イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【イスラム国(IS)】新指導者への忠誠表明で結束誇示(5)フィリピン・インドネシア・アゼルバイジャン・タジキスタン・リビア

◆「忠誠の証し」にテロ起こす懸念
バグダディ死後、武装組織イスラム国(IS)の新指導者となったアブ・イブラヒム・アル・ハシミ。当面、懸念されるのが「アブ・バクル・アル・バグダディ殺害に対する報復」と「アブ・イブラヒム新指導者への忠誠への証し」としてのテロが各地で起きる可能性だろう。勢力誇示の忠誠表明に振り回されるべきではないが、残存勢力や支援者はいまもって存在しており、「忠誠の証し」として外国人を含む襲撃事件を引き起こす可能性もある。ISが弱体化したからといって過小評価すると、脅威を見誤ることになる。
】【【5】

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【アブ・イブラヒム・アル・クライシ】 写真は米国務省「正義の報償」サイトから。アブ・イブラヒム・アル・ハシミとされるアミール・アブドル・ラハマンは、「IS幹部のひとり」とされ、現在、逮捕につながる情報に500万ドル(約5億5千万円)までの懸賞金がかけられている。(現時点ではIS幹部であって新指導者との記載はない)ISが各地からの忠誠を立て続けに公表したのは、組織的結束を誇示するほか、「カリフ」としての認知を高める意図もあると推測される。ISは「シューラ評議会がカリフを承認」などとしているが、宗教的根拠も実態もない。各地から忠誠表明がなされたことで、アブ・イブラヒムなる人物が「支持されたカリフ」とする狙いもあるのではないだろうか。

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リビアカダフィ政権が崩壊して混乱に陥ったリビアでは、武装各派が衝突。そのなかで伸長したのが過激イスラム武装勢力だった。シリア・イラクでISが最盛期だった2014年には、リビアでバグダディに忠誠を表明する武装組織も出始めた。2015年、ISは、リビアにIS各県(州)を設置、それぞれタラブロス、フェザン、バルカと名付けられたが、敵対諸派との戦闘で敗退していった。現在もIS残存勢力が戦闘を続け、「リビア県(州)」との呼称を用いている。(2019年11月15日・リビア・IS写真)

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リビア一連の忠誠表明写真は単なる集合写真ではない。その撮り方や構図に詳細な指示が出ているかのように、右手を重ねるシーンが意識的に撮影されている。ISは盛隆期から、戦闘シーンから日常生活シーンまで、写真アングルにメディア部門が「指導」してきた。ジハードを映画のように英雄的に仕立て、市民殺戮までも「宗教的大義に満ちた戦い」などと思い込ませるプロパガンダ映像はネット・SNSを通じて拡散され、国際ジハード運動に影響を与ることとなった。(2019年11月15日・リビア・IS写真)

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アゼルバイジャンアゼルバイジャンはISの県(州)とは設定されていない。国内ではIS要員も限定的と思われるが、国内での活動が取り締まりを受けても、国外に出ていく可能性もあり、実際にアフガニスタンで、アゼルバイジャン出身のIS戦闘員が拘束される例も出ている。(2019年11月29日・アゼルバイジャン・IS写真)

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アゼルバイジャン昨年7月のバグダディへの忠誠映像。この映像では、アゼルバイジャン語でバグダディへの忠誠のほか、アリエフ政権を批判している。(2019年7月・アゼルバイジャン・IS映像)

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タジキスタン中央アジアタジキスタンでは、早くも「新指導者への忠誠表明の証し」として、テロ事件も起きている。11月8日、タジキスタンウズベキスタン国境警備隊検問所をIS戦闘員、20人が襲撃し、警備隊員らが死亡。またIS戦闘員15人も死亡した。(写真:タジキスタン内務省公表)

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タジキスタンIS系アマーク通信は「国境警備隊襲撃実行者によるアブ・イブラヒム・アル・ハシミ師への忠誠」とする映像を公開。新指導者の発表から1週間のうちに、ISは20人の戦闘員を投入した作戦の実行に至っている。2018年には観光でサイクリング中の欧米人観光客が男にナイフで襲撃される事件も起きている。ことのきは、アメリカ人2名、スイス人、オランダ人ら計4名が死亡。今後、こうした実際の行動をともなう「忠誠」が各地で起きる可能性もある。(2019年11月8日・タジキスタン・IS系アマーク通信映像より)

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【東アジア(フィリピン)】 東アジアからの忠誠表明では、フィリピン(2019/11/7)とインドネシア(2019/11/22)の写真が公開されている。フィリピンではISがシリアで台頭した2014年頃からすでにIS系メディアが「バグダディ忠誠表明」映像を出すなど、早い段階からISの影響が既存の過激イスラム勢力に及んでいた。(2019年11月7日・東アジア・フィリピン・IS写真)

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【東アジア(フィリピン)】 ISフィリピンはアブ・サヤフ、マウテグループなどを参集させ、勢力基盤を構築。現在はミンダナオ一帯などで活動を続け、軍部隊との衝突を繰り返している。(2019年11月7日・東アジア・フィリピン・IS写真)

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【東アジア(フィリピン)】 バグダディが「カリフ」を宣言した2014年、フィリピンでは「バグダディへの忠誠」とする動画がIS系メディアから公開されている。刑務所内で動画が撮影され、ネットに発信できてしまうのもすごい。タイトルには「マニラ刑務所のジハード戦士グループ」とあり、2014年の段階でISの影響がフィリピンの刑務所にまで及んでいたとみられる。映像では、バグダディへの忠誠(バイア)の言葉の部分をアラビア語で繰り返し一斉に唱和している。(2014年・フィリピン・IS系メディア映像)

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【東アジア(フィリピン)】2016年にISが公開した映像。フィリピンのジハード戦士らが次々とバグダディに忠誠を表明する映像。シリア内戦に乗じて台頭したISは、短期間でアフリカから東アジアに至るまで組織を「ISの看板」のもとにフランチャイズ化してフィリピンにも関連組織網を構築し、忠誠を誓わせた。(2016年6月・IS映像)

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【東アジア(フィリピン)】 2017年、フィリピン・ミンダナオのマラウィでは2017年、アブ・サヤフ、マウテグループらからなるIS勢力が町を一時占拠した。政府軍と激しい戦闘となり、双方で1000人を超える死者を出している。マラウィ戦ではインドネシア、サウジ出身の戦闘員も加わっていたとされる。(2017年8月・IS映像)

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【東アジア(フィリピン)】 昨年6月に公開されたバグダディへの忠誠表明キャンぺーンの映像。忠誠の言葉の部分はアラビア語で唱和している。これに引き継がれる形で新指導者アブ・イブラヒム・ハシミへの忠誠もなされることになったが、IS組織弱体のなか、正体不明の新指導者がどこまで求心力を持てるかは未知数だ。(2019年6月・IS映像)

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【東アジア(インドネシア)】 東アジアとしてもうひとつ公表された忠誠写真が、インドネシアからのもの。インドネシア国内ではジャカルタ・ショッピングモール爆弾事件(2016)や刑務所暴動(2018)などテロ事件も起きており、昨年10月にはIS支持者とみられる男が治安担当閣僚をナイフで襲撃する事件も起きた。インドネシア人戦闘員のフィリピン組織との往来も確認されている。(2019年11月22日・東アジア・インドネシア・IS写真)

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【東アジア(インドネシア)】 ISが最大勢力を誇っていた2015~2016年頃にシリア入りしたインドネシア人はかなりの数に上る。シリアで拘束されたインドネシア出身者を拘置施設でインタビューしたが、所属グループや交友関係を通じた勧誘だけでなく、ネットでISに感化されてシリアに入った者が少なくなかったという。(2019年11月22日・東アジア・インドネシア・IS写真)

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【東アジアからシリア入りしたIS戦闘員】 2016年にISがラッカから公開した処刑映像。インドネシア・フィリピン・マレーシア出身の戦闘員が「十字軍の手先」とする3人をナイフで斬首して殺害する。ISの地への「移住」を果たせ、と呼びかけたほか、それぞれの地でジハードを戦え、と扇動している。シリア・イラクでの戦いに呼応して世界各地で襲撃事件があいついだのは、ネット時代のジハードの特徴でもある。(2016年6月・IS映像)

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【東アジアからシリア入りしたIS戦闘員】 この2016年のIS映像のインドネシア・フィリピン・マレーシア出身の3人の戦闘員はいずれも国際手配され、国連指定テロリストとして制裁対象となっている。2018年には、日本の官報でも「国家公安員会告示」として3人の氏名・旅券番号が掲載された。(画像は官報・2018年9月14日付)

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【東アジアからシリア入りしたIS戦闘員】 斬首処刑映像に登場したインドネシア人、アブ・ワリード(モハンメド・サイフディン)は昨年1月末、シリアでの戦死写真(左)が出た。またフィリピン人戦闘員アブ・アブドルラハマン(ムハンメド・レザ・キラム)はシリア・バグーズで同1月に妻エレンとともに拘束と報じられている。写真右はシリア民主軍報道官が公表したもので、アブ・アブドルラハマンと妻のID。別の女性のIDはフィリピン財務省職員を示すもの。

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【ISの脅威】シリア・イラクで拘束されたIS戦闘員とその家族の本国送還に各国とも消極的だ。帰国すれば、将来、国内でテロを起こしたり、勧誘活動をする可能性があるためだ。ISに忠誠を誓い、過激思想に染まった元戦闘員とその家族の帰国問題に各国とも対応に苦慮している。シリア最終拠点バグーズで拘束された日本国籍者で、バングラデシュ出身の元大学教員を日本政府がどう処遇するかに関係する問題でもある。写真は昨年3月、ISがバグーズでの戦いを伝えたプロパガンダ映像。(2019年3月・IS映像)

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【ISの脅威】ISは弱体化し、バグダディは死んだ。だがその脅威は終わっておらず、いつまた別の地で息を吹き返すかもしれない。ひとたび「忠誠を示せ」と呼びかけがあれば、政府機関や外国企業だけでなく、市民さえも標的となる。IS問題は終わっていない。写真はISが昨年3月公開した映像から。アメリカ、ロシア、中国など世界の指導者にジハード戦士が立ち向かう姿。(2019年3月・IS映像)

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】【【5】

【イスラム国(IS)】新指導者への忠誠表明で結束誇示(4)イラク各地からの忠誠

◆壊滅していない地下ネットワーク
武装組織イスラム国(IS)はアブ・イブラヒム・アブ・ハシミを新指導者とする声明(2019/10/31)から、わずかのうちに戦闘地域を含む広範なエリアから「忠誠表明写真」を立て続けに公開した。各国の捜査当局、情報機関の追跡や監視にも関わらず、指示を下す司令系統や情報を集約して拡散させるネットワークがいまもって存在することを意味している。つまり新指導者アブ・イブラヒム・アル・ハシミが、ある国のIS要員に「決起せよ」と扇動や指示をすれば、短期間のうちにその地でテロが実行される可能性があるということでもある。
】【【4】

