィファと表現される。

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マンチェスターで公演をしていたアリアナ・グランデのコンサート会場が標的となった。英当局は、「コンサート会場出口付近で爆発」と発表。多数の死傷者を出す爆発だったことは、周到な準備のもとに計画された可能性を示唆している。(画像はCNNより)

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5月24日付のイギリスの新聞。事件で犠牲となった8歳の女児について大きく伝えている。右の男が実行犯と報じられたリビア系英国人サルマン・アベディ容疑者(22)とされる写真。

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サルマン・アベディ容疑者の自宅への家宅捜索として英メディアが報じた映像。

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IS機関誌では、欧米をはじめとした「十字軍諸国」での市民殺戮を呼びかける記事が目立つようになっている。市民が多数集まる場所は政府機関や軍事施設よりも狙いやすく、主要な標的となるとしている。トラックの調達手順や、人が集まるイベントを狙え、といった、など具体的な手法を紹介しており、これに呼応した共鳴者が事件を引き起こす危険性が高まっている。(画像の一部をぼかしています)

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昨年、ISはシリア・イラクの外に住むISシンパに見せることを意識した内容の映像を公開。シリア・ラッカ発のIS映像で、「人間をナイフで殺害する際の急所」や「爆弾製造」などについて紹介している。実際の人間を殺害しながら解説したり、製造した爆弾をスパイとされた男に背負わせて走らせ、遠隔操作で爆死させるなど残虐を極めたものとなっている。写真は身近な日用品から小型爆弾を作る方法を解説している。(2016年・IS映像)

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3月にロンドン・ウェストミンスターで起きた暴走車両とナイフによる殺傷事件(死者5名・犯人含む)では、IS系アマーク通信が「イスラム国兵士」によるものと伝えたが、ISから公式声明は出なかった。のちにIS機関誌(左)では「カリフ国兵士・ハリド・マスードが作戦を敢行」とした。フランスやドイツでの単独決起型襲撃をISが事後承認する形と、直接ISが計画段階から作戦に関与するものなど、攻撃実行と声明発表の形態も分かれている。

◆IS・イラク・シリア・クルド情勢の
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