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【各地からの忠誠表明】 ISは4年前の最盛期に比べると大きく弱体化したが、世界各地ではISや関連組織がいまも活動を続けている。とくに西アフリカでの攻撃が激化し、ナイジェリアでは軍基地への襲撃があいついぐ。昨年7月にバグダディ忠誠表明映像が出たトルコやカフカスからは、これまでのところ新指導者への忠誠表明写真はまだ出ていないが、これら地域でも忠誠にともなうテロが起きる懸念がある。

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【バグダディ追悼報復戦】 指導者バグダディとIS報道官アブル・ハサンが10月末に米軍に殺害されたことを受けて、ISは報復戦(ガズワト・アッサイル)キャンペーンを開始した。12月21日から1週間の「戦果」総計として8か国で139攻撃を敢行したとし、地域別の攻撃統計グラフまで記している。これら統計は大本営発表ゆえ誇張した数字になっているだろうが、報復戦の「戦果」がプロパガンダとして使われている。バグダディ追悼の「弔い合戦」としてのテロや攻撃に加え、新指導者への忠誠表明としてのテロ攻撃も頻発する可能性がある。(IS機関紙ナバア・215号・2020年1月)

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イラク(ディジラ)】 イラクのIS「ディジラ」からの忠誠表明。イラクチグリス川沿いカイヤラ、マハムール一帯がそのエリア。イラク軍、警察部隊、シーア民兵・人民動員隊(PMU)、クルド自治区ペシュメルガ部隊とも交戦している。ISが敗退局面になった2018年7月に、県(州)としてはシリア・イラクでの細分化されていた各県の表記が消滅し、「イラク県」と「シャム(シリア)県」のガバガバな表記になった。(2019年11月16日・シリア・IS写真)

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イラク(ディアラ)】 右手を重ね、新指導者に忠誠を表明するディアラのIS戦闘員。ディアラはバグダッド東方からイラン国境に伸びる一帯の地域。マルチカム迷彩服だ。ここでもイラク軍やシーア民兵(PMU)ほかペシュメルガ部隊と戦闘を続けている。(2019年11月17日・イラク・IS写真)

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イラク(サラハディン)】 バグダッドとモスルを結ぶティクリート、バイジ一帯がサラハディン。写真の自動小銃はいずれもM-16系のようだ。イラク軍から奪ったとみられる。「地産地消」ではあるが、かつてISの盛隆期にはIS武器運用部門が戦利品を統括し、イラクで奪った武器をシリアの前線に回すような運用体制をとっていたため、シリアでイラク軍の兵器が使われるなどしていた。 (2019年11月18日・イラク・IS写真)

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イラクキルクーク)】 キルクークは西方のハウィージャがISの一大拠点となってきた。フセイン政権崩壊直後からハウィージャはスンニ派武装組織の拠点で、当時、駐留した米軍に最も激しく抵抗戦を戦った地域でもある。イラク軍、警察部隊、シーア民兵ほか、クルドペシュメルガ部隊襲撃があいつぐ。一方、キルクーク油田をめぐってイラク政府とクルド自治政府が対峙しているエリアでもある。(2019年11月19日・イラク・IS写真)

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イラクキルクーク)】 新指導者への忠誠写真。指を一本立てるのは神はアッラーのみを意味し、ムワヒディーン(唯一神信仰者)の証しでもある。キルクークではハウィージャ一帯のエリアでイラク警察やシーア民兵に対し、ISが頻繁に待ち伏せ奇襲戦を仕掛けている。(2019年11月19日・イラク・IS写真)

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イラク(北バグダッド)】ISは最大勢力時の頃から「北バグダッド県(州)」という呼称をバグダッド県とは別に使ってきた。おおよその範囲は、バグダッド市中心部からから4~50キロほど離れたエリア一帯にあたり、タルミーヤやバクーバなどでイラク軍、警察にゲリラ的な攻撃を加えてきた。(2019年11月14日・イラク・IS写真)

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イラク(北バグダッド)】この一帯では支配地域はすでにないため、この地域での顕著な攻撃形態は、軍・警察の検問所などへの自爆攻撃や軍用車両への仕掛け爆弾(IED)攻撃などだ。また行政職員も標的にしている。(2019年11月14日・イラク・IS写真)

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イラク(北バグダッド)】 イラクでISの支配下に置かれたスンニ派地域の住民。IS統治が終わったいま、住民が直面するのは、シーア派主導の民兵部隊、人民動員隊(PMU)によるスンニ派への報復的なふるまいである。ISの協力者とみなされたり、あるいは決めつけられた住民への暴行・拷問があいつぎ、問題となった。ISはこうしたスンニ派住民の反発心に付け込んで、地下で組織再編を画策する。(2019年11月14日・イラク・IS写真)

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【IS動向の監視】ISの活動は国境をまたいで世界各地に及ぶ。「決起せよ」と指示が出されれば、ネットで瞬時に伝わり、実際にテロが起こりうる。また、呼びかけに応じたシンパが紛争国に入ってISに参加したり、ISと直接関係ないとみられた者が突然、過激化して自国でローンウルフ(一匹狼)型テロを起こす可能性もある。各国の捜査当局・情報機関は、IS関係者やシンパらとSNSで連絡を取り合った人物を追跡するほか、興味本位で接触しようとした者も含めて監視し、動向把握に動いている。(画像は警察白書・2017年・「国際テロ対策特集」)

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【IS側の警戒】 一方、IS側も機関紙などを通じてスマホやパソコンなど通信デバイスの使用について、「サイバー戦争における敵によるネットを通じた攻撃への対処」として組織的に警戒してきた。各国の捜査当局の追跡・監視の中でさえ、ISはネットワークを維持している。バグダディ死亡後の組織再編、新指導者への忠誠表明の動きのなかで、テロが起きる懸念もある。

左:「通信暗号化の重要性~ジハード戦士の暗号駆使」(ナバア・61号・2016年12月)

右:「敵が情報スパイ要員をSNS網に送り込もうとする手法」(ナバア・202号・2019年10月)

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】【【4】

【イスラム国(IS)】新指導者への忠誠表明で結束誇示(3)シリア各地からの忠誠

◆正体不明の新指導者への求心力は未知数
武装組織「イスラム国(IS)」がバグダディの後継として発表した新指導者。だが、これまでのところ公式には「アブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クライシ」の名前しか明らかにされていない。新指導者への忠誠キャンペーンを展開するISだが、正体不明の人物を「カリフ」と発表しても、どれだけ各地のIS戦闘員やシンパから求心力が獲得できるかは未知数だ。今後のISがどのように新指導者像を作り上げていくのか、その動向が注目される。
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【忠誠表明地域一覧】 IS新指導者発表から1か月間の各地からの忠誠(バイア)表明一覧。(すべて把握していないので一部抜けている地域があるかもしれません) 忠誠表明で広範なネットワークを誇示したISだが、短期間に各地に一斉に指示を出して戦闘員を動かすのは、各国の捜査当局に情報網を把握される危険もある。それでもあえてこうした行動に出た。意図のひとつは結束と勢力の誇示、そしてもうひとつが「後継カリフが各地の支持を得ており、宗教的に正統」とする既成事実づくりもあったのではないか。(一覧は2019年11月時点の情報)

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【シリア(ハイル=デリゾ-ル)】 シリア・デリゾールに残存するISによる新指導者への忠誠表明。ISは昨年3月、シリア南東バグーズのシリア民主軍(SDF)との戦闘で最終拠点を失ったものの、残存部隊が潜伏し、各地で自爆攻撃や暗殺を続けている。デリゾールは東部が民主軍、西部をシリア政府軍が固めている。ISは両方に攻撃を仕掛けている。写真中央の自動小銃、ステアーSUGをシリアのIS戦闘員が手にする姿は珍しい。左後ろの男の腰には自爆ベルトが見える。(2019年11月7日・シリア・IS写真)

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【シリア(ラッカ)】 ラッカではシリア民主軍(SDF)に対する攻撃だけでなく、地元の行政当局関係者も「背教徒」として標的となっている。自爆攻撃だけでなく、暗殺戦も頻発。また農村の畑の焼き討ちも起きている。潜伏するISの残存地下部隊は、ハラヤ・ナイマ(=スリーパー・セル)と呼ばれる。(2019年11月7日・シリア・IS写真)

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【シリア(バラカ=ハサカ)】シリア東部ハサカでの攻撃対象は、シリア民主軍(SDF)と人民防衛隊(YPG)。ISはSDF・YPGともに左翼志向の強いクルディスタン労働者党(PKK)が母体となっていることから、「PKK無神論者」と呼ぶ。(2019年11月9日・シリア・IS写真)

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【シリア(バラカ=ハサカ)】写真の左から2番目の男はスプレッサー(サイレンサー)をつけた銃を手にしている。消音銃による暗殺戦は顕著で、行政職員も標的に。(2019年11月9日・シリア・IS写真)

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【シリア(ホムス)】 シリアのデリゾールとタドムル(パルミラ)を結ぶ地域スフナ一帯では、小規模部隊を維持し、シリア政府軍への奇襲戦などを繰り返す。(2019年11月7日・シリア・IS写真) 2015年にISがスフナ制圧した当時の写真>>

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【シリア(ハウラン=ダラア)】 シリア南西部ダラアにはIS系武装組織ハリッド・イブン・アル・ワリード軍が活動してきた。2018年中頃にシリア政府軍の攻勢で組織は敗退。その後、ISはダラア、クネイトラ、スウェイダ一帯のエリアをハウラン県(州)と呼ぶ(2018年7月頃に初めて登場)。IS統治実態はないが、シリア政府軍へのゲリラ攻撃を続けている。(2019年11月5日・シリア・IS写真)

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【シリア(ハウラン=ダラア)】 かつてのようにISが町を統治したような状況はすでにないが、シリア政府軍へのゲリラ攻撃をこの一帯で続けている。手を重ね、新指導者に忠誠を誓う写真が各地であいついでいることから、写真撮影のアングルまで指示が及んでいるとみられる。(2019年11月5日・シリア・IS写真)

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【シリア(アレッポ)】 アレッポ近郊のISの活動としては1月にマンビジで米軍に自爆攻撃をかけ、米兵らが死亡、トランプ大統領のシリア撤退政策にも影響を与えた。(2019年11月12日・シリア・IS写真)

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【シリア(アレッポ)】 10 月、クルド主導勢力のシリア民主軍(SDF)エリアをトルコ軍が越境攻撃し、トルコが後押しする自由シリア軍系の反体制派組織が国境地帯で勢力を広げた。米軍はシリア北部から部分撤収を開始し、代わって一部地域にはシリア政府軍・ロシア軍が展開。勢力地図が刻々と変わる混乱の隙をついて、ISが再び勢力を活発化させる懸念も出ている。(2019年11月12日・シリア・IS写真)

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【「ISは永劫残り続ける」】 これは昨年3月にシリアのIS最終拠点バグーズが陥落する直前にISが公開した映像。「シリア・イラクでISが拠点を失おうとも、国境を越えた別の地でジハードが続く」とした暗示的な言葉になっている。ISのスローガン、バーキヤ(残り続ける)とタタムダッド(広がり続ける)のごとく、各地に過激思想や運動は伝播して残っていく可能性があり、壊滅するのは容易ではない。(2019年3月・IS映像)

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【イスラム国(IS)】新指導者への忠誠表明で結束誇示(2)アフガニスタン・パキスタン・チュニジア・アフリカ

◆バグダディ「殉教者」、新指導者は後継「カリフ」

10月27日、米軍特殊部隊の作戦で殺害された武装組織イスラム国(IS)バグダディ指導者。その死はISにとって打撃となったのは間違いないが、それも想定済で、次の指導者が準備されていたのではないだろうか。イラク聖戦アルカイダザルカウィから「イラクイスラム国(ISI)」のアブ・ハムザとアブ・オマル、そしてISのバグダディと、指導者が死んで代わっても、組織イデオロギーは残り続けてきた。
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【バグダディは「殉教者」】 ISは機関紙でバグダディを「殉教者」として称讃。イラク聖戦アルカイダ機構のザルカウィ、ISのバグダディから現在に連なる系譜のなかに新指導者が位置付けている。右はIS機関紙ナバア(207号)が掲載したバグダディの「ジハード戦士・カリフから殉教者となるまでの経歴」。2014年にバグダディがカリフ制復活を宣言した際のインパクトはあまりに大きく、新指導者がバグダディを超えるほどの「カリスマ性」を持つのは容易ではないだろう。

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【「カリフ」選出と忠誠】IS戦闘員が右手を重ねあって唱和する忠誠(バイア)の言葉。(だいたいこういう感じと思います、違ってたらすみません) これはアブ・イブラヒム・ハシミが新指導者と公表後にネットに出回った画像。この文言はもともと過去のイスラムの戦いにも由来するもので、ISは勝手に自分たちの指導者の名前を挿入している。以前は黄色の部分がアブ・バクル・アル・バグダディの名で、軍事キャンプや戦闘時の突撃前の「勝鬨(かちどき)」として唱和するほか、かつてはモスクで住民がISに忠誠を誓わされる際にもこの言葉を唱和。フィリピンやアフガニスタンなどでも、アラビア語でこの忠誠の言葉を唱和している。

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【ホラサン(アフガニスタン)】 右手を重ね、新指導者アブ・イブラヒム・アル・ハシミへの忠誠を表明するホラサン県(州)のIS戦闘員。ホラサンはアフガニスタン一帯を指す。(2019年11月5日・ホラサン・IS写真)

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【ホラサン(アフガニスタン)】 ISホラサンからの新指導者への忠誠表明。アフガニスタンは、タリバン残存勢力が政権に対する活動を続けてきたが、2014年にISが台頭するとその影響はアフガニスタンにもおよび、ISホラサン県(州)として承認される(当初はパキスタン中央アジアを含むエリアもホラサンとする位置づけだった)。(2019年11月5日・ホラサン・IS写真)

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【ホラサン(アフガニスタン)】 この映像はドローンで撮影したと思われる。ホラサンのISは、アフガン政府軍や駐留米軍との戦闘だけでなく、政府機関職員、シーア派ハザラ人までも標的都市、自爆攻撃などを繰り返してきた。(2019年11月5日・ホラサン・IS写真)

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【ホラサン(アフガニスタン)】 タリバンはアフガン政府やアメリカと「和平交渉」を進める一方、ISはタリバンを「背教徒」と規定し、殲滅戦を展開。タリバン地域にいる地元部族まで襲撃対象にして部族長らを殺害している。(2019年11月5日・ホラサン・IS写真)

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パキスタン パキスタンでのISの活動はアフガニスタンを含むホラサン県(州)エリアとなっていたが、昨年5月、別途、インド、パキスタン各県(州)が登場した。アフガニスタン国境地帯での活動のほか、パキスタン西部クエッタなどで警官襲撃をするなどしている。今回の一連の忠誠表明写真では、インド県(州)は11月末までには出なかったようだ。(2019年11月3日・パキスタン・IS写真)

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チュニジアチュニジアのIS系組織は、2015年にバルドー博物館襲撃(日本人観光客3人含む22人が死亡)や観光地スーサでのホテル襲撃事件(イギリス・ドイツ人観光客含む28人死亡)を引き起こしている。昨年6月のチュニス中心部での自爆攻撃では、警官らを殺傷。(2019年11月6日・チュニジア・IS写真)

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チュニジア写右手を重ねて忠誠を誓う戦闘員。写真右から2人めの戦闘員はステアーAUGを手にしている。昨年のIS映像でも同銃が映っており、チュニジア軍の制式銃を奪った可能性。(2019年11月6日・チュニジア・IS写真)

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【西アフリカ(ナイジェリア)】 西アフリカのISは、おもにナイジェリアで勢力基盤を広げてきた。チャド国境付近の北東部で政府軍との戦闘を激化させている。(2019年11月7日・西アフリカ・IS写真)

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【西アフリカ(ナイジェリア)】 ISがシリア・イラクで拠点を失って以降、最も勢力を拡大している地域のひとつがナイジェリアである。頻繁にナイジェリア軍を襲撃しては武器を鹵獲するゲリラ戦を展開し、多様な武器を所持している。(2019年11月7日・西アフリカ・IS写真)

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【西アフリカ(マリ・ブルキナファソ)】 「マリとブルキナファソのカリフ国兵士の忠誠」とあり、どちらの国で撮影されたかは不明。IS西アフリカ県(州)とするのは、ナイジェリア、ニジェール、チャド、マリ、ブルキナファソの一帯。(2019年11月9日・西アフリカ・IS写真)

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【西アフリカ(マリ・ブルキナファソ)】 これもマリ、ブルキナファソのいずれかの国。フランス軍は、マリ、ブルキナファソニジェール、チャド一帯の地域に部隊4500人を派兵して各国の軍を支援している。同地域にはISのほか、アルカイダイスラムムスリム擁護者機構(JNIM)などが活動する。11月には、ブルキナファソニジェールの国境地帯でイスラム過激武装勢力掃討作戦を展開するフランス軍ヘリが衝突し墜落、13名が死亡している。(2019年11月9日・西アフリカ・IS写真)

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中央アフリカ 中央アフリカのISは、西アフリカよりも遅れて登場し、コンゴモザンビークでの活動が顕著になりつつある。写真はいずれの国か不明だが、コンゴではないかと推測される。いずれも政府軍への攻撃を繰り返す。またモザンビークでは、カーボデルガドで活動するロシアの民間警備会社(PMC)ワグナー・グループのロシア人要員を襲撃、殺害するなどしている。(2019年11月7日・中央アフリカ・IS写真)

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中央アフリカ 昨年4月のバグダディ声明の最後に登場した映像。中央アフリカ県(州)を示す報告書とみられるファイルがバグダディに手渡されるシーン。攻撃拡大に加え、プロパガンダ写真も増加している。(2019年4月・バグダディ声明映像より)

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【イスラム国(IS)】新指導者への忠誠表明で結束誇示(1)エジプト・バングラデシュ・ソマリア・イエメン

◆バグダディ死後のIS
武装組織イスラム国(IS)のバグダディ指導者が10月末に死亡したのを受けて、「カリフ」としてアブ・イブラヒム・アル・ハシミが新指導者として公表された。ISは「各県(州)からの新カリフへの忠誠表明とする写真を1か月のうちにあいついで公開、バグダディ死亡後も組織の結束があることをアピールした。また、後継「カリフ」としての既成事実づくりの意図もあるとみられる。
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【新指導者アブ・イブラヒム】バグダディ指導者の死(10月27日)から4日後、ISは報道官の音声声明を通じて、新指導者アブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クライシを「信徒の長」「ムスリムのカリフ」などと発表した。これはバグダディと同じ肩書で、その後継者として地位を受け継いだことになる。IS新報道官アブ・ハムザ・アル・クライシによる音声声明では、バグダディ追悼とともに、各地のムスリムや戦闘員らに向け、新指導者への忠誠を呼びかけた。新指導者アブ・イブラヒムも新報道官アブ・ハムザも顔は明かされていない。(IS機関紙ナバア・206号)

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【新指導者アブ・イブラヒム】アブ・イブラヒムの正体は不明だが、メディア報道では、イラク人、アミール・アブドル・ラハマン・アル・マウリ・アル・サルビ(ハジ・アブドラ)ではないかとされる。出自・族系を示す名(ニスバ)に「アル・クライシ」を名乗っている。これは預言者ムハンマドの出身部族クライシュ族とのつながりを示すもので、その名を冠することで、「宗教的正統性」を持たせて、権威づける意図があるとみられる。これもバグダディと同様の手法である。いずれも実際にクライシュ族と関係があるかの根拠はない。

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【新指導者アブ・イブラヒム】 現時点では未確定情報ながらアブ・イブラヒムはアミール・アブドル・ラハマン(ハジ・アブドラ)と報じられている。ハジ・アブドラはフセイン政権下の旧イラク軍軍人で、政権崩壊後はイラク聖戦アルカイダ機構に参加、同組織はのちにISに。スンニ派・トルコマンで、アラビア語に加え、トルコ語も話せると推測される。トルコ系のトルコマンとすれば、ムハンマドクライシュ族出身とISが主張するのは、仮に過去に類縁の関係があったとしてもかなり遠すぎる気もする。写真はIS支配時代のイラク・タラファル。(IS映像・2015年)

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【新指導者アブ・イブラヒム】タラファルはスンニ派シーア派のトルコマンが多かった町で、ISは町を制圧し、シーア派を殺害、追放、シーア派モスクや墓地を徹底的に破壊した。またアブ・イブラヒムはタラファル西方シンジャルでのヤズディ教徒襲撃・拉致事件(2014年)の首謀者のひとりとされる。写真は当時、ISが公開したタラファルでのシーア派モスクの爆破映像。(IS映像・2015年)

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【IS機関紙】 IS声明から1週間後に発行されたIS機関紙ナバアは、各地からの忠誠表明の様子を特集。掲載された地域はシナイ(エジプト)、ソマリアパキスタン、イエメン、ホラサン(アフガニスタン地域)、西アフリカ、中央アフリカ、東アジア(フィリピン)、ベンガルバングラデシュ)、チュニジアとなっている。ナバアは週刊で発行されるので、新指導者選出の声明が出てから約1週間のうちにこれだけの写真が広範な地域から集まったことになる。(IS機関紙ナバア・207号)

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【シナイ(エジプト東部・シナイ半島)】 10月31日の声明公表後、シリア、イラクほかISが活動する各地域から、新指導者への忠誠表明の写真が立て続けに公開された。シナイ半島地域を拠点とするISは、エジプト軍に対する仕掛け爆弾(IED)や狙撃を繰り返している。(2019年11月2日・シナイ・エジプト・IS写真)

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ベンガルバングラデシュ)】ISが新指導者を発表した声明からわずか2日後に出たのがこの写真で、バングラデシュからの忠誠表明とするもの。ISは2016年、ダッカのレストランで日本人含む外国人襲撃事件を引き起こすなど、バングラデシュにも地下基盤を構築してきた。ダッカ襲撃事件以降、大規模なテロ攻撃は起きていないが、その後も警官襲撃などが発生している。(2019年11月2日・バングラデシュ・IS写真)

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ベンガルバングラデシュ)】 戦闘員数が小規模なものが含まれているものの、忠誠表明写真はアフリカからアジアにまで及んだ。バングラデシュ出身者では、日本国籍を取得した元大学教員が、日本人の妻・子どもとともにシリア入りした。妻は空爆で死亡したとされ、この元大学教員は昨年3月にシリア・バグーズで拘束されている。(2019年11月2日・ベンガル・IS写真)

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ベンガルバングラデシュ)】 バングラデシュ出身で、日本国籍者としては初めての「IS戦闘員」となった元大学教員は、他のバングラデシュ出身者のリクルートにも関与したと報じられている。(2019年11月2日・ベンガル・IS写真)

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ベンガルバングラデシュ)】 ベンガル語でのIS出版物はいまもネット上に多数存在し、バングラデシュのISの活動が壊滅したわけではない。(2019年11月2日・ベンガル・IS写真)

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ソマリア ソマリアではアルカイダ系とされる組織シャバーブ幹部で北部プントランドを拠点に活動していたアブドルカードル・ムミーンが2015年にIS指導者バグダディに忠誠表明し、配下の戦闘員らを引き連れシャバーブから分岐し、ISソマリアの幹部に。(2019年11月3日・ソマリア・IS写真)

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ソマリア右手を重ね、忠誠を誓う戦闘員。ISはシャバーブを「背教徒」とし、他方、シャバーブ側もISを攻撃するなどしている。アメリカはアブドルカードルを「国際テロリスト」に指定。(2019年11月3日・ソマリア・IS写真)

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【イエメン】 イエメンのISは、一時、サナア、アデン・アブヤン、ハドラマウト、ベイダほか複数の県(州)を設定したが、シリア・イラクでの敗退局面の県再編で、2018年にはイエメン県(州)とした。(2019年11月4日・イエメン・IS写真)

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【イエメン】 ISによるフーシ派勢力への攻撃が顕著になっているほか、武装組織「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)を「背教徒」とし殲滅戦を繰り返す。(2019年11月4日・イエメン・IS写真)

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IS機関紙ナバア・ヘッドライン【11】(2019年9~12月)198~214号

◆IS機関紙ナバア(2019年9~12月)198~214号
イスラム国(IS)機関紙 アン・ナバアのヘッドライン
◆ISの週刊発行プロパガンダ紙であり、いずれもIS大本営発表(IS動向の検証資料として掲載しています。残酷画像は一部ぼかし処理しています)
※印はメディア報道情報などをもとにした注釈 Research + Analysis

一覧】【】【】【】【】【】【】【】【101112【13】

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IS機関紙ナバア(198号)◆イエメンでアルカイダに反撃戦、計7名殺傷◆イラク・ディアラで警察、シーア民兵、部族民兵ら19名殺傷◆ディジラでアメリカの爆弾処理専門家、IED爆発で死亡◆サマラでシーア民兵平和中隊(旧サドル派マハディ軍)攻撃◆デリゾールでPKK(SDF・YPGを指す)要員16名殺傷、ハサカでは暗殺戦◆シナイ、エルアリシュでエジプト軍兵士殺傷、IEDでM60戦車破壊◆ナイジェリア軍、チャド軍に攻撃戦◆パキスタン情報機関要員2名殺害◆アフガニスタン治安部隊将軍殺害、タリバン4名殲滅◆バングラデシュダッカで交通警官に爆破戦2名負傷◆6日間「戦果」計58作戦142名以上殺傷◆ヒジュラ暦1440年1年間「戦果」総計3665攻撃、不信仰者・背教徒 15,845名殺傷◆2019/09/06

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IS機関紙ナバア(199号)◆バグダッド8か所で12爆弾による連続爆破戦、シーア派ら100名以上殺傷◆フィリピン・スールー・ホロ島パティクルなどで軍兵士ら22名殺傷◆ディアラでイラク軍・シーア民兵を狙撃で9名殺害◆アフガニスタン各地で選挙施設標的ほか治安部隊、タリバン、「イスラム」名乗る背教政党など攻撃、計89名殺傷◆シリア・デリゾールでPKK(SDF・YPGを指す)協力の地元評議会議長含む12名殺傷◆ナイジェリア・ボルノとチャド湖近郊で軍部隊多数殺傷、軍用車両16台鹵獲、トラック3台破壊◆パキスタン・クエッタでスパイ殺害◆6日間「戦果」計70作戦387名以上殺傷◆ヒジュラ暦1440年1年間シナイ県「戦果」総計228作戦、エジプト軍、スパイ、背教徒ら463名殺傷◆2019/09/13

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IS機関紙ナバア(200号)◆バグダディ(2019/9/16)声明「(かれらに)言ってやるがいい」(改悟章:105節より)◆カメルーン・ナイジェリア・ブルキナファソで軍部隊に連続攻撃37名殺害◆コンゴ軍・国連軍攻撃◆バグダッドでシーア民兵らに爆破4作戦24名殺傷◆デリゾール・ラッカでPKK(SDF・YPGを指す)殺傷◆エジプト軍将校含む5名殺害◆ソマリアで警官暗殺◆6日間「戦果」計53作戦177名以上殺傷◆2019/09/20

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IS機関紙ナバア(201号)◆アフガニスタン、ナンガルハル、ジャララバードなど各地で連続攻撃、政府軍、警察、シーア派民兵、スパイ、タリバンら背教徒計46名殺傷◆ナイジェリア北東ボルノで軍部隊攻撃14名殺害◆イラク・ディアラで軍・シーア民兵ら16名殺傷◆イラク・サマラで警察とバドル派シーア民兵幹部殺害◆ディジラ、シャルカット南方マホル山で警察と米軍狙いIED爆破戦◆バグダッド北部でイラク軍・民兵ら7名殺傷◆イラク・カルバラでバス爆破戦、シーア派ら17名殺傷◆シリア東部デリゾール村落部でPKK(SDF・YPGを指す)要員12名殺傷◆シリア・ホムス、スフナでロシア軍・シリア政府軍に待ち伏せ戦15名殺傷◆ダラアでシリア政府軍将校含む多数殺傷◆エジプト軍攻撃、スパイ2名処断◆フィリピン・ミンダナオでモロ・イスラム解放戦線10名殺傷◆6日間「戦果」計76作戦243名以上殺傷◆2019/09/27

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IS機関紙ナバア(202号)◆アフガン治安部隊・タリバン・選挙関連機関、計192名殺傷◆シナイ、エジプト軍15名殺害◆サラハディンでイラク軍スパイを査問・処断◆ナイジェリア北東部で軍部隊攻撃◆モザンビーク軍・コンゴ軍に攻撃戦◆6日間「戦果」計99作戦202名以上殺傷◆2019/10/04

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IS機関紙ナバア(203号)◆アフガニスタン政府軍・タリバン155名殺傷◆ラッカでPKK(SDF・YPGを指す)司令部に殉教突撃◆ホムス・スフナでシリア政府軍殺害◆フィリピン軍・民兵ら攻撃◆イエメン・キファでアルカイダ殲滅◆6日間「戦果」計51作戦274名以上殺傷◆2019/10/11

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IS機関紙ナバア(204号)◆イラク・ディヤラで軍・民兵・警察ら49名殺傷◆モザンビーク・カボ・デルガードで政府軍・ロシア軍攻撃◆シリア・カミシュリで自爆攻撃、シャダーディ米軍基地にカチューシャ5発◆図・エジプト「平和主義者狩り」◆6日間「戦果」計83作戦255名以上殺傷◆2019/10/18

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IS機関紙ナバア(205号)◆ナイジェリア軍・ニジェール軍に連続攻撃◆バグダッド、対テロ部隊要員暗殺◆エジプト軍兵士を狙撃殺害◆PKK(SDF・YPGを指す)拘束のイスラム教徒女性らを奪還◆フィリピンでスパイ処断◆監視カメラの危険性◆6日間「戦果」計69作戦153名以上殺傷◆2019/10/18

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IS機関紙ナバア(206号)◆アブ・ハムザ・アル・クライシ音声声明「誰あろうとアッラーの約束を果たす者には、アッラーの報奨が与えられよう」(クルアーン・勝利章:10節)・アブ・バクル・アル・バグダディ、アブル・ハサン・アル・ムハジール報道官「殉教」、新指導者アブ・イブラヒム・アル・ハシミ師と発表 声明全文>>◆デリゾールでスパイ含むシリア政府軍兵士殺傷◆シリア・カミシュリでPKK(SDF・YPGを指す)司令部狙い爆破戦闘◆ディアラでイラク軍・シーア民兵・警察39名殺傷◆アフガン各地でタリバン指揮官含む12名殺害◆シナイ、エジプト軍大佐含む背教兵士ら殺傷◆フィリピン・ミンダナオでモロ・イスラム解放戦線ら8名殺傷◆6日間「戦果」計71作戦179名以上殺傷◆2019/10/31

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IS機関紙ナバア(207号)◆西アフリカ、マリ・メナカで軍の拠点を攻撃70名死亡、フランス軍車列にはIED爆破戦◆コンゴ北東ベニで軍部隊攻撃◆カリフ・アブ・イブラヒム・アル・ハシミ師への各地からの忠誠表明◆シリア・デリゾール各地でPKK(SDF・YPGを指す)に爆破戦、シリア政府軍兵士複数殺傷◆シリア・ダラアで治安要員とヒズボラを暗殺◆フィリピン・ミンダナオ・スールーのパティクルで軍部隊攻撃7名負傷◆シナイ、エジプト軍戦車・装甲車に爆破攻撃、大佐級含む将校殺傷◆フィリピン・ミンダナオでモロ・イスラム解放戦線ら8名殺傷◆6日間「戦果」計61作戦229名以上殺傷◆2019/11/08

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207 号紙面ではバグダディ死亡後、新指導者カリフ「アブ・イブラヒム・アル・ハシミ師への忠誠」とする各地からの写真を掲載。ホラサン(アフガン一帯)、シリア、イラクバングラデシュ中央アフリカ、西アフリカ、東アジア(フィリピン)、ソマリアチュニジアなどから戦闘員が右手を重ね忠誠を唱和する様子が映っている。

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IS機関紙ナバア(208号)◆カリフ国兵士がナイジェリア軍30名殺害◆モザンビーク、カボ・デルガードで軍部隊攻撃8名殺害、キリスト教徒村落焼き討ち◆シリア・デリゾールでPKK(SDF・YPGを指す)関係者暗殺戦、キリスト教司祭も殺害、ハサカではPKKスパイ5名処断◆フィリピン・スールー・ホロ島パティクルで軍部隊3名殺傷◆エジプト軍に対しラファ、アリシュ、シェイク・ズワイドで爆破戦、M113戦闘車含む軍用車両破壊◆アンバル、ヒートとルトバで車両爆弾、部族民兵ら15名殺傷◆ディジラ、マハムールで米軍小型スパイ無人機撃墜◆タジキスタンウズベキスタン国境イシュカバードでタジク国境警備隊に突撃戦10名以上殺害◆6日間「戦果」計62作戦200名以上殺傷◆2019/11/15

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IS機関紙ナバア(209号)◆西アフリカのカリフ国兵士、マリ軍待ち伏せ攻撃60名殺傷◆マリでバルハン作戦展開のフランス軍部隊と交戦(サハラ砂漠南縁部サヘル一帯で2014年から続くイスラム武装勢力掃討作戦、ブルキナファソ、チャド、マリ、ニジェール、モ-リタニア各国軍が仏軍と共同作戦。仏軍は4500名規模の部隊を派遣している。ISに忠誠を誓う組織がマリ軍・仏軍を攻撃を続け、とくにマリ、ブルキナファソニジェールの国境地帯でIS系組織の活動が活発化)◆ナイジェリア軍に攻撃戦◆中央アフリカのカリフ国兵士、モザンビーク、カ-ボ・デルガドで軍兵駐屯地とロシア軍拠点を攻撃(モザンビークでは駐留ロシア軍、その関係者への攻撃があいつぎISが犯行声明を出している)◆ミンダナオでフィリピン軍に反攻戦、マラウィではキリスト教徒3名殺害◆シナイ、エジプト軍将校2名含む8名殺害、シェイク・ズワイドでM60戦車をIED攻撃◆シリア・デリゾールでPKK(SDF・YPGを指す)要員9名殺害、シリア政府軍5名殺害◆シリア・ハサカでPKK暗殺戦◆シリア・ホムスのスフナで政府軍待ち伏せ戦◆イラク・ディアラでシーア民兵攻撃◆北バグダッドイラク警察2名殺害◆イラク・サマラでシーア民兵副指揮官ら殺害◆アフガニスタン・ジャララバードで刑務所職員暗殺◆リビアキレナイカでIS兵士が新指導者アブ・イブラヒム・アル・ハシミ師に忠誠表明◆6日間「戦果」計52作戦180名以上殺傷◆2019/11/22

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IS機関紙ナバア(210号)◆西アフリカ、マリ東部でフランス軍ヘリ2機墜落13名死亡(※11月25日夜、マリで作戦中の仏軍ヘリ2機が空中で衝突、士官含む13名是認が死亡。マクロン大統領は「犠牲となった兵士に最大限の敬意を表する」と声明)◆ナイジェリア・ボルノで兵舎攻撃◆ジハード伝えてきたメディア戦争の勝利者◆サラハディンでイラク軍情報部幹部含む警察部隊・部族民兵を殺害◆バグダッドで連続爆破攻撃、シーア派ら50名殺傷◆デリゾールでPKK(SDF・YPGを指す)殺害◆アルジェリア軍将校含む8名殺害◆フィリピン・スールー、パティクルで軍部隊攻撃◆インドネシアIS兵士が新指導者アブ・イブラヒム・アル・ハシミ師に忠誠表明◆シナイ半島北部でエジプト軍M60戦車爆破破壊、スパイ処断◆6日間「戦果」計48作戦157名以上殺傷◆2019/11/29

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IS機関紙ナバア(211号)◆イラク・ディアラでシーア民兵23名、クルドペシュメルガ13名、イラク軍5名殺傷◆ナイジェリア、赤十字含むキリスト教徒拘束、軍部隊攻撃、武器・車両多数鹵獲◆イラクファルージャで裁判官暗殺◆シリア・デリゾールでPKK(SDF・YPGを指す)12名殺傷、ラッカで2名暗殺◆エジプト軍M60戦車破壊◆北バグダッドイラク軍7名殺害、軍用車両破壊◆ソマリア、モガデシュで治安部隊要員殺害◆イラク・モスル東部でスパイ処断◆アゼルバイジャンでIS兵士が新指導者アブ・イブラヒム師に忠誠表明◆英ロンドン橋でIS兵士ウスマン・カーンが十字軍2名殺害・3名刺傷(※2019/11/29、ロンドン橋で男がナイフで次々と切りつけ2男女2名が死亡、3名が負傷。容疑者ウスマン・カーン・28歳は犯行時、偽の自爆ベストを着用しており、通行人と格闘の末、警官が現場で射殺。事件当日、橋付近の施設で元受刑者更生プログラムの会合に参加、その後、犯行におよんだ。アルカイダに触発された爆弾未遂事件などで服役歴があったが、ISとの関係は不明)◆ソマリアで治安部隊襲撃◆イラクファルージャで裁判官暗殺◆6日間「戦果」計61作戦167名以上殺傷 ※12月4日、アフガニスタンで日本人医師が武装集団に襲撃され殺害されたが、ナバアでは「日本人襲撃」を含むアフガニスタン地域での戦闘や攻撃についての記事・記述なし。アフガンについてはニュース報道引用し、感謝祭にアフガンを電撃訪問したトランプ大統領や米国と「和平交渉」するタリバンに言及する短い記事のみ掲載(2019/12/05)

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IS機関紙ナバア(212号)◆イラク・ディアラでシーア民兵クルドペシュメルガ15名傷◆ナイジェリア政府施設連続放火攻撃◆モザンビーク、カーボ・デルガドで軍部隊襲撃◆イエメンでアルカイダに砲撃殲滅戦、アデンで治安幹部暗殺◆パキスタン・バロチスタンで情報要員襲撃◆シナイ、エジプト軍車列◆シリア政府軍・ヒズボラ殺傷◆北バグダッドでシーア民兵・警察待ち伏せ攻撃◆ソマリア・ボサソで警察2名暗殺◆PKK要員ラッカで暗殺◆爆破戦◆6日間「戦果」計52作戦116名以上殺傷◆2019/12/12

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IS機関紙ナバア(213号)◆カリフ国兵士がニジェール北東で軍部隊攻撃、ナイジェリアでも軍基地急襲◆フィリピン、スールーのパティクルで軍・警察と戦闘、14名殺傷◆シリア・デリゾールでPKK(SDF・YPGを指す)とその協力者6名殺傷、ラッカ村落部ではPKKに待伏せ戦◆ディジラで部族民兵イラク軍殺傷◆アンバルでイラク軍・シーア民兵を標的◆北バグダッド検問所でイラク軍3名殺害◆イエメン・キファでアルカイダ拠点にB10無反動砲撃、イエメン南西イッブではフーシ派多数殺傷◆モザンビーク、カーボ・デルガドで軍用タンクローリー破壊◆6日間「戦果」計60作戦233名以上殺傷◆2019/12/19

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IS機関紙ナバア(214号)※指導者バグダディと報道官アブル・ハサン・ムハジール殺害に対する報復戦キャンペーン開始◆ナイジェリア北東で軍部隊40名殺傷ほかキリスト教徒殺害◆シリア・デリゾールでPKK(SDF・YPGを指す)要員25名殺傷◆シリア政府軍をホムス・スフナの油田地帯で攻撃、21名殺害、ハウラン(ダラア)では政府軍暗殺、ロシア軍にも攻撃戦◆ラッカでPKK要員をIED+暗殺戦で13名殺傷◆アレッポでシリア政府軍とPKK要員殺害◆イラク・ディアラで軍・民兵・警察25名殺傷◆バイジで警察10名殺傷◆北バグダッドでシーア民兵殺害、スパイ処断◆イエメンでフーシ派+アルカイダ殲滅戦◆ソマリアで軍士官暗殺◆6日間「戦果」計109作戦258名以上殺傷◆2019/12/27

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【動画+写真16枚】米軍特殊部隊がISバグダディ急襲作戦、「追い詰められ自爆死」とトランプ大統領

◆「バグダディ死亡しても次の指導者になるだけ」との声も
10月27日、トランプ米大統領は特別声明を発表し、イスラム国(IS)の指導者アブ・バクル・アル・バグダディの潜伏先を米軍特殊部隊が急襲し、自爆死したと公表した。場所はシリア北西部イドリブ近郊。また、その数時間後にはIS報道官が米軍の空爆で死亡。2人の死亡が事実なら、ISにとっては大きなダメージとなる。一方、シリア・イラク住民には「指導者が変わるだけでIS思想の脅威は残る」とする声も。

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トランプ大統領は27日、ホワイトハウスで特別声明を発表、IS指導者バグダディ死亡」とし、「バグダディは追い詰められ自爆、犬のように死んだ」「アメリカと世界にとって大いなる夜」と述べた。(ホワイトハウス公表写真より)
トランプ大統領声明「バグダディの死に関して」全文(2019/10/27) >>

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バグダディ潜伏建物急襲作戦は26日深夜から27日未明にかけて遂行された。デルタフォースほか第75レンジャー連隊らが連携。イラク北部アルビルから米軍のCH-47 チヌークヘリなど計8機がシリアに向け出動。米軍は飛行ルートを公表していないが、報道ではトルコ領上空を飛行したとされる。またトルコ、ロシアとは作戦内容の詳細は明かさなかったものの、航空衝突など事態を避けるために事前調整したとされる。

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バグダディが潜伏していた建物はシリア・イドリブ県ハレム郡バリシャ村。深夜に開始されたデルタフォースによる突入作戦は約2時間。任務終了後、部隊は27日未明までにはアルビルに帰還したとされる。

【動画】【バグダディ潜伏建物急襲】(音声なし)

国防総省は、バグダディ潜伏建物急襲作戦の映像を公開。突入から撤収後の建物破壊の様子が映っている。マッケンジー中央軍司令官は「建物周辺で敵意を示した武装員(IS戦闘員ではないとみられる)を銃撃。建物内にいいた者は武装解除して無力し、保護した子供は11人。降伏の指示に従わなかったISメンバー5名は殺害(女4、男1)で、バグダディはトンネルに追い詰められ子供2人を巻き添えに自爆死」としている。(米国防総省公表映像・音声なし) 

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米軍特殊部隊側はバグダディが潜伏していた建物を制圧後、情報物などを押収して撤収。米軍がミサイルを複数撃ち込み、完全に爆破。爆撃前(左)と爆撃後(右)。(国防総省公表写真)

【動画】【急襲作戦後、破壊されたバグダディ潜伏建物】

急襲作戦後、米軍のミサイルで破壊されたバグダディが潜伏していた建物。米国防総省高官は「聖地化されるのを阻止するために破壊した」としている。(米VOAがトルコ・アナドル通信AAの映像を配信したもの) 

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急襲作戦は「カイラ・ミュラー作戦」と名付けられた。カイラ・ミュラーは2013年シリアで拘束され、2015年2月に監禁先の建物がヨルダン軍の空爆で破壊され死亡したとされる。(死亡時26歳)

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当時、ISが「米国人人質カイラ・ミュラーが死亡した建物の瓦礫」として公表した写真。ISはヨルダン軍機の空爆で死亡としていた。この写真が公開されたのは2015年2月で、ISによる日本人人質事件で後藤・湯川さんらの殺害や、ヨルダン軍パイロットで人質となったモアズ・カサスベ中尉焼殺事件など各国を巻き込んで情勢が揺れていた時期。実際にヨルダン軍機の空爆でカイラ・ミュラーが死亡したかどうかは不明だが、ISが「カイラ・ミュラー死亡も米軍主導の有志連合のせい」などとプロパガンダに利用した。(2015年2月6日・IS写真・シリア・ラッカ) 

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シリア・クルド主導勢力のシリア民主軍(SDF)司令官マズルム・エブディは、SDF情報部門が米軍とIS幹部追跡で連携したほか、IS報道官アブル・ハサン・アル・ムハジール殺害に直接協力したとしている。アブル・ハサンはシリア北部ジャラブロス近郊アイン・アル・バイト村でバグダディ死亡の数時間後に米軍の精密爆撃で死亡が報じられた。SDF側は「1か月前に急襲作戦が計画されていたがトルコのシリア侵攻で延期された」としている。

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写真はISが今年4月末に公開したバグダディ映像。IS幹部から報告を受ける様子とみられる。当時、この映像が撮影された場所がシリアなのか、イラクなのか、クッションの形状や服装、映っている武器などから、専門家による様々な分析がなされた。10月上旬にSDF報道官ムスタファ・バリに直接聞いた話では、「バグダディはイドリブ潜伏の可能性が高い」と話していた。(2019年4月・IS公表映像より)

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シリア民主軍(SDF)で米軍・有志連合との調整を担当してきたポラット・ジャンは、「バグダディがデリゾールのダシーシャから移動したのを追っており、5月以来CIAと連携して追跡。バグダディはジャラブロスに移動予定の可能性があった」としている。バグダディ周辺部にスパイを送り込むことに成功し、位置情報とともに下着サンプルを入手し、米情報機関が「一致」とし、急襲作戦にSDFが貢献したと報じられている。クルド・人民防衛隊(YPG)幹部の話では、デルタフォースのヘリに特殊訓練を受けたクルド部隊が同行し支援したという情報もある。写真右がポラット・ジャン。左は有志連合で米特使を務めてきたマクガーク。マクガークはトランプのシリア撤退政策に反対して昨年末辞任。(2014年・YPG写真より)

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米軍の急襲作戦で自爆死したバグダディ、死亡時48歳。米国防総省の諜報部門、国防情報局は、「バグダディ遺体片のDNAが、2004年にイラク拘置施設で採取したDNAと高確率で一致」とした。(米国防総省公表資料より)

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アブ・バクル・アル・バグダディの本名はブラヒーム・アッワード・イブラヒーム・アリ・アル・バドリ・アル・サマライで1971年イラク・サマラ生まれ。2004年に反米組織に関与した容疑で拘束され、イラク南部の拘置施設キャンプ・ブッカに収容。釈放後、ザルカウィアルカイダ組織で活動。「イラクイスラム国(ISI)」指導者アブ・オマル・バグダディが死亡すると後継幹部となり、「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」を経て、2014年7月、IS指導者となり「カリフ」を名乗った。(写真左はキャンプ・ブッカ収容時の記録書類)

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国防総省での会見でバグダディ急襲作戦について説明するマッケンジー米中央軍司令官(右)を自爆死したバグダディの遺体は回収後、海に水葬にしたとしている。(米国防総省公表写真より)

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バグダディが、なぜISと対峙してきた他のジハード組織が多いイドリブ地域の、それもトルコ国境に近い奥のエリアに、彼の家族も含めて潜伏できたのか、不明な点は多い。一部メディアではシャム解放機構(HTS/旧ヌスラ戦線)から分岐した組織「宗教の守護者」(ハラス・アル・ディン/HaD)側にISが多額のカネを払い、シリア南東デリゾールを追われたIS関係者の受け入れなど依頼したとも報じられた。さらにそれを示す「書類」なる写真まで出回ったが、その書類を打ち消す情報も出て様々な憶測を呼んだ。(写真はハラス・アル・ディン・HaDの戦闘員)

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旧ヌスラ戦線のジョラニ司令官がアルカイダから離脱して組織をシャム・ファタハ戦線(2016)とし、さらに各派を糾合し再編されたのがシャム解放機構(HTS)でイドリブを中心に活動してきた。こうした動きに反発した外国人を含む過激勢力が分派し、アルカイダ系組織「宗教の守護者」(ハラス・アル・ディン/HaD)を結成(2018)。ISはヌスラ系組織を「カメレオンのように色をコロコロと変える組織」などとして、批判のみならず殲滅対象としてきた。(HaD写真より)

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アルカイダ系組織の「宗教の守護者」(ハラス・アル・ディン/HaD)とISはイデオロギー上で表面的には対立している。だが実際には裏の現場や地元の人間関係レベルでは、密輸業者(ムハリブ)などを介して協力や取引することはありうる。バグダディが潜伏していた建物も、Hadと関係のある密輸業者のものだったと報じられている。ただ、カネで警護や地域での保護を依頼したなら、カネで裏切られることも往々にしてあるのが現実ではある。(HaD写真より)

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IS掃討作戦で米軍と連携してきたシリア民主軍(SDF)のバグダディほかIS幹部の潜伏先情報は相当有力だったようだ。クルド主導勢力SDFは、これまでアメリカであれロシアであれ全幅の信頼を置くことはなく、手持ちの政治カードが限られているなかにあっても、つねに保険をかけながら動こうとしてきた。だが10月上旬、トルコはシリアに越境攻撃し、アメリカは助けてくれることはなく、テルアブヤッドとラアス・アル・アインを失うことになった。SDF側は、バグダディほかIS幹部を追い詰める局面にあってSDFは重要な役割を果たしており、これまでにIS掃討で連携したこともあわせてSDFはアメリカがトルコ軍による攻撃に一定の仲介をしてくれると踏んでいた可能性がある。その読みが誤ったか、それ以外の要素が働いたか、あるいはアメリカの約束をトランプが独断ですべてひっくり返したかは不明だが、トルコの越境攻撃とバグダディの死が重なるタイミングとなった。写真はマズルム・アブディSDF司令官(左)とマッケンジー米中央軍司令官(右)。(2019年7月:SDF映像より)

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バグダディの死から4日後の10月31日、ISは報道官アブ・ハムザ・アル・クライシの名で音声声明を公表。バグダディの死を認め、その後継にアブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クライシが就任したと宣言した。その数日のうちに、シリア、西アフリカ、エジプト、パキスタンなど各地のIS戦闘員が、バグダディの死後に新たに選出された「カリフ」、アブ・イブラヒムに忠誠を誓う写真があいついで公開された。写真はベンガルバングラデシュ)のIS戦闘員。(2019年11月・IS公表写真より)

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バグダディの死亡を伝えるクルド・ルダウニュース。シリア・イラクの一般市民はバグダディの死はISへのダメージとはなるとは思っていても、意外とそれほど歓喜が広がっているというわけではない。「バグダディが死んでも次の指導者が出てくるだけ」「IS思想が消えることはない」という声も。シリアではイドリブで続くアサド政権・ロシア軍の空爆や、シリア北部へのトルコ越境攻撃、またイラクでは反政府デモの拡大など別の問題で揺れていて、バグダディどころではないという事情もある。

【IS声明・日本語訳】バグダディ死亡、新たにアブ・イブラヒム・ハシミを「カリフ」に・IS新報道官アブ・ハムザ・クライシが発表(2019/10/31声明全文)

ISが新指導者に「忠誠」呼びかけ
10月26日夜から翌日にかけて、米軍特殊部隊がシリア北西部イドリブ近郊で武装組織イスラム国(IS)のバグダディ指導者の潜伏先を急襲し、バグダディは自爆死したと報じられた。ISは10月31日、新報道官名で音声声明を公表し、バグダディ指導者が死亡したことを公式に認め、新たに後継者を選出したとしている。今後のISの動向を知る検証資料として、以下、音声声明のテキスト全文を掲載。(一部意訳)

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今回のアブ・ハムザ・アル・クライシ声明(2019/10/31公表)要旨

(1) アブ・バクル・アル・バグダディは死亡、シューラ評議会は新たな指導者アブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クライシを「カリフ」として忠誠
(2) IS報道官アブル・ハサン・アル・ムハジールも死亡
(訳註:この声明を読み上げているのは新たな報道官アブ・ハムザ・アル・クライシ)
(3) 各地のムスリムよ、ジハード戦士よ、新指導者に忠誠を
(4) 新たな指導者はもっとすごいので、アメリカよ、覚悟しておけ
(5) 同胞よ、ムスリムの捕囚を解放し、多神教徒を殲滅し、苦難に耐え、ジハードを成就させよ

誰あろうとアッラーとの約束を果す者には
アッラーの大いなる報奨が与えられよう 

万有の御主、唯一神を信じ奉る者たちの擁護者、アッラーにすべての称讃あれ。万有への慈悲として剣をもって遣わされし預言者ムハンマドとそのご家族、ご教友に平安と祝福あれ。

崇高なるアッラーはこう仰せになった。
【とにかく現世を棄てて、その代わりに来世を獲ようと志す者は、大いにアッラーの道に戦うがよい。アッラーの道に戦う者は、戦死してもまた凱旋しても、われがきっと大いなる報奨を授けてやろうぞ】(婦人章:74節) 

おお、ムスリムたちよ、アッラーの大道ゆくジハード戦士たちよ。おお、イスラム国の兵士たちよ、そして民たちよ。教導者であり、信心篤き学者であり、信徒の長、そしてムスリムのカリフたるジハード戦士、アブ・バクル・アル・バグダディ・イブラヒム・ブン・アッワード・アル・バドリ・アル・フセイニ・アル・クライシ師アッラーよ、彼を受け入れ給え)が、ご逝去されたことを、ここに告げる。 

そしてまた、イスラム国の公式報道官、ジハード戦士、アブル・ハサン・アル・ムハジール師アッラーよ、彼を受け入れ給え)がご逝去されたことも、ここに告げる。お二方は、いずれも最近、殺害された。まこと我らが仕えたるアッラーに存し、まことアッラーに還るものである。 

アブ・バクル・アル・バグダディ師アッラーよ、彼を受け入れ給え)はジハード戦士、アブ・オマル・アル・バグダディ師アッラーよ、彼を受け入れ給え)のあとを継いで信徒の長となり、アッラーのお力添えのもとイラクでのジハードを復興させ、大シリアのムスリムを支えるため、その御手によって諸地を征服し、宗教を打ち立て、ゆえにムスリムの名誉は守られたのである。

アッラーは、ご自身の御法シャリーアを成就させるべく師をお認めになり、師がカリフ制を再興させ、アラブ世界と非アラブ世界の圧政支配者どもによって蔑ろにされてきた宗教儀礼を取り戻すべく御取り計らいになったのである。

バグダディ師こそ、世界各地の散り散りになったジハード戦士たちの衆勢を御旗のもとに結集させた御方。かくてその軍勢を率いて、あらゆる逸脱に満ちた教義に堕ちた者どもである不信仰者と背教徒に対するジハードを成した御方。

師は、アッラーの御教えに確固とすがり、退くことなく邁進し、諸敵に立ち向かいジハードを成し、アッラーの御為に死するべく、アッラーがお定めになったその時まで、困難と辛苦に耐え、敵を唾棄し続けた御方であられた。師こそそれを全うし続けた御方であり、アッラーがその審判者。

他方、アブル・ハサン・アル・ムハジール師アッラーよ、彼を受け入れ給え)は、イラクヒジュラ(移住)を成したジハード戦士の古豪のひとり。ムハンマド(祝福と平安あれ)の半島のご出身であり、アッラーの御教えの大道を進むなかで深手を負い、辛苦を経てきた御方。 

ムハジール師はその堅忍と不撓不屈を貫き、ジハードを奮闘し抜いた。先任の報道官アブ・ムハンマド・アル・アドナニ師アッラーよ、彼を受け入れ給え)の亡き後、十字軍と背教徒らに対するジハードという最も過酷な状況のなか、報道官の重責を担った。 

ムハジール師は偉大なる卿相であり、信徒の長(=バグダディを指す)の補佐であった。死のお定めを授かり、それを成就するまで、その任を全うされた。師に高い位階が授けられんことを、アッラーに請い願うものである。

高貴なるご教友のスンナ(=慣行)に従い、ムスリム同胞を結束維持し、彼らが直面する事象に相応に対処すべく、教導者を任命するのが急務とされた。イスラム国のシューラ評議会(アッラーよ、これを支え給え)は、アブ・バクル・アル・バグダディ師アッラーよ、彼を受け入れ給え)の殉教成就を確認したのちただちに会合を持った。 

ジハード戦士らのシェイク(師)は兄弟同胞らと僉議せんぎを経て、信徒の長アッラーよ、彼を受け入れ給え=バグダディを指す)の助言に従い、これに合意し、ジハード戦士かつ信心篤き学者、アブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クライシ師アッラーよ、彼を守り給え)に忠誠を誓うことに合意した。師はここに信徒の長、ムスリムのカリフに任じられたのである。アブ・イブラヒム・アル・ハシミ師のご栄耀、指麾、制覇、叡智をアッラーがお認めくださるよう請い願うものである。また、先達の兄弟同胞たちが始めたる営為を、師が良き従者を従えさせ、かつ諸地の征服を師の御手をもって成し遂げ、民心を獲得できるようアッラーに請い願うものである。 

アッラーはかく仰せになった。
【まこと、あなたに忠誠を誓う者こそアッラーに忠誠を誓う者。アッラーの御手はその者たち手の上にあり、誰あろうと誓いを破る者は、結局、己れを損なう者となる。反対にもし誰あろうとアッラーとの約束を果す者には、アッラーの大いなる報奨が与えられよう】(勝利章:10節)

かくして、各地のムスリム同胞よ、信徒の長に忠誠(バイア)を表明すべく前に進み出よ、そして師の下に集うのだ。師こそジハードの傑者、イスラム学者、正しき指揮官のひとり。アッラーの宗教を護持する先鋒であり、アッラーの敵どもに立ち向かう戦士のひとりである。勇者らの戦場や故郷のいずれもが、師の姿を目にしてきた証人。十字架の護持者たるアメリカと戦い、辛苦を耐え抜いてきた師こそ、いかに戦うかを何かを知り尽くし、また術策に長けた御方。 

ゆえに、アメリカよ、お前たちはバグダディ師の死に歓喜などできぬし、バグダディ師アッラーよ、彼を受け入れ給え)の御手による死を忘れえぬ。アメリカよ、今日、いまやイスラム国はヨーロッパの戸口へと至り、中央アフリカの入り口にまで足音を響かせているのがわからぬか? アッラーの御許のもと、さらには東西の方々にわたって、広がり、残り続けているのである。訳註:タタムダッド(広がる)とバーキヤ(残る)という言葉が盛り込まれている。「永劫に残り続け、広がる」はISが掲げてきたメインスローガン) 

お前たちがイスラム国に対する戦争を終わらせたとする、それ以後の状況をわかっていないのか? 朝に話したことが、その日の終わりには変転する朝令暮改のあの役立たずの老いぼれ男訳註:トランプ大統領を指す)にお前たちの命運が振り回されているのを、諸国民が笑いものにしているのをわからぬか?

浮かれ騒ぎ、うぬぼれるな。お前たちがかつて経験した困難をはるかに凌ぐ者が、アッラーの御意のもと、お前たちの前に現れたのだ。バグダディ師アッラーよ、彼を受け入れ給え)を倒したのは容易たやすいことだったと思わせるほどのことが到来しよう。 

すべての県(州)のわが兄弟同胞には、忍耐をもって、かつ諸君らがアッラーから授けられる報奨を願い、自身の信仰とジハードに確固とすがり、ムスリムの一叢とその教導者たる師に己れを繋ぎとめ、不信仰者と背教徒に対する諸君の教導者と兄弟同胞のための報復に執心すべく呼びかける。

信徒の長アッラーよ、彼を受け入れ給え=バグダディを指す)の最後の音声メッセージで示されたご意志を満たすべく尽力するよう呼びかける。それはムスリムの捕囚を獄舎から解放し、抑圧されし者にかけられた不正義を取り除き、この宗教に依って立つべく民を力強く招請し、多神偶像崇拝者を流血の淵へと叩き込み、我らが御主の御元にいっそう近づき、ジハードを成すなかにあって、アッラーにまみえるまで不撓不屈で耐えるのだとするメッセージである。 

崇高なるアッラーはかく仰せになっている。
【同志としてともに戦う人びとを有った預言者がその幾人あったことか。彼らは神の道での戦いのためならばどのような目に遭っても意気阻喪せず、弱気にならず、決して志を屈しなかった。アッラーは忍耐強い人びとを好み給う。彼らの口にする言葉といえば、「主よ、数々の我らの罪を赦し給え。我らの行き過ぎた行いを赦し給え。願わくば我々のあしをしっかと立たせ、信なき者どもに対して我らを助け、勝利に導き給え」と言うだけであった。さればこそアッラーは彼らに現世での報酬も、来世の素晴らしい報酬をも与え給うた。アッラーは善なす人びとを好み給う】(イムラーン家章:146-148節)

万有の御主、アッラーにすべての称讃あれ。

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今回の音声声明は全編 7分35秒。画像はIS機関紙ナバア第206号(2019/10/31付)が掲載した声明全文。10月31日の音声声明は、アブル・ハサン・アル・ムハジール後任の新たな報道官、アブ・ハムザ・アル・クライシが音声メッセージとして読み上げる形で発表された。声明のタイトル「誰あろうとアッラーとの約束を果す者には、アッラーの大いなる報奨が与えられよう」は、クルアーン:勝利章:10節から。

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バグダディ同様、新「カリフ」アブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クライシと、新たなIS報道官アブ・ハムザ・アル・クライシともいずれも「クライシ」の名が付いている。ムハンマドの出身部族とされるクライシュ族を意識し、その「正統性」と権威を示そうとする意図があるとみられるが、信憑性に乏しく、実際にISの2人がクライシュ族とつながりがあるのかどうかの根拠も不明。

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声明で出てくるシューラ評議会とは、ムタイヤビーン同盟がスンニ諸部族などを招集して構成する評議会。ムタイヤビーン同盟はムハンマドの諸部族の時代にさかのぼるもので、ISは勝手にその名を冠し、歴史的、宗教的な「正統性」を持たせようとしている。2006年のザルカウィ死後、同様のシューラ評議会が招集されイラク聖戦アルカイダ(AQI)が「イラクイスラム国(ISI)」となった。写真はその際の映像からで「ムタイヤビーン同盟に参集のジハード戦士指揮官らと諸部族長たち」とある。シリア内戦後の台頭で「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」、さらに「イスラム国(IS)」となり、バグダディが「カリフ」を名乗る。今回も同じ手順で新たな「カリフ」が選出された形をとっている。(写真は2006年10月公開されたISI結成時のムタイヤビーン同盟)

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声明では、これまで正体や出身地が不明だった前任のIS報道官アブル・ハサン・アル・ムハジールが「ムハンマドの半島出身」(=サウジアラビアを指す)と紹介され、サウジ出身者だったことが明らかとなった。これまで米テキサス出身のジョン・ジョルジェラスではないかとの説なども出回ったが、今回、ISが正式にアブル・ハサンをサウジ人と公表したことになる。(画像はナバア第206号より)

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アブル・ハサン・アル・ムハジールが死亡したのはシリア北部ジャラブロス近郊のアイン・アル・バイダ村。クルド主導のシリア民主軍(SDF)が追跡を続け、米軍や情報機関に潜伏位置情報を提供。イドリブでのバグダディ急襲作戦の数時間後、ジャラブロスで米軍が空爆作戦を遂行し、アブル・ハサンを殺害。彼が大型輸送トラックで移動中にピンポイント爆撃したとされる。
(写真を公表したのはSDFアドバイザー、Bahtiyar Umut)

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バグダディ死亡から、新指導者選出と発表までわずか4日であることから、事前に死を想定して準備をしていたとも考えられる。(2019年4月・IS公表写真)

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ISは各地の戦闘員が新指導者に忠誠を誓う映像をあいついで公開。写真はシリアからの忠誠とし、右手を重ね合わせて忠誠を誓っている。(2019年11月・IS公表写真)

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11月4日には、トルコが支援するシリア反体制派エリアのアザーズでバグダディの姉夫婦と義理娘をトルコ当局が拘束。写真左端がバグダディの姉ラスミヤ・アッワード(65)。コンテナの中にいたところを夫と義理娘と拘束、一緒にいた子ども5人も保護と報じられる。トルコ当局は「情報の宝庫」とし、3人の尋問を開始とメディア報道。写真の撮影日時は不明。(トルコ当局公表写真)

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バグダディ急襲とアブル・ハサン殺害にはSDFの情報部門が追跡を続け、米軍が追い詰める形となった。一方、バグダディの姉を拘束したトルコ当局だが、このタイミングにあわせての拘束劇だったかは不明。トルコと対峙するSDF系のメディアは、「トルコは以前から姉の場所を知っており、政治的タイミングを計算して拘束を発表」とする論調で報じている。

【IS・バグダディ死亡】トランプ米大統領「バグダディの死について」声明(2019/10/27)日本語訳・全文

「バグダディは犬のごとく死んだ」トランプ大統領が成果アピール
トランプ米大統領は、10月27日、特別声明を発表し、武装組織イスラム国(IS)のアブ・バクル・アル・バグダディ指導者がシリア北西部で死亡したと発表した。米軍特殊部隊が潜伏先の建物を急襲、地下トンネルに逃げ込んだところを自ら自爆死したとしている。以下、トランプ大統領の声明全文。(一部意訳)

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10月27日、トランプ米大統領は、ホワイトハウスで特別声明を発表し、「バグダディの死」について説明した。米軍特殊部隊によるバグダディ潜伏先急襲作戦が遂行されたのは10月26日深夜から27日にかけて。(ホワイトハウス公表映像より)

アブ・バクル・アル・バグダディの死に関する大統領声明
 (トランプ大統領ホワイトハウス・2019年10月27日) 

昨夜、合衆国は世界最悪のテロ指導者を正義の裁きにかけました。アブ・バクル・アル・バグダディが死んだのです。彼はISISの創始者であり、首魁でした。世界で最も残忍で暴力的なテロ組織です。合衆国はバグダディを何年も捜し続けてきました。バグダディの拘束、あるいは殺害が、私の政権にとって国家安全上の最優先事項でした。米軍特殊部隊は任務を達成するため、危険かつ大胆な夜襲作戦をシリア北西部で遂行したのです。 

米軍側に負傷者はいません。一方、バグダディ側の戦闘員とその同伴者らは彼とともに死亡しました。バグダディはトンネルの行き止まりに走りましたが、呻き、泣き叫びながら死にました。ほか、そこにいた者は降伏するか、銃で殺すかの形で、建物は制圧されました。幼い子ども11名を無傷なまま建物から移動させました。バグダディとともにトンネルに残っていた子ども3人は、死亡しました。訳注:後日、米中央軍マッケンジー大将は2名と訂正) 

我々の犬たちが彼をトンネルの行き止まり追い込みました。彼は自爆ベストを自ら起爆させ、自身と3人の子どもが死亡したのです。爆発で彼の死体はバラバラになりましたが、調べた結果、明確に身元を判明するに至りました。これまで脅威を振りまくのに必死だったあの大悪党は、米軍部隊を前に恐怖に慄きながら、錯乱と怖気のなかで最後の瞬間を迎えたのです。

わが方は約2時間にわたって建物内にいたのち、任務を達成し、急襲によって得られた高度で貴重な押収品と情報を持ち帰りました。バグダディの死は、アメリカがテロ組織の首謀者たちを徹底的に追い詰め、ISISを永続的かつ完全なる壊滅へ向けた我々の決意を示すものです。 

アメリカはどこであろうと追い詰める力があるのです。周知のように、最近、私たちはオサマ・ビン・ラディンのひときわ凶暴な息子、ハムザ・ビン・ラディンを殺害したことをお知らせしました。ハムザ・ビン・ラディンアルカイダの後継者でした。罪なき人びとを抑圧し、殺戮するテロリストたちを決して安眠させはしませんし、私たちが必ずや完全に壊滅させることをわからせるべきです。この残忍な怪物どもがその運命から逃れることはできず、神の最後の裁きからも逃れることはできないのです。 

バグダディは何年にもわたり逃亡し続けてきました。私が政権に就く以前からです。私は最高司令官として指揮し、合衆国は彼の「カリフ国」を今年の3月、壊滅しました。今日に出来事は、ISISの残りのテロリストたちを容赦なき結末に追い込むことを継続することを改めて確認するものでもあります。バグダディや彼ととともに活動した負け犬たち、-ときに自分が何をしているか、その危殆な所業や無意味さに理解の及ばない者たち-が、多くの人を殺してきたのです。罪なきアメリカ人、ジム・フォーレー、スティーヴン・ソトロフ、ピーター・カッシグ、カイラ・ミュラーの殺害については、とりわけ凶悪極まりないものでした。

ヨルダン人パイロットが檻の中で焼殺される映像を(ネットで)見せるといった衝撃的な公開殺人、そしてエジプトやリビアでのキリスト教徒の殺害、ヤズディ教徒の集団虐殺など、ISISは歴史上、最も残虐な組織と位置付けられるでしょう。改宗の強制や、斬首前にオレンジの囚人服を着せるなど、いずれもが世界に(ネットで)公開されてきました。これらはすべてアブ・バクル・アル・バグダディの所業によるものです。彼は悪辣で暴力に満ちた男であり、それにふさわしい死に方をし、死に際しては臆病に怯え、走り回り、泣き叫びました。

この急襲作戦は完璧な形で遂行され、各国と人びとの承認と支援がなければ達成されなかったでしょう。ロシア、トルコ、シリア、イラクに感謝したい。また私たちに特定の支援をしてくれたシリア・クルド勢力にも感謝したい。この非常に成功裏に達成された作戦の道のりを支えてくれた偉大なる情報機関のプロたちにも同様に感謝したい。昨夜の作戦に参加した兵士、海兵、航空兵、海兵隊員に感謝したい。諸君は世界でも最良のメンバーである。マーク・ミリー将軍と統合参謀本部に感謝したい。またこの作戦の成功に欠かすことのできなかった合衆国政府の他の諸部局で活動するプロフェッショナルたちにも感謝を表明したい。 

昨夜は、合衆国、そして世界にとって大いなる夜でした。あまたの災厄と死をもたらしてきた残虐非道な殺人者は、二度と罪なき男女、子どもに危害を加えることのできぬよう、実力をもって抹殺されたのです。彼は犬のごとく死にました。彼は臆病者のごとく死にました。いま、世界はより安全となりました。
アメリカ合衆国に神の祝福のあらんことを!

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バグダディが潜伏していた場所は、シリア北西部イドリブ県ハレム近郊バリシャ村。トルコまでは約5キロの距離。クルド主導のシリア民主軍(SDF)情報部門が米情報機関などに連携して情報提供し、潜伏場所を特定したとされる。

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バグダディ潜伏先の急襲作戦は米軍特殊部隊が遂行し、ヘリ8機が投入された。中央下に建物に突入する特殊部隊が見える。建物内にはバグダディ側の警護要員のほかバグダディの妻と子どもがおり、妻は死亡。現場にいた児童11人は保護、バグダディとともにいいた子ども2人が爆発で死亡と報道では発表されている。(米国防総省公表映像より)

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ホワイトハウスの緊急対応室(シチュエーションルーム)でバグダディ急襲作戦の状況を見守るトランプ大統領。ペンス副大統領とエスパー国防長官や軍高官ら。(ホワイトハウス公表写真より)

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バグダディ潜伏先を急襲した米軍特殊部隊は軍用犬を投入。トンネルでバグダディを追い詰めた、とされる。トランプ大統領ツイッターで写真を公表し、「素晴らしい仕事をしてくれた」とその活躍を称讃。

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オバマ政権時の2011年には米軍特殊部隊がパキスタンアルカイダビンラディン殺害作戦を遂行し、成功している。(オバマ大統領ビンラディンの殺害声明)トランプ政権は大統領弾劾の動きや来年の大統領選挙などもあり、IS指導者バグダディ死亡は大きな政治アピールともなった。写真は今年3月、ISがシリア南東の最終拠点、バグーズで敗北した際、オバマ時代と最新のIS勢力を示す地図の比較を見せ、自分が大統領に就任し、ISを壊滅させたアピールするトランプ大統領。(2019年3月・ホワイトハウス公表映像より)

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左はスピーチ中にIS勢力図の比較地図を持ってこさせたところ。当時、遊説先などあちこちで見せてまわり、地図がしわしわになっている。地図の上の赤い部分がかつてISが支配していたエリア。「私の政権が“カリフ国”を壊滅させた」とし、自身の成果を強調。(2019年3月・オハイオ州の戦車製造工場での演説・ホワイトハウス公表映像より)

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バグダディ追跡にはシリア・クルド勢力主導のシリア民主軍(SDF)が米情報機関と連携し、潜伏先特定につながったとされる。トランプ大統領場バグダディ死亡を「成果」とアピールするが、10月上旬にトルコがシリア北部クルド地域に越境攻撃した際は、IS掃討戦で協力したSDFを見放し、結果的に「裏切る」形となった。クルド側が今後、アメリカにどのような姿勢をとるかも注目される。写真は今年7月、シリアを電撃訪問したマッケンジー米中央軍司令官(右)とマズルム・アブディSDF司令官(左)。(2019年7月・SDF公表映像より)

【番組案内】 2019年10月26日(土) 報道特集 (17:30~18:50) TBS系列

裏切られたクルド~緊迫・トルコ軍の軍事作戦・シリア現地報告
2019年10月26日(土)17:30~報道特集(TBS系列)
トルコ軍とシリア・クルド勢力との緊張が続く国境地帯。過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いでクルド勢力と連携したアメリカは、トルコとの対峙を抑制してきたが、トランプ大統領は突然、方針転換し、国境地点の米軍部隊は撤収した。これを受け、シリア・クルド勢力を「テロ組織」とみなすトルコが今月9日、越境攻撃を開始。空爆や砲撃で住民の死傷者があいつぎ、十万超が避難民となって戦闘地域から脱出した。シリア勢力図を塗り替え、IS残存勢力の掃討作戦にも影響を与える今回の越境攻撃。トルコの軍事攻撃にさらされる住民は、「トランプはクルド人を裏切った」と憤る。IS支配の傷跡やIS掃討戦の状況も交え、緊迫のシリア現地から緊急報告する。(シリア現地取材・アジアプレス=玉本・坂本)

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シリア北部での米軍・トルコ軍の合同パトロール。この5日後、米軍は国境地点から突然撤収し、トルコ軍がシリア北部に越境攻撃を開始した。(シリア・テルアブヤッド)

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トルコ軍の空爆で負傷した女性。夫は亡くなった。(シリア・テルタームル)

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戦火に包まれたラス・アル・アインから逃げてきた家族(シリア・ハサカ)

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トルコ軍の空爆で負傷したシリア民主軍側の戦闘員。(シリア・テルタームル)